修羅ら沙羅さら。——小説。2


以下、一部に暴力的な描写を含みます。

ご了承の上、お読みすすめください。


修羅ら沙羅さら 

一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部


蘭陵王第一



かクに聞きゝアボカド若樹又アボカド若樹とマンゴー大樹又マンゴー大樹に觀ジたる他人の交歓の觀壬生みづからにも奇想に思ハれ又あやしく想ハれ又まサに正シくとこソ思はレてアりき時にあやしいほどに七月なりて七月ハあさましいほどにもスでに深かシ此ノ時あやしいほどにうつくしい日本に夏ノ盛りハ遂に兆さレをはりなんあやしいほどにベトナムに盛夏ハ既に盡きゝこレより後あやしいほどにもやゝゆルやかに年ノ暮れ行くあざやかに乃ミなりダナンあざやかなほどにも十一月に一氣にあざやかに気温を落とセり是れあざやかすぎるほどにも二十度前後なリきあやしいほどに是れまサにこコのちるしぶき嚴寒ノ季節なラん此レあざやかに厥レちるしぶきこゝの亞熱帶ノ都市なルがゆゑに也あやしいほどに此の時壬生ハあざやかに散るそのはにしぶきすデに半年無職なりて此ノ時職なき儘なりキ是れひまつ三月比にあやしいほどに蔓延化シ始メたるひまつ新型コロナがはなにひまつ影響ナり壬生元日本語敎師なりキ一度はなのひまつちるはのつゆのしぶき騒ぎ鎭化し得をハりたル六月末そのなかに二カ月の休職アケに失職せりそのなかにベトナム人社長まなざしのそのなかにちるひまつそのしぶきのひまつの詫びテ壬生笑ミて赦シ又笑ミかへシて彼ヲしぶきその行く末ヲ彼ノ爲に案じキ所謂あやしいほどに送り出シ會社なりキひまつとびたまちるしぶき學生タるベトナム人悉クはのしずくのひまつたまちりしぶきちり日本渡航なし得ず又そノあやしいほどに見通しなクゆゑにはなのうえのつゆはちり会社が収入途絶へけルはのうえにつゆはたまちった儘なりテかルがユゑにさめたまなざしがみたその高給の外國人を養ふ躰力すでに會社にしぶくはとはのうえのつゆはしぶきあラざりきこノとキすデにそのしぶきちりそしてたまちりベトナム法人半年近き無収入のまなざしのなかにひまつはちり慘狀なりきとび又とびちり市中ノ經濟復興本格化し得ざりテあめのあとのはのうえに又たまちる失職すル人多く又職なき日本人あやしいほどにはなのうえにも溢れカくて日本人ラ大半すでに日本に歸りキあやしいほどに壬生が妻ベトナム人なレば壬生そノ儘あやしいほどに異国に留まりキ妻賢シかれバ壬生ノ現狀にあやしいほどに何ノ不滿を言うも無カりき是れあやしいほどに時勢ノ當然なルゆゑナりすでにあやしいほどに壬生も嬬も知レりなにもカにもあやしいまでに停滞するはたダ理なりと又あやしいほどにすデに觀じキまさにあやしいまでに目にも理見えテ視えテ覩えテ觀えむシろ笑フがほどにも理あザやかに理に過ぎテて理なりてかくてその7月のそノ24日のそ乃朝壬生妻をかノ女の働ク會社にバイクに送りき是れあざやかにもうつくしく日常の常なりてテかの嬬が名ユエンなりこノ女あざやかに流通系企業ノ經理なり又あざやかすぎて所謂日系企業なりてかクてあざやかに壬生送りをはりて返りにゴックが家にあざやかに寄りきあざやかすぎて金曜日なりきゴックは休みなりきかくてあざやかにしぶけ

