小説。——地上で初めて愛を無言のうちに見い出したある獣が永遠に焼き盡くされた跡形もない涙を流す/神皇正統記異本。散文。及び立原道造の詩の引用 1
——地上で
初めて愛を
無言のうちに見い出したある獣が永遠に、焼き盡くされた
跡形もない涙を
流す
神皇正統記異本…散文。及び立原道造の詩の引用
天稚彦
…或いは亡き、大日本帝國の為のパヴァーヌ
以下ハ主トシテ神皇正統記ニ典遽シ
亦皇祖眞紀(所謂蛭祁家文書)ヲモ参照ス
北畠親房ノ著ス神皇正統記ノ説明ハ不要也
皇祖眞紀所謂蛭祇家文書(乃至稀ニ平家古文書トモ謂ウ)ハ
大中臣氏末流(他ニ刀自古郎女即チ
河上娘ノ子ニシテ東漢駒ヲ父トスル
蛭足ヲ祖トスルト謂ウ説在リ是詳カナラズ及ビ
山背大兄王庶子トスル説在ルモ
蓋シ是後代ノ創作也)ニシテ
源平争乱時ニ断絶セル神祇官血統
蛭祇氏即チひるしし由来ノ古書ト傳レル
所謂古史古傳ノ類ニシテ本居宣長是ヲ偽書ト断ズ
蛭祇宗家安徳天皇ニ殉ジテ一統悉ク自死シタルガ故
現在ノ鹿島蛭祇姓ハ直系ニ非ズ所謂末流也
戦後廃爵セラレタル松枝公爵家末裔北村聡子
祖界時自リ其ノ儘居住セラレタル
岡山県井原市ノ市立図書館ニ昭和56年
所蔵ノ写本所謂稗田本(巻四及ビ首巻一部散逸)ヲ寄贈ス
現在当該図書館ノ所蔵也
他国会図書館ニ稗田本後代写本(現在未公開)現存シ
亦宮内庁ニモ写本(詳細詳カナラズ)現存スト謂エドモ
其ノ真偽定カナラズ蓋シ信ズルニ足ラヌ風説也
神皇正統記
第三代
皇孫ニシテ
かの
第三代ニ在ラセラレル御皇ハ
皇孫とも
天津彦々火瓊々杵尊
天津彦々火瓊々杵尊即チ
天孫とも申される
あまつひこひこほににぎのみことデ在ラセラレル
天孫とも皇孫とも申す
天孫即チあめみまトモ皇孫即チ
天津彦々火瓊々杵尊は
スメミマともおっしゃられる
皇祖天照太神
皇祖タル天照大御神
高皇産靈尊
即ちあまてらすおおみかみ、及ビ
第三代に在らせられる。
高皇産靈尊即チ
たかみむすびのかみのみことハ神々ノ
御嫡子ヲ其処ニ顕サレテ
いつきめぐみましましきて
御嫡子をして
葦原の中州の主としてあまくだし給はむとす
葦原ノ中州即ちあしはらのなかつくにノ主トシテ
終に天降りさせ賜わんと、茜差す
終ニ
御天降リサセ給ハントサレタ
日の大御神計られた時に
茲にその国の邪神あれて
此ノ時、其ノ国ニ邪神等荒レテ
たやすく下り給ふ事かたかりければ天稚彦
容易ク天孫ノ降臨為サレ難キガ故ニ
葦原の中洲は邪神等に
天稚彦即チあめわかひこト云ウ神ヲ
統治されてあった。
と云ふ神を下して見せしめ給ひしに
先ズ降ラセ給ウタ所ガ
大汝の神の女
大汝ノ神
即チ
三年の歳月に渡って、地の上に
おほなむちのかみの
娘、下照姫
下照姫にとつぎて
即チ
邪神なる神其の大汝の神と
したてるひめニ
呼ばわれた豐饒なる地の
天稚彦ハ嫁ギ
返りごと申さずみとせになりぬ依りて
返事モ何モ奏上差シ上ゲザルガ儘ニ
神の御娘であった女に
歳月三ト歳ヲ数エル。依ッテ未ダ
名なし雉を遣してみせられしを
名ノ附ケラレ無イ純ナル雉ヲ
嫁ぎ、憩うた
遣ワシ賜イテ
天稚彦
カノ大御神地ノ様子ヲ探らせ賜ウニ
天孫に先んじて堕とされた其の
天稚彦
射殺しつ其の矢
是ヲ射テ殺ス。其ノ
天稚彦の胸を
矢、天上ニ昇リテ
窺い視た密偵の雉の心臓の血諸共に
天照大神ノ
天上に昇りて太神の御前にあり血に
御前ニ突キ刺サッタ。其レ
天上の高照らす御方の眼前に
ぬれたりければあやしみ給ひてなげくだされしに
血ニ夥シクモ濡レテ在レバ、御神
怪シマレ給ウテ返シテ地ニ
放った矢の返し矢に
投ゲ下サレタ所ニ
天稚彦新嘗して
天稚彦
ふせりけるむねにあたりて
新嘗ノ祀事シテ
荒振る憤怒の怒号と共に
伏セテ眠ル其ノ胸ヲ
死す世に返し矢をいむは此故なり更に又
貫キ、此ノ者死ス。世ニ
刺し貫いた茜差す
返シ矢ヲ忌ムハ此ノ故デアル。更ニ
下さるべき神をえらばれし時經津主の命
又再ビ天降サル可キ神ヲ選バレタ時ニ
經津主ノ命
中天の御方
檝取の神にます
即チふつぬしのみこと
滂沱の
此ノ檝取即チ
武甕槌神
かとりノ神デ在ラセラレル
血涙堕とされて地には紅の大雨振り続き
御方及ビ
武甕槌神即チ
地は
鹿嶋の神にます
たけみかづちのかみ此ノ
鹿嶋
即チかしまノ神デ在ラセラレル御方、勅命ヲ戴キテ
紅の洪水に見舞われる。
天
勅を承けて下りましけり出雲國にいたり
