風雅和歌集。卷第十六雜哥中。原文。


風雅和歌集

風雅倭謌集。底本『廿一代集第八』是大正十四年八月二十五日印刷。同三十日發行。發行所太洋社。已上奧書。又國謌大觀戰前版及江戸期印本『二十一代集』等一部參照ス。



風雅和謌集卷第十六

 雜歌中

  曉雲といふ事を

  藤原爲基朝臣

あかつきやまたふかゝらし松のうれにわかるともなき嶺の白雲

  文保三年百首歌の中に

  後西園寺入道前太政大臣

見るまゝにあまきる星そうきしつむ曉やみの村雲の空

  百首歌奉し時

  左近中將忠季

時ははや曉近くなりぬなりまれなる星の空そしつけき

  雜御歌の中に

  今上御歌

西の空はまた星みえて有明の影よりしらむ遠の山のは

  康永二年歌合に雜色を

  院一條

しらみまさる空のみとりはうすく見えて明殘る星の數そきえ行

  暁の心を

  祝子内親王

山ふかみおりゐる雲は明やらてふもとにとをきあかつきの鐘

  雜歌の中に

  太上天皇

夜鳥は髙き梢になきおちて月しつかなるあかつきの山

鐘の音に夢はさめぬる後にしも更にさひしきあかつきの床

  從三位親子

窓近き軒端の峯は明そめて谷よりのほるあかつきの雲

  進子内親王

聞きかすおなしひゝきもみたるなり嵐のうちのあかつきの鐘

  春宮權大夫冬通

明けぬるかねさめの窓のひま見えて殘るともなき夜はの燈

  百首御歌の中に

  院御歌

羽音してわたる鳥の一こゑに軒端の空は雲あけぬなり

  徽安門院一條

立そむる鳥一聲なき過てはやししつかにあくるしのゝめ

  前大納言實明け女

朝かえあす聲する森の梢しも月は夜ふかきあり明のかけ

題をさくりて人々歌つかうまつりけるに關といふ事をよませ給ける

  伏見院御歌

逢坂や曉かけてなく鳥のこゑしろくなる關の杉むら

  百首御歌に

  院御歌

さと〱の明行をとはいそけとものとかにしらむ山のはの空

  題しらす

  藤原爲基朝臣

出やらて朝日こもれる山のはのあたりの雲そまつ匂ひぬる

  朝煙を

  從二位爲子

宿々にたつる煙の末あひて一村かすむ里の朝あけ

  百首歌奉し時

  徽安門院一條

をちかたの里は朝日にあらはれて煙そうすき竹の一村

  前大納言實明女

風すさふ竹のさ枝の夕つくひうつりさためぬ影そさひしき

  あさき夕といふことを

  前大納言爲兼

もりうつる谷に一すち日影見えて峯もふもとも松の夕風

  雜御歌に

  順德院御歌

入日さす峯の浮雲たな引てはるかにかへる鳥の一聲

  太上天皇

夕日影田面はるかにとふ鷺のつはさのほかに山そ暮ぬる

  榮子内親王

山本はまつ暮そめて嶺髙き梢にのこる夕日影かな

  夕山といふことを

  後伏見院御歌

夕山やふもとの檜原色さめて殘る日影そ峯にすくなき

  百首歌の中に

  中務卿宗尊親王

見渡せは雲間の日影うつろひてむら〱かはる山の色かな

  雜歌に

  徽安門院

夕日さす峯はみとりのうすく見えて陰なる山そ分て色こき

  百首歌奉し時

  左近中將忠季

夕附日入ぬる峯の色こきに一本たてる松そさひしき

  百首御歌の中に

  順德院御歌

夕つく日山のあなたになるまゝに雲のはたてそ色かはり行

  雜歌に

  院一條

山のはの色ある雲にまつ過て入日の跡の空そしつけき

  徽安門院一條

西の空の夕日の跡はさめやらて月よりかはる雲の色かな

  源義詮朝臣

月はあれとまた暮やらぬ空なれやうつるも薄き庭の影哉

  從二位行家

人とはぬ谷の戶ほそのしつけきに雲こそかへれ夕くれの山

  暮山をよめる

  前大納言尊氏

山風はたかねの松に聲やみて夕の雲そ谷にしつまる