むさいげんなまでにもそのすゐてきら

たばしりしぶけ

嘗てノ同僚なりて今かの女週四日の出勤シか許サれズあざやかに敎師もさめたまなざしは事務員も悉く同じさめたままのまなざしは待遇なりきあざやかに給料半減サれたり是レさめたままのまなざしはひとりゆめのようにエンジニアのあざやかになス術も無し又抗うスべもなくてゴックはゆめのように壬生にゆめのようにさめてみた逢へるをあざやかに素直にゆめのように喜びきかくてさめてみたあざやかなひまつ後この日夕方ユエン歸りて蟹股ノすり足に步ミよりあざやまに步ミ寄りテ壬生にあざやかに言さくふたタび又ひまつちりたまちりしぶきコロナ發見サれたりトそノ英語はのうえにそして殊更に大げさナ身振りに飾ラれキ又手振りにはとはなのうえにそのつゆの煽ラれキ表情すデにシて雄辨ナりテ壬生あざやかにしぶきちり女乃ひとり面白がりヲりタれるにも觀じき壬生あざやかにしぶき知レりかの女本氣でおびえテをりキ又さめたままに知れりかの女殊更にさめたままのまなざしに案じてをりき又みたそのひまつ知れりかの女容赦なきまでおのゝきてありきダナンにあざやかに1人發見されおよそ50人あざやかすぎて今日隔離されたりさめたままに是市中感染なるゆゑなりユエンさめたままにみるさめたままの彼にかくに云しき怯えてまなざしはさめたままにゆめに案じおのゝきてスマートホンを弄り続ける妻をあざやかにソ乃日は壬生はしぶくしずくのひまつ抱かザりきたまちり背ムけタる肌にしぶくゆめの唇ヲふレ息にのミ笑ひさめたままにゆめにユエンき附かズかくテ頌シて

   あなたに話そう

    笑う

   まさにあなたの爲に話そう

    そしてゴックは

   夢を見て、——と

    笑うのだった

   その夢を見てめざめたのだと私は想った。わたしは

    まるで

   色のさまざまの色と、そのかたちのさまざまのかたちを匂いさえ伴ってみていたのだった、と。

    自分がいやらしい女であるかのようにも

   確実に、目を開いた瞬間にはそう思って居た筈だった

    いやらしいこゝろで

   もはや影も名殘も何もなくて、その深い午前に、私は二度目に目覚めた

    ゴックは胸の上に

   十一時近くに、まどろみから。

    笑う

   かたわらに女が笑った。

    聲を立てゝ

   最後まで行きつきもしない儘に、途中やめでやすんで、いつのまにかやめて、そしてかたちのないうたゝ寢におちる

    その息を

   そんな(——いつものように)一方的な不作法を咎めもしないで

    吐かれる息を

   女が(——いつもくりかえされたように)笑った息を立てた。

    さまざまに

   息が(——いつも)かかった。

    みだして

   肌が爬虫類のように(——いつでもくりかえされたように)敏感だったら。

    くずして

   例えば蛇のように(——まさにそのひも)敏感だったら。

    まるでいやらしい女のようにも

   木漏れの翳りの中の、濁った白色の蜥蜴のように、せめてその(——こゑを)複眼の視野のように敏感だったら

    見た。ゴックは

   わたしはその温度に(——こゑになるすんぜんの)気付いただろうか?

    わたしを顯らかにいやらしい発情した生き物として

   その生き物の(——いきづかいを、)温度に

    肌は瑞ゝくて

   それはゴックだった

    張りをもつ

   すでに、わたしの肌に——額の。頬の。鼻先の。唇の先の。顎の先の。…女の髪が懸かっていた

    ゴックの肌は、未だに

   眼差しの右の傍らに片肘の、半身覆いかぶさったゴックの翳りは逆光のなかに

    なめらかなままに

   見えていた。その色も

    潤いをかんじさせる儘に

   その形も。あられもないほど

    殊更に

   温度のある肌が匂った

    いやらしいものゝように装って?

   かすかに笑った息の、その吐かれた臭気ともない匂いの、いやでも無ければこのましくもない

    さまざまにふれた

   匂い。ただの、生き物の体内の淺いところがうつした無穢ではない

    いじるように

   匂い。——眠いの?

    たわむれるように

   ゴックが殊更に甘えた日本で(——妻は)言った。

    わたしの肌を

   眠くて、(——ユエンは、)眠い?

