秋篠月淸集卷二南海漁父百首/藤原良經


秋篠月淸集[藤原良經/據國哥大觀戰前版]



卷二目錄

  南海漁父百首

  西洞隱士百首

  院初度御百首

  院第三度百首

  老若哥合五十首

  句題五十首

秋篠月淸集二

 南海漁父百首

  春十五首

よものうみかせものとかになりぬなりなみのいくへにはるのたつらむ

かすかのゝわかなはそてにたまれともなほふるゆきをうちはらひつゝ

からさきやはるのさゝなみうちとけてかすみをなかすしかのやまかせ

なにはつにさくやむかしのうめのはないまもはるなるうらかせそふく

はるのいろは花ともいはしかすみよりこほれてにほふうくひすのこゑ

はるかせにやなきやきしをはらふらむなみにかたよるいけのをしとり

さはにすむたつのこゝろもあくかれぬはるはくも路のうちかすみつゝ

はるはたゝおほろつき夜と見るへきをゆきにくまなきこしのしらやま

いまはとてやまとひこゆるかりかねのなみたつゆけきはなのうへかな

はつ瀨やまをのへのかねのあけかたにはなよりしらむよこくものそら

またもこむはなにくらせるふるさとの木のまのつきにかせかをるなり

おもかけにもみちのあきのたつたやまなかるゝはなもにしきなりけり

かをるなりよしのゝたきのくものなみそのみなかみをはなのみをにて

見るまゝにはなもかすみもなかりけりはるをおくるはみねのまつかせ

はるやいまあふさかこえてかへるらむゆふつけとりのひとこゑそする

  夏十首

やまのはもかすみのころもなれなれてひと夜のかせにたちわかるなり

なつの夜もやみはあやなしたちはなをなかめぬそらにかせかをるなり

卯のはなをおのかつき夜とおもひけむこゑもくもらぬほとゝきすかな

あめはるゝのきのしつくにかけ見えてあやめにすかるなつのよのつき

なこりまてしはしきけとやほとゝきすまつのあらしになきてすくなり

ふるさとのにはのさゆりはたま散りてほたるとひかふなつのゆふくれ

すきふかきかたやまかけのしたすゝみよそにそすくるゆふたちのそら

そまかはのいはますゝしきくれことにいかたのとこをたれならすらむ

はゝそはらしくれぬほとのあきなれやゆふつゆすゝし日くらしのこゑ

けふくれぬあきはひと夜とふくかせにしかのねならすをのゝしのはら

  秋十五首

そてに散るをきのうは葉のあさつゆになみたならはすあきのはつかせ

くれかゝるむなしきそらのあきを見ておほえすたまるそてのつゆかな

秋のいろやいまひとしほのつゆならむふかきおもひのそめしたもとに

かたやまのふもとのいな葉すゑさわきつきよりおつるみねのあきかせ

外やまよりしかのねおくるあきかせにこたへておつるはきのしたつゆ

つゆやとすよもきをにはのあるしにてよるよるむしのおとつれそする

はるかなるとこよはなれてなくかりのくものころもにあきかせそふく

まつにふくみやまのあらしいかならむたけうちそよくまとのゆふくれ

さひしさにひとはかけせすなりゆけとつきやはすまぬあさちふのやと

なかき夜のつきはゝるかにふけにけりいたまにかけのさしかはるまて

すまの浦のとま屋もしらぬゆふきりにたえたえてらすあまのいさり火

したくさはあきにもたへすかたをかのつれなきまつにしくれもるころ

みよしのゝはなはくもにもまかひしをひとりいろつくみねのもみち葉

まのゝうらなみまのつきをこほりにてをはなかすゑにのこるあきかせ

ふかくさのうつらのとこをけふよりやいとゝむなしきあきのふるさと

  冬十首

つきやとすつゆのよすかにあきくれてたのみしにははかれのなりけり

ゐなのやまみちのさゝはらうつもれておち葉かうへにあらしをそきく

もりかはるのきはのつきにくもすきてしくれをのこすにはのはるかせ

きえかへり岩まにまよふみつのあわのしはしやとかるうすこほりかな

こよひたれ眞すけかたしきあかすらむそかのかはらに千とりなくなり

まくらにもそてにもなみたつらゝゐてむすはぬゆめをとふあらしかな

ふもとゆくゐせきのみつやこほるらむひとりおとするあらしやまかな

やまひとのそてになれたるまつのかせゆきけになれはいとゝはけしき

うきくもをみねにあらしのふきためてつきのなこりをゆきと見るかな

かきりありてはるあけかたになるとしを宮もわら屋もいそきくらしつ

  戀十五首

おほかたになかめしくれのそらなからいつよりかくはおもひそめけむ

それもなほかせのしるへはあるものをあとなきなみのふねのかよひ路

にほとりのかくれもはてぬさゝれみつしたにかよはむみちたにもかな[鳰]

