新勅撰和歌集。撰者藤原定家。卷第十二戀歌二。原文。


新勅撰和歌集

新勅撰倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年五月十三日印刷。同十六日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。



新勅撰和歌集卷第十二

 戀哥二

  寛平御時后宮哥合哥

  よみ人しらす

なつ虫にあらぬわか身のつれもなくひとをおもひにもゆる比かな

夏草のしけきおもひはかやり火のしたにのみこそもえわたりけれ

としをへてもゆてふふしの山よりもあはぬおもひは我そまされる

  下臈に侍ける時女につかはしける

  淸愼公

たれにかはあまたおもひもつけそめし君より又はしらすそ有ける

  題しらす

  伊勢

やまかはの霞へたてゝほのかにも見しはかりにや戀しかるらん

み山木のかけのこ草はわれなれや露しけゝれとしるひともなき

  女を見てつかはしける

  謙德公

たとふれは露もひさしき世中にいとかくものをおもはすもかな

  返し

  とはりあけの女王

あくるまも久してふなるつゆのよはかりにも人をしらしとそ思

  神な月のついたち女につかはしける

  東三條入道攝政太政大臣

なけきつゝかへすころものつゆけきにいとゝそらさへしくれそふらん

  題しらす

  本院侍從

庭たつみゆくかたしらぬものおもひにはかなきあはのきえぬへき哉

  道信朝臣

としをへてものおもふひとのから衣そてやなみたのとまりなるらん

  よみひとしらす

かた絲もてぬきたるたまのをゝよはみ亂れやしなむひとのしるへく

戀わひぬあまのかるもにやとるてふわれから身をもくたきつるかな

いかたおろす杣やまかはのみなれさほさしてくれともあはぬ君かな

みや木ひくいつみのそまにたつ民のやむときもなくこひわたるかな

とをつ人かりちのいけにすむをしのたちてもゐてもきみをしそ思ふ

あさかしはぬるや河へのしのゝめのおもひてぬれはゆめに見えつゝ

さをしかの朝ふすをのゝくさわかみかくろへかねてひとにしらるゝ[なイ]