降リ為サリ給ウタ。ヤガテ
後続二神に
二神、出雲ノ國ニ
はかせる剣をぬきて地につきたて
至ル。
其上にゐて、大汝の神に
出雲ノ國ニ至リテ其ノ
神ナル劍ヲ地ニ突キ立テゝ其ノ上ニ
大汝の神及び其の嫡子従い
舞ウテ大汝ノ神ニ天照太神ノ
太神の勅を告げ知らしむ。その子
神勅ヲ告ゲ知ラセ給ウ。
此れを以て地は
大汝ノ神ノ子ナル都波八重事代主ノ神
即チ
都波八重事代主の神
つみはやへことしろぬしのかみ
高光る中天の光の御方の
此ノ方
今葛木の鴨にます
今
葛木即チ
恩寵に憩う。父に抗って
かづらきノ鴨
即チかもニ在ラセラレル御方也。此レ等
相ともにしたがい申す。又次の子
二神相モニ従ヒテ御神ヲ
独り茜差す日輪の光に逆らって
讃エル。健御名方刀美ノ神
即チたけみなかたとみのかみ此ノ方
健御名方刀美の神
今、陬方即チ
地の果てに迄逃亡を謀てゝ
今陬方の神にます
すはノ神デ在ラセラレル御方ハ
独リ
湖の水面に映った己の獣の姿に
したがはずしにげ給ひしを
従ワズシテ遁レラレタノヲ陬方ノ
湖ニ迄追ウテ是ヲ
涙して
すはの湖までおひて攻められしかば又
攻メテ追イ詰メラレレバ、此ノ神モ
又
狂気したのは健御名方刀美ノ神
したがひぬかくて諸の惡神をばつみなへ
斯クテ諸々ノ惡神即チ
みづからの肉を
あしきかみ等謂ワバ邪惡ナル神々ヲ
みづからの歯に喰い散らして
皆諸共ニ
まつろへるをばほめて天上にのぼりて
平ラゲラレテカノ二神
果て給う。
返りごと申給ふ大物主神
天上ニ戻ラレテ御神ニ
事ノ次第ヲ奏上為サル。大物主神
ト
大汝の神は此の地を終には
仰ラレル神即チ
大汝の神は此國をさり、やがて
おほものぬしのかみ
棄てて立ち去られ、其の後に
察スルニ大汝ノ神ハ国ヲ去ッテ
かくれ給ふと見ゆこの大物主はさきに云ふ所の
ヤガテ身罷ラレ為サッタト見エルガ、此ノ
残された
大物主ノ神ハ、先ニ云ウ所ノ三輪
即チ
三輪の神にますなるべし
みつわの神ニ坐サレルト謂ウ。事代主神
大物主の神。此の神は
即チことしろぬしのかみ相共ニ
事代主神相共に
八十萬ノ神
三輪の神で在らせられると謂う。事代主神は
即チ
八十萬の神をひきゐて天にまうづ
やそよろづのかみヲ率イテ
地に繁茂した神々、所謂八十萬
太神ことにほめひ給き
天ニ
詣デル。天照太神ノ尊ハ是ヲ殊ニ
褒メ讃エ賜ワレタ
即ち
宜しく八十萬の神を領して
宜シク八十萬ノ神ヲ従エ
皇孫をまぼりまつれとて
皇孫ヲ守護シ祀レ
やそよるづの神を
先づ返しくだし給ひけり
ト
率い従えて、天に
先ズハ此ノモノラヲ降リサセラレタ
詣でられたが、かの
高照らし茜差す高光る中天の御大御神、是を讃えられて
…あ。
おぼえてゐた
と、不意に
おののきも
つぶやきそうになった瞬間に、
顫へも
その
ふたたび
あなたの気配が
目醒めた。
いま
それを自覚した時にはすでに、自分が浅い、とは言え
ふれていた。その
心地のよい、(——と、
私の傍らに添い寝していた
彼は回想した。)一瞬の眠り(——失心、…)の中から
あなたの
自分が何度目かに
その
目醒めたのだったということに
あまりにも愛おしい、あなた
気付いていたのだが、
匂い立つ花のその
彼は、
やさしい
自分が
気配が
相変らず其処に存在していたことを想い出す。彼は、美しい。天稚彦と、無数にして無限に複数なる神々、至る処に無際限に坐します所謂八百萬の血速振って血速振り荒振る御神々が、勝手にそう呼んでいたその彼、天稚彦はあまりにも、野放図に匂い立って始末に置けないほどにも美しく、そしてかの神々が、気が触れた邪神どもの徘徊し跋扈するという葦原ノ中州即ちアシハラノナカツクニと名指されたそこに彼を没落或は天降りさしめたのは、それこそは終には御神々の嫉妬のなせる業だったのでは無いかと、みずからの美しさを充分に知る彼はそう想い至らざるを獲ない。香気薫って魂極る八百萬の御神々の怒号のような声が響き渡っていたその時に、れは正に彼等の歓呼の声で在らせられたのか。さまざまな響きの混交して終に一体にならぬ轟音の中に、かの茜差し高光る御方の声が明確にひとつの囁きの音声そのものとして耳に聴こえた。…只皇孫ノ為ニ
と。
地ノ道ヲ平ラゲヨ。
…声。
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