流波 rūpa ……詩と小説164・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈69
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
謂く、
波を、しかも、なんと?
なんと謂うべきだろう?
それら、綺羅めき
その綺羅が波、と?
波を、しかも、なんと?
なんと謂うべきだろう?
それら、水なす水
その水のたわむれ、と?
波を、しかも、なんと?
なんと謂うべきだろう?
それら、力
その力の顯らわれ、と?
波を、しかも、なんと?
なんと謂うべきだろう?
それら、事象
その事象が波、と?
知性もなにもない肉の塊り
それにふいにこう問われたら
波って、なに?
なんと答えよう?…なんと?
波は波なし
波なす波は
月の海にも
海にも波は?
海にも波は?
月の海にも
波なす波は
波は波なし
なんと答えよう?…なんと?
波って、なに?
それにふいにこう問われたら
知性もなにもない肉の塊り
その事象が波、と?
それら、事象
なんと謂うべきだろう?
波を、しかも、なんと?
その力の顯らわれ、と?
それら、力
なんと謂うべきだろう?
波を、しかも、なんと?
その水のたわむれ、と?
それら、水なす水
なんと謂うべきだろう?
波を、しかも、なんと?
その綺羅が波、と?
それら、綺羅めき
なんと謂うべきだろう?
波を、しかも、なんと?
あるいはこの瞼はその波。波たち。波ら、波だち、波。波たち。まばたきをかさねてこの虹彩はその波。波たち。波ら、波だち、波。波たち。まばたきをかさねてこのまなざしはその波。波たち。波ら、波だち、波。波たち。まばたきをかさね、かさねて故にかさねて謂く、
波は波なし
飛沫はもはや
どこへ行こうか?
綺羅きらと
波なす波は
雪のようにも
なにをしようか?
綺羅ら
月の海にも
とろけあっては
なにを見ようか?
綺羅きらら
海にも波は?
海にも波は?
きききききっ
なにを見ようか?
綺羅きらら
月の海にも
綺羅ら
なにをしようか?
綺羅ら
波なす波は
綺羅きききっ
どこへ行こうか?
綺羅きらら
波は波なしあるいは「月には、」…ね。と。「だから、色のない雪が、降るんだ」そう返り見ざまに言ってみた六歳?…七歳?…そのわたし。かれに、母。日奈子。仮りにここでそう名づけておくかの女はやや呆気に取られて、…え?…と?そして、…ん?…と?なにか…なに?言いかけて、そして、ふいの言い淀み。そのくちびるに、しかもまたなにか言いかけ、そして、ふいの、ふいに、そこに、かの女はひとり、笑った。
「なに?…」
「だから、さ」
繰り返して、二度も同じことばをささやいて見せる自信はなかった。そんなもの、だからすでに言った張本人にさえ本当にされていないことなど、だからすでにもうどうしようなくたらめにすぎないことなど、だからすでにわたし自身にさえも顯らかだったにすぎなかったから。だから、怯えていた。…なに?と。日奈子。もう一度、と、ね?言って。…ね、ね、そう、…ね?日奈子がささやくことを予知して、あられもないその苛酷さに。
もう、後悔と羞恥しかなかった。
だからだろうか?そのわたしはすでに日奈子の膝にすがって顏をうずめていたのだった。羞ずかしげもなく、恥ずかしそうに。
「そう、…ね?」と。かの女はつぶやく。「そう、だ、ね?…」ね?…「降る…ね?月には。…」ね?…「海には。…」ね?…「色のない、…」ね?…「雪が。…」ね?…「だって、あそこ、色のないうさちゃん、いるもんね。…」ね?…「ひとりだけだと、さびしいから、」ね?…やさしく。ひたすらにやさしく、あるいは慰め、あるいはむしろそっと敎えさとすようにもやさしく。「…ね?」
見ていた。すでに、わたしは雪。
だから雪。
雪。
色彩のない雪。
降りしきる。
色彩のない月。
しずかに。
あまりにもしずかに。
だからたとえば、あのしずかの海にも。
色彩もひびきもない海にさえも。
その雪が。
二二年二月-三月//黎マ
以上、梶井の伝説的短編『櫻の樹の下には』を本歌とし複次的創作を試みた。
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