まきのともさゝてふけゆくうたゝねのそてにそかよふみちしはのつゆ

たかためそちきらぬ夜はをふしわひてなかめはてつるありあけのつき

とふへしとまたぬものゆゑはきの葉によなよなつゆのおきあかすらむ

いまこむのよひよひことになかむれはつきやはおそきなかつきのすゑ

くちぬへきそてのしつくをしほりてもなれにしつきやかけはなれなむ

あかつきのあらしにむせふとりのねにわれもなきてそおきわかれにし

あきの田のかりねのはてもしらつゆにかけみしほとやよひのいなつま

たつぬへきうみやまとたにたのまねはけにこひ路こそわかれなりけれ

おもほえすいまや藻にすむゝしの名もひとをうらみのねにかへりつゝ

そのかみにたえなましかはしめなはのかくひきはへてものはおもはし

見しひとのそてにうきにしわかたまのやかてむなしき身とやなりなむ

こひ死なむわかよのはてににたるかなかひなくまよふゆふくれのくも

  羇旅十首

もろともにいてしそらこそわすられねみやこのやまのありあけのつき

すかはらやふし見にむすふさゝまくらひと夜のつゆもしほりかねつる

岩かうへのこけのさむしろつゆけきにあらぬころもをしけるしらくも

またしらぬやまよりやまにうつり來ぬあとなきくものあとをたつねて

たもとこそしほくむあまのともならめおなし藻くつのけふりたちつる

またひとのむすひすてつるのへのくさならふまくらと見るかひそなき

わすられすみやこのゆめやおくるらむつきはくもゐをうつのやまこえ[宇都]

たかさこのまつもわかれやをしむらむあけゆくなみにあらしたつなり

きよみかたひとりいは屋のあきの夜につきもあらしもころそかなしき

ふるさとにぬしやいつくとひとゝはゝあつまのかたをゆふくれのそら

  山家十首

みよしのゝまきたつ山にやとはあれとはな見かてらのおとつれもなし

をりをりのみやまをいつるとりのこゑなかめわひぬとひとにつけこせ

やまふかみつゆおくそてにかけ見えて木のまわけゆくありあけのつき

やまかけやともをたつねしあとふりてたゝいにしへのゆきのよのつき

おのれたにたえすおとせよまつのかせはなもゝみちも見れはひとゝき

つま木をるたよりに見れはかたをかのまつのたえまにかすむふるさと

しめてけりあさけのけふりたちそめてとなりとなれるすきのいほかな

こゝろをそうきたるものとうらみつるたのむやま路もまよふしらくも

このさとはくもの八重たつみねなれやふもとにしつむとりのひとこゑ

まつひとのしるへはかりのしをりせはかへりはつへき身とやしられむ

  述懷十五首

きみかよにいてむあさ日をおもふかないすゝかはらのはるのあけほの

あきらかにむかしのあとをてらさなむいまもくもゐのつきならはつき

かみをあかめのりをひろむる世ならなむさてこそしはし國をゝさめゝ

はかなくもはなのさかりをおもふかなうき世のかせはやすむまもなし

さてもさはすまはすむへき世のなかのひとのこゝろのにこりはてぬる

おもひとけはこの世はよしやつゆしもをむすひきえけるゆくすゑの夢

われなからこゝろのはてをしらぬかなすてかたき世のまたいとはしき

ひとの世はおもへはなへてあたしのゝよもきかもとのひとつしらつゆ

おほかたにゆめをこの世と見てしかなおとろかぬこそうつゝなりけれ

やまてらのあかつきかたの鐘のおとになかきねふりをさましてしかな

つきのすむみやこはむかしまとひいてぬいく世かくらき道をめくらむ

こゝろこそうき世のほかのやとなれとすむことかたきわか身なりけり

さりともとひかりはのこる世なりけりそらゆくつき日のりのともし火

みなかみにたのみはかけきさほかはのすゑのふちなみなみにくたすな

わかのうらのちきりもふかし藻しほくさ

   しつまむよゝを

      すくへとそおもふ








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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