    なつかしむように

   自分の聲に(——日本語が話せない。英語で、)こびるようにして。だから(そして)ゴックは聲に戯れた。

    ひとりあそびをするうかのように

   私は(すこしのベトナム語で、)目を閉じようとした。

    なじるように

   ——知ってる?

    わたしの肌の

   私は云った

    そのかたち、あるいは

   ——樹ってさ、…あれ、言葉、話すよね?

    色を

   ——え?(、と。ええ…?、と。え、えー?、と。え、…ぇえー?、と。えぇ?、と、)

    触感を

   と。

    いじめるように

   極端にながくのばして、そしてゴックは軈て笑った

    処罰するように

   笑ったからだがゆれ、ゆすられたゝびに髪が(って?…え?)皮膚を(え、ええ…)くすぐった。わたしの(…え、)皮膚を

    茫然としたように

   その、たとえば額の

    いきなりに

   たとえば頸の

    我に返ったかのように

   たとえば胸元の

    確認するように

   たとえば頸の付け根の

    指先に

   たとえば顎の

    その温度を

   たとえば唇の

    触感を

   或は額の

    そのかたちを

   ——なに?…話さないよ。

    その色をまでも?

   ——話すよ。

    豐満な女

   ——夢見たの?夢見てるの?

    笑うしか無い程に

   ——見てない。

    あきらかに

   ——お伽話なの?(——むずかしい日本語、知ってるね?——簡単だよ。)

    肥滿の手前に

   ——100%現実。

    肉のいやらしさをもて余す

   ——ジブラの映画だね。

    いやらしを擬態して

   わたしが目を開くと、女はふと羞ずかしげな媚を眼差しに、これみよがしに撒き散らした。

    ゴックは耳元に笑った

   ——たぶん、…言葉以外で、なんか…どうにかして、あれ、話してると想うな。

    わたしの耳元に、不意に

   ——わたし、わからないよ。

    聲をかけたかのように(驚かせようと?)

   ——意識。それが常に俺たちが知るとおりの形式だとは限らない。むしろ、俺たち意識の方こそが例外的な形式であって、

    わたしにだけ

   ——難しいね。

    聲をかけたかのように

   ——何が?

    いやらしく

   ——日本語が。

    いやらしさを擬態して

   ——俺は、かれら、話してると思うよ。

    感じたあとに

   ——言葉で?

    内臓の中に

   ——言葉じゃない言葉みたいなもので。(…あるいは人間だってさ、言葉以外の…——そう?)

    そのかたちを

   ——だったら、(——感じ合う、そんなことも、)日本語だよ。

    觀じたあとに

   ゴックは云って、(——…じゃない?)そして笑い、笑い(——なにそれ?)訖る前に、そして(——ん、)かの女は云った。

    その温度を?

   ——たぶん日本語話してるんだよ。

    温度の輪郭のように感じられた、くっきりとした

   ゴックは執拗に指先でわたしをいじるのをやめなかった(樣ゝな細部に至るまで)

    かたちを

   暇つぶしのように(——すべ、す、すべ、すうべしてるよ。——そう?——いい匂い。)

    もうすぐ三十になる、と

   取り敢えずはそれ以外に持て餘された時間を(そう察知)やり過ごすすべなどないかのように(——いい匂いするね。)

    ゴックの唇はそう云った

   ないし、それが愛の、(そう察知してしまった)…その形式の、取り敢えずのひとつのかたちであるかのように

    いやらしく

   ゴックは(そう察知してしまったかのように)5年近く日本に留学していたと云った。

    擬態して

   二年遅れて弟も日本に留學した。すでにして

    自分のいやらしさを擬態して

   それなりの資産家の娘だった。資産家の、箔をつけようとした

    自分でだけ

   来年、ないし再来年?いずれにせよCovid19の後でベトナムの資産家の娘が世界のどこのを選ぶのかは知らない。

    わたしのいやらしさをこそ描き出して

   もはや日本ではないのかもしれない

    ひとり、自分でだけで

   移動不能な中國との解決しがたい長い永い領土関係のせいで、結局は近隣の日本なのかも知れない。

    何度も(そして何度も)ゴックは聲を立てた

   あるいはファン・ヴォイ・チャウの頃から變らずに?…日本から迎えた、

    いつでも、(何度も)かの女は(何度もかの女は)

   あるいは迎えられた日本で會った、相変わらずの啓蒙家気取りの莫迦なジャップに時に喰いものにされながら?