  百首歌奉し時

  民部卿爲定

こもり江の初瀨の檜原吹分て嵐にもるゝ入會の鐘

  前中納言重資

雨そゝく槇のしつくは落そひて雲深くなる夕くれの山

  題しらす

  伏見院御歌

鳥のゆく夕の空のはる〱となかめの末に山そ色こき

  藤原爲基朝臣

飛つれて遠さかり行鴉羽に暮る色そふ遠方の空

  夕鐘を

鐘の音をひとつ嵐に吹こめて夕暮しほる軒の松風

ならひたつ松のおもては靜にて嵐のおくに鐘ひゝくなり

山の端のなかめにあたる夕暮にきかてきこゆる入相のをと

  祝子内親王

つれ〱となかめ〱て暮る日の入相の鐘の聲そさひしき

  雜御歌の中に

  後伏見院御歌

たつね入山路の末は人もあはす入逢の鐘に嵐こそふけ

  永福門院

かくしてそ昨日も暮し山の端の入日の後にかねのこゑ〱

  從二位爲子

何となく夕の空をみるまゝにあやしきまてはなそや佗しき

  後鳥羽院御歌

なにとなく過こしかたのなかめまて心にうかふ夕くれの空

  伏見院御歌

寺深き寢覺の山は明もせてあま夜の鐘の聲そしめれる

  儀子内親王

つく〱と獨きく夜の雨の音はふりをやむさへさひしかりけり

皆人のいをぬるなへに鳥羽玉のよるてふ時そよはしつかなる

  燈を讀侍ける

  從一位敎良

思ひつくす心に時はうつれともおなしかけなる閨のともしひ

  寶治百首歌に夜燈を

  前大納言爲家

哀にそ月にそむくるともし火のありとはなしに我よ更ぬる

  雜歌に

  前大納言長雅

眞木の屋のひま吹風も心せよ窓ふかき夜に殘るともし火

  徽安門院

灯は雨夜の窓のかすかにて軒のしつくを枕にそきく

  月を

  後伏見院御歌

一すちに思ひもはてし猶もこの憂世の友は月こそありけれ

  讀人しらす

世中はむなしき物とあらんとそこのてる月はみちかけしける

  月のあかきを見てよめる

  大僧正行尊

ありし世にめくる身としも思はねは月はむかしの心ちこそすれ

  藏人おりて後月を見てよめる

  藤原敦經朝臣

むかしのみなかむるまゝに戀しきはなれし雲ゐの月にや有らん

  かしらおろして後月を見て

  前參議家親

今はわれ又見るましき哀さよなれてつかへし雲の上の月

  雜歌の中に

  如願法師

袖のうへにかはらぬ月のかはるかな有しむかしの影を戀つゝ

  何となく昔戀しき我袖のむれたるうへにやとる月影

  從二位爲子

時ありて花も紅葉も一さかりあはれに月のいつもかはらぬ

  大峯修行の時よみ侍ける

  二品法親王覺助

うきてたつ雲吹きはらふ山風のさゝに過る音のはけしさ

  雲を

  永福門院

山あひにおりしつまれる白雲のしはしとみれははや消にけり

  前右衞門督基顯

うすくこき山の色かと見る程に空行雲の影そうつろふ

  雜歌の中に

  前大納言爲兼

大空にあまねくおほふ雲の心國土うるほふ雨くたすなり

  從二位爲子

あらき雨のをやまぬ程の庭たつみせきいれぬ水そしはし流るゝ

  百首歌奉し時雜歌

  入道二品親王法守

枝くらき梢に雨の音はしてまた露おちぬまきの下道

  五首歌合に雜遠近を

  太上天皇

雲かゝる遠山松は見えすなりまかきの竹に雨こほるなり

  永福門院内侍

なかめつる草のうへよりふりそめて山の端きゆる夕くれの雨

  雨夜思といふことを

  後伏見院御歌

ひとりあかす四方の思ひは聞こめぬたゝつく〱とふくる夜の雨

  雜御歌の中に

  伏見院御歌

よるの雨に心はなりて思ひやる千里の寢覺こゝにかなしも

  元久元年七月北野社歌合に暮山雨を

  大藏卿有家

見ぬ世まて思ふもさひし磯の上ふるの山邊の雨の夕暮

  題しらす