しらやまの雪のしたくさわれなれやしたにもえつゝとしのへぬらん

  廣河女王

こひ草をちから車になゝくるまつみてこふらくわかこゝろから

  九條右大臣

ふしのねにけふりたえすときゝしかと我思ひにはたちをくれけり

  なき名たち侍ける女につかはしける

  權中納言敦忠

しほたるゝあまのぬれきぬおなし名をおもひかへさてきるよしもかな

  つれなかりける女につかはしける

  右近大將道綱

さ衣のつまもむすはぬたまのをのたえみたえすみ世をやつくさん

  たいしらす

  よみ人しらす

あふさかの名をはたのみてこしかともへたつるせきのつらくも有哉

きみにあはんその日をいつとまつの木のこけのみたれてものをこそおもへ

いかはかりものおもふときの淚かはからくれなゐにそてのぬるらん

  秋と契りて侍けるにえあふましきゆへ侍けれはなりひらの朝臣につかはしける

秋かけていひしなからもあらなくにこのはふりしく江にこそ有けれ

  兵部卿元良親王文つかはしける返しによみ侍ける

  修理

たかくともなにゝかはせんくれ竹のひと夜ふたよのあたのふしをは

  堀河院女房の艶書をめしけるに讀ける

  堀河院中宮上總

つらしともいさやいかゝはいはし水あふせまたきにたゆるこゝろは

  返し

  前大納言俊實

世ゝふともたえしとそおもふ神垣やいはねをくゝるみつのこゝろは

  久安百首哥奉りける戀哥

  大炊御門右大臣

手にとりてゆらく玉のをたえさりし人はかりたにあひみてしかな

  左京大夫顯輔

としふれと猶いはしろのむすひまつとけぬものゆへ人もこそしれ

  堀河院百首哥奉りける時

  權中納言國信

くりかへしあまてる神の宮はしらたてかふるまてあはぬ君かな

  戀哥よみ侍けるに

  藤原爲忠朝臣

すみよしのちきのかたそき我なれやあはぬものゆへとしのへぬらん

  建仁元年八月哥合に久戀

  入道前太政大臣

まちわひてみとせも過るとこのうへに猶かはらぬは淚なりけり

  うへのおのことも忍久戀といへる心をつかうまつりけるついてに

  御製

よそにのみおもひふりにしとし月のむなしき數そつもるかひなき

  建保五年四月庚申久戀といへる心をよみ侍ける

  權中納言定家

戀しなぬ身のをこたりそとしへぬるあらはあふよのこゝろつよさに

  參議雅經

つれなしとたれをかいはん髙砂のまつもいとふもとしはへにけり

  建保三年内大臣家百首哥よみ侍けるに名所戀といへる心をよめる

  源有長朝臣

たかさこのおのへにみゆるまつのはのわれもつれなく人をこひつゝ

  庚申久戀哥

  源家長朝臣

いたつらにいくとしなみのこえぬらんたのめかをきしすゑのまつ山

  如願法師

あたに見しひとのこゝろのゆふたすきさのみはいかゝかけてたのまん

  題不知

  殷富門院大輔

あひみてもさらぬわかれのあるものをつれなしとてもなになけくらん

  百首哥めしける時

  崇德院御製

をろかにそことのはならはなりぬへきいはてやきみに袖を見せまし

さきの世のちきりありけんとはかりも身をかへてこそ人にしられめ

  權大納言隆季

あふさかの關のせきもりこゝろあれやいはまのし水かけをたにみん

  前關白家家哥合に寄鳥戀といへるこゝろを讀侍ける

  典侍因子

よそにのみゆふつけ鳥のねをそ鳴その名もしらぬせきのゆきゝに

  戀哥よみ侍けるに

  殷富門院大輔

またこえぬあふ坂やまのいはし水むすはぬそてをしほるものかは

  中宮少將

いかにせん戀路のすゑにせきすへてゆけともとをきあふさかのやま

  祝部成茂

あふさかのやまはゆきゝの道なれとゆるさぬ關はそのかひもなし

  賀茂重保社頭にて哥合し侍けるに戀の心をよめる

  勝命法師

こひちにはたかすへをきしせきなれはおもふこゝろをとおさくるらん

  藤原伊經朝臣

こひ路にはまつさきにたつ我なみたおもひかへらんしるへともなれ

  題しらす

  權中納言長方

伊勢の海おふのうらみをかさねつゝあふことなしの身をいかにせん

  寂蓮法師

おふのうみのおもはぬうらにこす鹽のさてもあやなくたつけふりかな

  入道二品親王家五十首寄煙戀

  參議雅經

うらみしな難波のみつにたつけふりこゝろからやくあまのもしほ火

  正三位知家

うらみてもわか身のかたにやくしほのおもひはしるくたつけふりかな

  關白左大臣家百首忍戀

  源家長朝臣

しらせはやおもひいり江の玉かしは舩さすさほのしたにこかると

  戀哥よみ侍ける[にイ]

  藤原行能朝臣

かすならぬみしまかくれにこくふねのあとなきものはおもひなりけり

  寂延法師

はるかすみたなゝしを舟いりえこくをとにのみきく人をこひつゝ

  殷富門院大輔

うかりけるよさの浦なみかけてのみおもふにぬるゝそてを見せはや

  崇德院御時うへのおのことも忍戀哥つかうまつりけるに

  皇太后宮大夫俊成

わかこひはなみこすいそのはま楸[※ひさき]しつみはつれとしるひともなし

  堀河院御時殿上にて題をさくりて十首哥よみ侍けるに鹽かまを讀侍ける

  權中納言國信

うらむともきみはしらしなすまの浦にやくしほ竈のけふりならねは

  家に百首哥よみ侍けるに不逢戀の心を

  後法性寺入道前關白太政大臣

わかこひはあはてのうらのうつせかひむなしくのみもぬるゝ袖かな

  百首哥奉りける時戀哥

  入道前太政大臣

石見[※いはみ]かたひとのこゝろはおもふにもよらぬ玉ものみたれかねつゝ

  後京極攝政家に百首哥よませ侍けるに戀哥

  髙松院右衞門佐

磯なつむあまのしるへをたつねつゝきみをみるめにうくなみたかな

  藤原隆信朝臣

よとゝもにかはくまもなきわかそてやしほひもわかぬなみのしたくさ

  題不知

  正三位家隆

春のなみのいり江にまよふはつくさのはつかに見えしひとそこひしき

  女につかはしける

  前大納言隆房

ひとしれぬうき身にしけきおもひ草おもへはきみそたねはまきける

  女のゆかりをたつねてつかはしける

  左近中將公衡

つたへてもいかにしらせんおなし野ゝお花かもとのくさのゆかりに

  題をさくりて哥よみ侍けるに思草をよめる

  前中納言國道

したにのみいはてふるのゝおもひ草なひくおはなはほにいつれとも

  戀の心をよみ侍ける

  藤原賴氏朝臣

さしも草もゆるいふきのやまのはのいつともわかぬおもひなりけり

  百首哥讀侍けるに不逢戀

  關白左大臣

いつまてかつれなきなかのおもひくさむすはぬそてに露をかくへき

  百首哥奉りける時戀哥

  入道前太政大臣

あふまてとくさをふゆ野にふみからしゆきゝのみちのはてをしらはや

  參議雅經

みよしのゝみくまかすけをかりにたにみぬものからやおもひみたれん

きえぬともあさちかうへのつゆしあれは猶おもひをくいろやのこらん

  建保六年内裏哥合戀哥

  正三位知家

ひとめもる我かよひちのしのすゝきいつとかまたん秋のさかりを








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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