ジュリアン・O、浸蝕。そして青の浸蝕 ...for Julian Onderdonk /a;...for oedipus rex #042



以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください



(承前)

夢の

   え?

話をしていたのだと雅孝は語った。ありふれたとは言えなかろうが、よくあること。悩むにしては馬鹿莫迦しすぎ、しかも、その印象のあざやかなうちは当人にとっては深刻なのだ、

   え?

      ええ、

と。だから、他人には馬鹿莫迦しい夢さえも。波紋。

   はっ

少年は庸子の動揺を彼女のためにこそかなしんだ。やさしくしてやるべきだろう。ことさらなほどに。すくなくとも夢が、庸子にまだ生き活きと息づいているうちは。それからも庸子がおなじ夢を、すくなくとも何度かはくりかえし見たにちがいないと気づいたのは、

   は。波紋、はっ

      霞み、はるかに

         やめておけ。やあ!

波紋。

   ええ、赤裸々な

      雲は。そう

         いいぜ、ふれないが

10月。その

   は。波紋、はっ

      きみが見た、この

         いっ。おれがあなたに

日曜日、

   ええ、敏捷な

      ぼくの破滅の

         屠殺されるん

リビングの、ちいさいほうの

   は。波紋、はっ

      きざしなのだろう?

         やめておけ。や

ソファでうたた寝に

   ええ、過激すぎた

      ちがう?

         いいぜ、見ないが

落ちて仕舞った夜。8時だった。テレビを見ていた。庸子の習慣だった音楽番組を?あいまいな記憶。波紋はいつか、おきまりの席のふたりがけソファに丸まって落ちたあさい眠りが、いつか醒めて仕舞ったことに気づいた。同時に、じぶんが眠っていたと謂う事実にも。音響。耳に、生活の雑音。と、音楽。急激に醒めてゆくた神経に、脳の肉の部分がひらすら抗う。もっと、「なんか、」寝ていろ、「ね?」と。事実「なに?」肉体は「もう、なんにも」疲れていた。日中の「ね?」部活で。「なんのはなし?」

   ん、

「ほら。朝も言ったじゃない」

   ふたりは

      声?やや

「夢の?」

   ん、

「だって、」

   ささやくために

      すこしだけ

「気にする方が馬鹿だよ」

   ん、

      ひややかな

「あれって、でも」

   ふたりでいたのだ

      声?やや

「夢は、さ」

   ん、

      あいまいに

「そもそもあれって」

   ふたりは

      棘のある

「所詮、夢だよ」

   ん、

      ええ

「雅くんが見たって言ったのがはじまりでしょ?」と。庸子。ふたりのときにしか使われない、だから学生時代の呼び名を使って、だからなまぬるい媚びをその虹彩は?思った、…少女のような?波紋は、

   の、ように

      笑みを、…そう

         少女の?

ひとり。寝た、その

  ほほ笑み。わたしは

      爪にうかべた

         の、

ふりをしたのではない。ただ

   の、ように

      辛辣な

         少女の?

切っ掛けをうしなっただけにすぎない。目覚めた

   裏切る。わたしは

      深海魚たちよ

         の、

自分を告知するに妥当な

   の、ように

      笑みを、…そう

         少女の?

須臾を。聞いた。そして察した。3月か4月に雅孝がおなじ夢をみたらしい。その印象に、おびえながら雅孝は庸子に相談した。やや取り乱し、謂く、こどもみたいに「うつっ」深刻ぶって。「感染、」庸子は「うつっ…しちゃったね?お前に」気にもかけなかっ

   うっ

た。そもそもは。

   うつっ

笑って、しかも

   つっ

ただ一度だけだったので、邪気もなく忘れて仕舞っていた。しかし、「秋口からだっけ?」自分が夢を、くりかえし見るに及んでまるで、予知夢の奇蹟がふりかかったとしか「そんなふうに、」思えなくなる。「思い詰めるから余計、見たくもないもん見るんだよ」

   神託?神々は

      見なさい!

         あ。だれだ?

