佛典・法句經(ダマパンダ)・荻原雲來譯/第十一老耄の部、第十二己身の部
法句經
荻原雲來譯註
第十一 ‘老耄の部
[註、 老耄、訓ろうもう。字義老い、老いさらばえる
一四六、何を笑ひ何ぞ喜ばん、(世は)常に‘熾然たり、汝等黑闇に擁蔽さる、‘奚ぞ燈明を求めざる。
[原註、熾然——世の一切萬物悉く無常にして滅壞するを火の熾んに燃ゆるに譬へたるなり。
[註、 熾然、訓しねん。字義さかん、火が盛んに燃える
[註、 奚ぞ、訓なんぞ。字義どうして…や、反語文
一四七、見よ、雜色の‘影像は積集せる瘡痍の體なり、痛み、欲望多し、此に堅固常住あることなし。
[原註、影像——身體の謂にして其堅實の自體なきを譬ふ。
一四八、此の容色は衰ふ、病の巣なり、敗亡に歸す、臭穢の積集は壞る、生は必ず死に終る。
一四九、秋の(棄てられたる)瓢の如き、此の棄てられたる、灰白の骨を見て何ぞ‘愛樂あらん。
[原訓、愛樂、あいげう
一五〇、骨を以て城とし、肉と血とを塗り、中に老と死と‘慢と‘覆とを藏す。
[註、 慢、訓まん。〔梵〕Māna。字義慢心、驕り、他を見くびる等
[原註、覆——自罪を隱藏するを云ふ。
[註、 覆、訓ふく。〔梵〕mrakṣa。字義隱匿す、かくす
一五一、王車の美はしきも必らず朽つ、身もまた是の如く衰ふ、但だ善の徳は衰へず、これ善士の互に語る所なり。
一五二、愚人の老ゆるは牛の(老ゆるが)如し、彼の肉は增すも彼の慧は增さず。
一五三、吾れ‘屋宅の作者を求めて此を見ず、多生の輪廻を經たり、生々苦ならざるなし。
[原註、屋宅——變化的生死の存在を喩ふ。
一五四、屋宅の作者よ、汝は見られたり、再び屋宅を造る勿れ、汝のあらゆる‘桷は折れたり、棟梁は毀れたり、心は造作すること無し、愛欲を盡し了る。
[註、 桷、訓たるき。語義木造建築構造体
一五五、淨行を行ぜず、壯にして財を得ずんば魚なき池の中にて衰へたる‘鵝の(死する)如く死す。
[註、 鵝、字義がちょうか雁
一五六、淨行を行ぜず、壯にして財を得ずんば往事を追懷して臥す、‘敗箭の如し。
[註、 敗箭、箭字字義矢、敗れへし折れた矢
第十二 己身の部
一五七、人若し己を愛すれば‘須らく善く愼みて己を護れ、智者は三時の中一たびは自ら省みる所あるべし。
[註、 須く、訓すべからく
一五八、初めに自ら應爲に住すべし、而して後他人を‘誨へよ、(斯くする)智者は煩はざらん。
[註、 誨る、訓おしえる
一五九、他に誨ゆる如く自ら剋修すべし、(自ら)善く調をさめて而して後能く(他を)調む、己を調むるは實に難し。
一六〇、己を以て主とす、他に何ぞ主あらんや、己を善く調めぬれば能く得難き主を得。
一六一、自の造れる、自より生ぜる、自に因る罪は愚者を壞る、猶ほ‘金剛の寶石を(壞るが)如し。
[註、 金剛、語義ダイヤモンド
一六二、人若し少しも戒を持たずんば、‘蔓の滋れる沙羅樹の如く、自ら敵の欲するまゝに擧動ふるまふ。
[原註、蔓の滋れる沙羅樹——多くの蔓草に纏はれたる沙羅樹は枯るゝが如く、
人若し少しも戒を持たずんば己を亡ぼす、これ怨敵の欲樂する所なり。
一六三、不善と己を益せざることは爲し易し、益し且善くある事は甚だ爲し難し。
一六四、尊き如法なる聖人の敎を譏る愚人は惡見に據る、彼は劫吒迦樹の如く果熟すれば己を亡ぼす。
一六五、自ら罪を造りて‘汚れ、自ら罪を造らずして自ら淨めり、淨不淨は己に屬す、他に由りて淨めらるゝことなし。
[原註、汚れ——惡の果報を受くるを云ふ。
一六六、他を利することは如何に重大なりとも、己を益することを‘廢むべからず、己の本分を識りて恆に本分に專心なれ。
[原訓、廢む、やむ
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