  儀子内親王

山松は見る〱雲に消はてゝさひしさのみの夕くれの雨

  藤原親行朝臣

虹のたつ峯より雨ははれ初て麓の松をのほるしら雲

  藤原公直朝臣母

雨は今晴ぬと見つる遠山の松にみたれてかゝるしら雲

  百首歌奉し時

  永福門院内侍

雨晴て色こき山のすそ野よりはなれてのほる雲そま近き

  題しらす

  藤原爲基朝臣

山本や雨はれのほる雲の跡に煙のこれるさとの一むら

  從三位親子

谷陰や眞柴の煙こく見えて入相くらき山のしたみち

  雜歌の中に

  進子内親王

立のほるけふりさひしき山本の里のこなたにもりの一村

  嘉元百首歌に山を

  後山本前左大臣

白雲の八重たつ峯もちりひちのつもりてなれる山にしあらすや

  題しらす

  前大僧正慈順

三の峯ふたつの道をならへをきて我立杣の名こそ髙けれ

  雜御歌の中に

  伏見院御歌

浦風はみなとのあしに吹しほり夕暮しろき波のうへの雨

  後二條院御歌

浦の松木の間にみえてしつむ日のなこりの波そしはしうつろふ

  永福門院

しつみはてぬ入日は波のうへにしてしほひにきよき磯の松原

  藤原爲基朝臣

磯山のかけなる絕はみとりにて夕日にみかく興津白波

  祝部成茂

白波のたかしの山の麓より眞砂吹まきうら風そ吹

  藤原朝村

かつしかのまゝの浦風吹にけり夕波こゆるよとのつき橋

  院兵衞督

うちよするあら磯浪の跡なれや鹽干のかたに殘るもくつは

  眺望の心を

  前中納言定家

和田の原波と空とはひとつにて入日をうくる山のはもなし

  藤原冬隆朝臣

淸見かた磯山もとはくれそめて入日のこれるみほの松原

  物へ行に海のほとりにて

  讀人不知

風をいたみよせくる波にいさりするあま乙女子か裳のすそぬれぬ

  題しらす

玉津嶋みれともあかすいかにしてつゝみもたらん見ぬ人のため

家つとにかひをひろふとおきへよりよせくる波に衣手ぬれぬ

ありかよふ難波の宮は海ちかみあま乙女子かのれる舩みゆ

  寶治百首歌に江蘆を

  山階入道前左大臣

難波江に夕鹽遠くみちぬらし見らくすくなきあしの村立

  津の國に侍ける比京にあひしりたる人のもとにつかはす文のうへにかきて侍ける

  津守國基

津の國の難波よりそといはすともあしてをみてもそれとしら南

  題しらす

  光明峯寺入道前攝政左大臣

津國の難波の里の浦ちかきみまかきを出るあまの釣舟

  前中納言爲相女

あら磯の松の陰なるあま小舟つなきなからそ波にたゝよふ

  從三位行尹

漕出て武庫の浦より見渡せは波間にうかふ住吉の松

  日吉へ參るとて唐崎の松をみてよめる

  從二位爲子

辛崎やかすかにみゆる眞砂地にまかふ色なき一本の松

  雜歌に

  前中納言有光

にほの海やかすみて遠き朝明に行かた見えぬあまの釣舟

  從二位家隆

明渡るをしまの松の木の間より雲にはなるゝあまの釣舟

  前中納言基成

うら〱のくるゝ波間も數見えて沖に出そふあまのいさり火

  從二位爲子

漕出る程もなみちに數きねぬ追風はやき浦のつり舟

  前大納言爲兼

物としてはかりかたしなよはき水にをもき舩しもうかふと思へは

  從二位兼行

河むかひまた水くらき明ほのにいつるか舟のをとそ聞ゆる

  百首歌奉し時雜歌

  前内大臣

苔むして人のゆきゝの跡もなしわたらて年やふるの髙橋

  題しらす

  前大納言爲兼

大井河はるかにみゆる橋のうへに行人すこし雨の夕くれ

岡のへやなひかぬ松は聲をなして下草しほる山おろしの風

  藤原爲守女

谷深き松のしつえに吹とめて深山の嵐聲しつむなり

  從二位宣子