「どっちが?」

   殺さ…もう。れて、仕舞っ

      すがすがしい

         あ。全裸のあれら神々に

「そっちが」

   立ち去っ…すでに。た、のに?

      朝だ

         あ。口づけたのは

「最初」と。技巧的な「雅くん、」わらい声。「泣きそうな顔して興奮してたじゃない。あれ、見せてあげたい。雅くんに。雅くんにも。もう、」…ふるえちゃってさ。波紋。ひらくことを禁じたまぶたをみじかくふるわせた。俊敏に。そして夢。

   降るん

夢を、

   るんっ

たしかにあまりにもあざやかすぎる気がした

   降るん

      苛烈な、そう

夢を、

   るんっ

      排泄物ども

自分が見るに及んで波紋は、一週間たらずの、ふいに無口になった懊悩のあと実家を出た。11月。早朝。雅孝と庸子の動揺を思えば骨格が、骨髄に熱の沁み込ませる焦燥に咬まれた。前日、家出を、その秘密の共有というかたちで共謀した早川悠に、…おれはね?「出ていく。ここから、」

   曠野へ

      ぬかるみには

         ひかりよ

「でも、」

   われわれは

      ね?

         引き裂け。一瞬で

「だって、可能性が」

   曠野へ

      息吹きます

         わたしを。…ええ

「ただの夢じゃろ?」

   うしろ手にしばられたまま

      発芽!

         抜け目なく

「いやだ。おれは、」と。剥き出された至近の鼓膜につぶやくかの「だれも」ささやき。「傷つけたくない。…まして、さ。両親なんか、…あんなに、お前には言わないけど、くわしくは。言いたくないけど、でもたぶんいままでいっぱい傷ついて来たひとたちだから。これからしあわせになるべき人たちだから。だから、おれは、おれがだれも傷つけないうちに、ここから」と、「出ていく」別れは、

   見てたよ

悠に深刻な

   きみを。きみの

悔恨と

   ぜんぶを

苦痛と

   たしかに

悲痛をのこした。または消えない記憶として、いつまども与えられつづけた裏切りの

   墜落してゆく

      見よ

         気絶。…し、そうな

感覚。荷物など

   …空に。この

      わたし以外のすべてのものは

         朝に

ほとんど

   地表を

      有罪で、あっ

         無謀。…で、しかも

ない。のたれ死んでもいい気だった。フェリー乗り場、観光客を襲った。人がまばらな瞬間、海辺の木立ちの翳りに、60歳くらい?夫婦。夫のほうを樹木におさえつけ、…財布、出して。予定外だったそのじぶんの

   はっ

微笑。やさしい、

   はっ

かつ、愁う

   はっ

それ。衆目の散乱。それら集中力のない緩慢。それらのただなか、どの目の凝視も受けない間隙に襲撃されたふたりは、すべてをあり得ない僥倖の時かに錯覚させられた。鼻のさきすれすれに恩寵じみたうつくしい少年。ならば

   見て

      波紋。はっ

財布など

   鮮烈な

      ひろが…え?

与えてしか

   雨がふ

   ふ、

   ふっ


   降っているのだろう?

    ふ、

   このひたいに

    ふと。きみは

   雨が。汚物の

    涙を?

     見て

   雨が


   ええ、…見て


   苛酷な

    涙でさえないかのように

     朝日は、いま

   雨がふ

      なぜか、わたしも

    ええ

     似合っ…うつくしい

   ふ、

      感じな、…いま

    微妙に

     きみに

   ふっ


   降っているのだろう?

      傷みをしか。…どう?

    かすかに

     見て

   この眉に

      あなたも?

    わずかに、かつ

     赤裸々に

   雨が。水銀の

    あきらかに

     ふれるばかりで

   雨が


   ええ、…見て


   新鮮な

    ふ、

     わたしは。だから

   雨がふ

    ふと。きみは

   ふ、

    涙を?

   ふっ


   降っているのだろう?

    拭きさえしな…気づかなかったかに

   この網膜に

    ええ

   雨が。焔の

    微妙に

   雨が


   ええ、…昏く














Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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