秋篠月淸集卷二院第三度百首/藤原良經
秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]
秋篠月淸集二
院第三度百首
春
おしなへてけさはかすみのしきしまやゝまともろひとはるをしるらし
おちたきついはまうちいつるはつ瀨かははつはる風やこほりとくらむ
よしのやまゆき散るさともしかすかにまきの葉しろきはるかせそふく
ときしもあれはるのなぬかのはつ子の日わかなつむのにまつをひく哉
うくひすのはねしろたへにふるゆきをうちはらふにもうめの馨そする
つまこふるきゝすなくのゝしたわらひしたにもえてもはるをしるかな
のもやまもおなしみとりにそめてけりかすみよりふるこのめはるさめ
わたのはらくもにかりかねなみにふねかすみてかへるはるのあけほの
津のくにのなにはのはるのあさほらけかすみもなみもはてをしらはや
さらしなやをはすてやまのうすかすみかすめるつきにあきそのこれる
やまさくらいまかさくらむかけろふのもゆるはるへにふれるしらゆき
たれをけふまつとはなくてやまかけやはなのしつくにたちそぬれぬる
はるかせははなとまつとにふきかへて散るも散らぬも身にしますやは
あしかものしたのこほりはとけにしをうは毛にはなのゆきそふりしく
さくらはなうつろはむとやゝまのはのうすくれなゐにけさはかすめる
あけはてはこひしかるへきなこりかなはなのかけもるあたらよのつき
うちなかめはるのやよひのみちかよをねもせてひとりあかすころかな
はつ瀨やまはなにはるかせふきはてゝくもなきみねにありあけのつき
はな散りて木のもとうとくなるまゝにとほさかりゆくそてのうつり馨
手にむすふいしゐのみつのあかてのみはるにわかるゝしかのやまこえ
夏
みしま江やしけりはてぬるあしの根のひと夜ははるをへたてきにけり
うくひすのひとりかへれるおくやまにこゝろあるへきおそさくらかな
ありあけのつれなく見えしつきはいてぬ山ほとゝきすまつ夜なからに
すまのうらの波にをりはへふるあめにしほたれころもいかにほさまし
時しもあれ花散るさとののきのあめにおのかさつきのとりのひとこゑ
とふとりのあすかのさとのほとゝきすむかしのこゑになほやなくらむ
かさゝきのくものかけはしほとやなきなつのよわたるやまのはのつき
眞くすはらたまゝくゝすやまさるらむ葉におくつゆにほたるとふなり
みさひえのひしのうき葉にかくろへてかはつなくなりゆふたちのそら[水錆江]
ちりをこそすゑしとせしかひとりぬるわかとこなつはつゆもはらはす
やまひめのたきのしらいとくりためておるてふぬのはなつころもかも
まつかせのはらふみきはのはちす葉にきよきたまゐるなつのゆふくれ
ひくらしのなくねにかせをふきそへてゆふ日すゝしきをかのへのまつ
をきはらやこゑもほにいてぬさを鹿のふかくなつのにそよくなるかな
たなはたのあまのかはらにこひせしとあきをむかふるみそきすらしも
秋
ふかくさのつゆのよすかをちきりにてさとをはかれすあきは來にけり
おほかたのゆふへはさそとおもへともわかためにふくをきのうはかせ
しらつゆもいろそめあへぬたつたやまゝたあを葉にてあきかせそふく
たひゝとのいるのゝ尾はな手まくらにむすひかはせるをみなへしかな
さをしかのなきそめしよりみやきのゝはきのしたつゆおかぬ日そなき
きりきりすくさ葉にあらぬわかそてのつゆをたつねていかてなくらむ
とこ世にていつれのあきかつきは見しみやこわすれぬはつかりのこゑ
物おもへとするわさならし木のまよりおちたるつきにさをしかのこゑ
ふるさとはわれまつかせをあるしにてつきにやとかるさらしなのやま
あきなれはとてこそぬらすそてのうへを物やおもふとつきはとひけり
むしのねはならのおち葉にうつもれてきりのまかきにむらさめそふる
かちひとのみちをそおもふやましなのこはたのみねのあきのゆふきり
千たひうつきぬたのおとをかそへてもよをなかつきのほとそしらるゝ
すそのゆくころもにすれるつきくさのうつりやすくもすくるあきかな