山人のおへる眞柴の枝にだへ猶音つれて行あらしかな

  從三位親子

つれ〱と山陰すこき夕暮のこゝろにむかふ松の一もと

  前大納言爲兼

見るとなき心にも猶あたりけり[・む(イ)]むかふみきりの松の一本

  夕松といふ事を

  伏見院御歌

いまはしもあらしにまさる哀かな音せぬ松の夕くれの山

  百首歌奉し時

  權大納言公䕃

年ふかき杉の梢も神さひてこくらき杜は宮ゐなりけり

  雜歌の中に

  淨妙寺左大臣

暮ぬるか籬の竹のむら雀ねくらあらそふ聲さはくなり

  康永二年歌合に雜色といふことを

  徽安門院

みとりこき日影の山のはる〱とをのれまかはす渡る白雲

  鷺を

  伏見院御歌

山本の田面よりたつ白鷺の行かたみれは森の一むら

  雜歌に

  前中納言爲相

谷陰や木深き方にかくろへて雨をもよほす山鳩の聲

  從三位忠嗣

鐘のをと鳥のねきかぬ奧山の曉しるはねさめなりけり

  山家夢と云ことを

  正二位隆敎

吹おろす軒端の山の松風に絕てみしかき夢の通路

  卅首歌の中に山家松

  前中納言定家

忍はれん物ともなしに小倉山軒端の松そなれて久しき

  山家の心を

  圓光院入道前關白太政大臣

松の風かけひの水に聞かへて都の人のをとつれはなし

  山を

  權津師慶運

塵の身そをき所なき白雲のたな引山のおくはあれとも

  題しらす

  藤原基任

山深きすまゐはかりはかひもなし心にそむくうき世ならねは

  權津師慈成

山ふかき宿には人の音もせて谷しつかなる鳥の一聲

  寶治百首歌に山家嵐を

  前大納言爲氏

山本の松のかこひのあれまくに嵐よしはし心してふけ

  雜歌の中に

  權中納言俊實

たゝひとへあたにかこへる柴の垣いとふ心に世をはへたてゝ

  式子内親王

我宿は妻木こり行山賤のしは〱かよふ跡はかりして

  山家木を

  西園寺内大臣女

こゝにさへ嵐ふけとは思はすよ身のかくれかの軒の山松

  百首歌奉し時

  入道二品親王法守

山の奧しつかにとこそ思ひしに嵐そさはく檜原槇原

  世をのかれて山深く住侍ける比よめる

  山本入道前太政大臣女

また人のいほりならへぬ山陰は音する風を友ときく[・する(イ)]かな

  竹を

  前權僧正良海

一本と思ひてうへしくれ竹の庭見えぬまてしける故鄕

  六帖題にて人々に歌よませさせ給けるついてに山里

  伏見院御歌

つくろはぬ岩木を庭の姿にて宿めつらしき山の奧哉

  題しらす

  佛國禪師

我たにもせはしと思ふ草の庵になかはさし入峯の白雲

  山家夕と云ことを

  伏見院御歌

山陰や木垣入會の聲暮て外面の谷にしつむ白雲

  百首御歌に

  院御歌

後絕てへたつる山の雲ふかしゆきゝは近き都なれとも

  無動寺に籠山して侍ける時源兼氏朝臣許に申送侍ける

  前大僧正道玄

山里をたれすみうしといとひけん心のすめはさひしさもなし

  題しらす

  藤原宗秀

問人もまたれぬ程にすみなれて深山のおくはさひしさもなし

  前大納言家雅

おく山の岩ほの枕苔むしろかくてもへなん哀世中

  寶治百首歌に山家水を

  安嘉門院髙倉

人めこそかれなはかれめ山里にかけひの水の音をたにせよ

  題しらす

  儀子内親王

とはるやとまたしいかにさひしからん人めをいとふ奧山の庵

  二品法親王承覺

朽[・折(イ)]殘る軒の懸樋の[・を(イ)]つたひきて庭にしたゝる苔の下水

  山家御歌の中に

  伏見院御歌

遠方の山は夕日の影はれて軒端の雲は雨おとすなり

  雨を

  進子内親王

雲しつむ谷の軒はの雨の暮聞なれぬ鳥の聲もさひしき

  雜御歌に