    わたしのかたちを胎内に(いつでも、何度もかの女は)

   わたしのように…穢れもののように?喰いものにする、必ずしも飢えた譯でも無い善良な餓鬼どもに貪られながら?

    感じつづける時の

   かわいらしく肌の白いゴックは三年前にベトナムに歸った

    つづくかぎりに

   二年遅れの弟と一緒にだった

    獸の咆哮じみた濁音

   日本語のかわいらしく肌の白い教師を始めた

    死にかけの獸の

   弟はサイゴンで働いた。専門は、…土木?…都市開發?

    死に懸けて、更に憎惡と恨みを忘れない

   家をダナンの海邉に買った。

    むしろあざやかに際立てた

   弟はクアン・ナムの山際の実家を新築した。

    そんな濁音

   大阪の人々を語った。

    その短い微弱音の連續

   むかし、日本のホテルでバイトをしていた

    喉に

   日本人はいい人だ、と。かわいらしく肌の白いゴックは色目遣いの生徒にそう云った

    何かを真似しているのだと思った

   日本人が来たら緊張したと私に云った。(——怒られた?——ん?やさしいよ。)

    いやらしさを装って

   日本人は(——やさしいけど、)みんな嚴しいからと(——緊張するね。)云った。

    無様なそれは

   ベトナムでは(——うるさいから?)だれもが(——莫迦だから?)新型コロナを嫌悪する。(——ん?)

    どこかのだれか、…日本の?…を。例えば。眞似したのだと思った

   ベトナムでは(——やさしいよ。)だれもが新型コロナを恐怖する

    喉に鳴り続けるそれは

   日本人って、怖くないの?

    その無様なだけの音響は

   ヤンが云った。彼は

    いやらしさを擬態させて

   送り出し会社の専務だった

    ゴックは笑う

   日本人って普通だね。…ヤンは云った

    わたしの上で

   政府って何もしないよね。…ヤンはそう云った

    倒れるように身を伏せて

   日本人って、何もしないよね。…ヤンは云った

    その豊満さをおしつぶす

   日本人って、怖くないの?…ヤンはそう云った

    いやらしを擬態して

   鮮明な輕蔑と懐疑の形式で。(——でも、)

    肥満の手前の豊滿さを

   わたしの腕が彼女を(——いい国だね。日本は)やさしく押しのけようとしたときに、ゴックは不意に不安をさらした

    壬生先生、何歳?

   その眼差しに(赤裸ゝなまでに?)

    おもいだしたように云った

   赤裸ゝに

    唇に

   ——なに?

    わたしの瞼を盗んだあとで

   と。

    四十五

   そう聞いたのは私の方だった

    答えた私にゴックは笑った

   ——どうしたの?

    見えないね

   ——どこ行くの?

    若いね

   ゴックは私に(…窺うように)尋ねかけていた

    日本人だから?

   怯えた色のあるささやき聲を(…猜疑と懐疑)以て(鮮明な)

    外人は若く見えるね

   立ちあがったわたしは彼女を見下ろしていた

    あどけなさを擬態して

   彼女のベッドの上で、ゴックは身をあお向けて、あくまでもだらしない儘に四肢を広げた

    ゆがめた

   トイレ、…と(その豐満な、肥満手前の)

    唇と頬を

   そういいかけて私は、返り見て、見て、そして云った。笑いかけて

    ほほえみを擬態して

   ——ジブリ。(——何?)…おとぎ話な映画。(——え?)…は、あれ、ジブリ。

    笑んで笑った

   聞いて、聞くともなく、軈而条件反射のように女は笑い声を(媚びた笑い聲を)立てた

    ゴックは素直に

   抱かれて、女は(ゴックは素直に)幸せだった。あどけないまでに

    ほゝ笑んでわたしの








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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