あきかせにはしたかならすかたをかのしはのしたくさいろつきにけり
あきはなほくすのうらかせうらみてもとはすかれにしひとそこひしき
つゆのそてしものさむしろしきしのふかたこそなけれあさちふのやと
いねかてにいほもる田子のかりまくら夜はにおく手のつゆそひまなき
こけのうへにあらしふきしくからにしきたゝまくをしきまつのかけ哉
こたふへきをきの葉かせもしもかれてたれにとはましあきのわかれ路
冬
風のおともいつしかさむきまきのとにけさよりなるゝうつみ火のもと
しのはらやしのひにあきのおきしつゆこほりなはてそわすれかたみに
ゆふくれのひとむらくものやまめくりしくれはつれはのきはもるつき
しもうつむかり田のこの葉ふみしたきむれゐるかりもあきをこふらし
なにはかたひかりをつきのみつしほにあしへの千とりうらつたふなり
しものうへにおのかつはさを片しきてともなきをしのさ夜ふかきこゑ
あしろもる宇治のさとひといかはかりいさよふなみにつきを見るらむ
あさ日さすこほりのうえのうすけふりまたはれやらぬよとのかはきし
みむろやまみねの檜はらのつれなきをしをるあらしにあられふるなり
やまさとはいくへかゆきのつもるらむのきはにかゝるまつのしたをれ
あらしふくそらにみたるゝゆきの夜にこほりそむすふゆめはむすはす
にほのうみやつりするあまのころも手にゆきの花散るしかのやまかせ
くもはるゝゆきのひかりやしろたへのころもほすてふあまのかくやま
そまくたすにふのかはなみあとたえぬみきはのこほりみねのしらゆき[丹生]
つきよめはゝやくもとしのゆくみつにかすかきとむるしからみそなき
祝
ぬれてほすたまくしのはのつゆしもにあまてるひかりいくよへぬらむ
きみかよにのりのなかれをせきとめてむかしのなみやたちかへるらむ
ひさかたのそらのかきりもなき世かなみつのひかりのすまむかきりは
ゐるちりのやまをいくへにかさねてもけにわかくにはうこきなき世を
ひとの世をなにさためなくおもひけむきみか千とせのありけるものを
戀
しらせはやこひをするかの田子のうらうらみになみのたゝぬ日はなし
うちしのひいはせのやまのたにかくれみつのこころをくむひとそなき
わかこひはまたしるひともしらすけのまのゝはきはらつゆもらすかな
あらいそのなみよせかくるいは根まついはねとねにはあらはれぬへし
よそなからかけてそおもふたまかつらかつらきやまのみねのしらくも
したもえの名にやはたてむなにはなるあし火たく屋にくゆるけふりを
木かくれの身はうつせみのからころもころもへにけりしのひしのひに
ゆきかよふゆめのうちにもまきるやとうちぬるほとのこゝろやすめよ
くりかへしたのめてもなほあふことのかたいとをやはたまのをにせむ
くらしつる日はすかの根のすかまくらかへしてもなほつきぬよはかな
身にそへしそのおもかけもきえなゝむゆめなりけりとわするはかりに
めくりあはむかきりはいつとしらねとも月なへたてそよそのうきくも
わかなみたもとめてそてにやとれつきさりとてひとのかけは見えねと
われとこそなかめなれにしやまのはにそれもかたみのありあけのつき
なけかすよいまはたおなしなとりかは瀨ゝのむもれ木くちはてぬとも
雜
みなひとの世にふるみちそあはれなるおもひいるゝもおもひいれぬも
かりひともあはれしれかしみねのしかのへのきゝすのおのかこゑこゑ
ふねのうちなみのしたにそおいにけるあまのしわさもいとまなの夜や
いはかねのこりしく峯をふみ鳴したきゝこるを[男]のいかゝ苦しき
はるの田にこゝろをつくるたみもかなおりたちてのみ世をそいとはむ
わかこゝろそのいろとしはそめねともはなやもみちをなかめ來にけり
つき日のみなすことなくてあけくれはくやしかるへき身のゆくへかな
おしかへしものをおもふはくるしきにしらすかほにて世をやすきまし
うきしつみ來む世はさてもいかにそとこゝろにとひてこたへかねぬる
きみにかくあひぬる身こそうれしけれ
名やはくちせむ
よゝのすゑまて
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