  順德院御歌

ますらおか山かたつきてすむ庵の外面にわたす杉のまろ橋

  前大納言忠良

山深き草のいほりの雨の夜にをとせてふるは淚なりけり

  百首歌奉し時

  前大納言實明女

山里はさひしとはかりいひ捨てこゝろとゝめて見る人やなき

  田家雨をよめる

  前大納言尊氏

山本やいほの軒はに雲おりて田面さひしき雨の夕暮

  寶治二年百首歌人々にめされけるついてに里竹を

  後嵯峨院御歌

思ひ入深山の里のしるしとて憂世へたつる窓の呉竹

  西山の善峯寺にてよみ侍ける

  二品親王慈道

此里は外面のま柴しけけれは外にもとめぬ爪木こるなり

  題しらす

  院御歌

跡もなき賤か家居の竹の垣犬の聲のみおくふかくして

  寶治百首歌に山家水を

  山階入道前左大臣

身をかくす深山のおくの通路をありとなつけそ谷の下水

  文保三年後宇多院に奉りける百首歌の中に

  後花山院前内大臣

庵むすふ山下水の木かくれにすます心をしる人そなき

  千首歌讀侍けるに

  前大納言爲家

あか棚の花の枯葉もうちしめり朝霧ふかし峯の山寺

  山里なる所へまかりける道にてよみ侍ける

  藤原爲基朝臣

月はまた峯こえやらぬ山陰にかつ〱見ゆる松の下道

  百首歌讀侍ける

  從三位賴政

稻荷山西にや月のなりぬらん杉のいほりの窓のしらめる

  山家鳥

  伏見院御歌

山陰や竹のあなたに入日おちて林の鳥の聲そあらそふ

  山路の心を

  從二位爲子

山人の分入外の跡もなし峯よりおくの柴のした道

  樵夫を

  中務卿宗尊親王

見渡せは妻木の道の松陰に柴よせかけてやすむ山人

  前大納言公泰

しはし猶麓の道のくらけれは月待いてゝかへる山人

  深き山里に人の尋ねくるもなくて何となく物哀なるに

  前左兵衞督惟方

人はいはし鳥も聲せぬ山路にもあれはあらるゝ身にこそ有けれ

  東山に住侍ける比從三位賴政尋きて後かき絕をとせさりけれはつかはしける

いかにして野中の淸水思ひ出てわするはかりに又なりぬらん

  笙の岩屋にこもりてよみ侍ける

  靜仁法親王

くるとあくと露けき苔の袂かなもらぬ岩やの名をは賴まし

  玉井と云所にて

  藤原道信朝臣

我ならぬ人にくまなすゆきすりにむすひ置つる玉の井の水

  高野の奧院へまいる道に玉川と云河の水上に毒虫のおほかりけれは此流をのむましきよしをしめしをきて後よみ侍ける

  弘法大師

忘れてもくやみしつらん旅人の高野のおくの玉川の水

  おなし山にのほりて三鈷の松を見て

  阿一上人

これそ此もろこし舩にのりをえてしるしを殘す松の一本

  白川なりける家に住たえて年へて後まかりとてよみ侍ける

  前左兵衞督惟方

故鄕は淺茅かしたにうつもれて草のいほりと成にけるかな

  大覺寺に住侍ける比よめる

  二品法親王寛尊

年をへて荒こそまされ嵯峨の山君か住こし跡はあれとも

  雜歌に

  藤原爲守女

命まつかりたとりのうちにたに住さためたる隱家もなし

  庵を住すてゝ出けるに

  夢窓國師

いく度かかく住すてゝ出つらんさためなき世にむすふかり庵

  百首歌の中に

  前中納言定家

鷺のゐる池の汀に松ふりて都の外の心ちこそすれ

  長和五年四月雨のいとのとかにふるに大納言公任につかはしける

  權中納言定賴

八重葎しけれる宿の[・に(イ)]つれ〱と問人もなきなかめをそする






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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