中論 Mūlamadhyamaka-kārikā 觀去來品後半・龍樹 Nāgārjuna の偈を、青目 Piṅgala が釈し、三蔵法師鳩摩羅什 Kumārajīva が訳す・漢訳原文と書き下し(4)
中論卷の第一
龍樹菩薩造
梵志靑目釋
姚秦三藏鳩摩羅什譯す
去者則不住 不去者不住
離去不去者 何有第三住
若有住有住者。應去者住。若不去者住。若離此二。應有第三住。是事不然。去者不住。去未息故。與去相違名爲住。不去者亦不住。何以故。因去法滅故有住。無去則無住。離去者不去者。更無第三住者。若有第三住者。即在去者不去者中。以是故。不得言去者住。復次。
◎
≪去者は〔=則〕不住
不去者も不住
去と不去者とを離れ
何んが第三の住有る≫
若し住有り、住者有らば應に去者の住なり。
若しは不去者の住なり。
(若)此の二を離れて應に第三の住有るべきこと、是の事然らず。
去者は不住なり。
去、未だ息〔已〕まざれば〔=故〕。
去と〔=與〕相違するを名づけて住とし〔=爲〕。
不去者も〔=亦〕不住なり。
何を以ての故に。
去法の滅するに因るが故にその住有り。
去無くば則ち住も無し。
去者、不去者を離れ更らに第三の住なる者無し。
若し第三の住なる者有らば〔=即〕去者・不去者中に在り。
是れを以ての故に『去者は住す』と言ふを得ず。
復、次に、
去者若當住 云何有此義
若當離於去 去者不可得
汝謂去者住。是事不然。何以故。離去法。去者不可得。若去者在去相。云何當有住。去住相違故。復次。
◎
≪去者、若し當に住すべくば
云何んが此の義有らん
若し當に去を〔=於〕離るべくば
去者は不可得≫
汝、『去者は住す』と謂はば是の事、然らず。
何を以ての故に。
去法を離るれば去者、不可得なり。
若し去者に去相在らば云何んが當に住有るべき。
去と住とは相違するが故に。
復、次に、
去未去無住 去時亦無住
所有行止法 皆同於去義
若謂去者住。是人應在去時已去未去中住。三處皆無住。是故汝言去者有住。是則不然。如破去法住法。行止亦如是。行者。如從穀子相續至芽莖葉等。止者。穀子滅故芽莖葉滅。相續故名行。斷故名止。又如無明緣諸行乃至老死是名行。無明滅故諸行等滅是名止。問曰。汝雖種種門破去去者住住者。而眼見有去住。答曰。肉眼所見不可信。若實有去去者。爲以一法成。爲以二法成。二俱有過。何以故。
◎
≪去・未去、その住無し
去時にも〔=亦〕、住無し
あらゆる〔=所有〕行・止の法
皆、去の義に〔=於〕同じき≫
若し『去者は住す』と謂はば是の人、應に去時・已去・未去中に在りて住したり。
三處皆、その住無し。
是の故に汝、『去者に住有り』と言はば是れ則ち然らず。
去法・住法を破するが如くに行・止も〔=亦〕是の如し。
行は〔=者〕穀子從り相續し芽、莖、葉等に至るが如し。
止は〔=者〕穀子滅するが故に芽、莖、葉滅するがごとし。
相續の故に行と名づく。
斷の故に止と名づく。
又、無明、諸行乃ち老死に至るまでを緣ず。
是れ行と名づく。
無明、滅せば〔=故〕諸行等も滅す。
是れ止と名づく。
この如くに」と。
問へらく〔=曰〕、
「汝、種種の門に去・去者・住・住者を破せど〔=雖〕而れども、眼見に去と住、有り」と。
答へらく〔=曰〕、
「肉眼の所見、信ず可からず。
若し實に去と去者と有らば、一法を以て成じたる〔=爲〕や。
二法を以て成じたる〔=爲〕や。
二俱に過有り。
何を以ての故に。
去法即去者 是事則不然
去法異去者 是事亦不然
若去法去者一。是則不然。異亦不然。問曰一異有何過。答曰。
◎
≪去法即ち去者
是の事は〔=則〕然らず
去法は去者に異なり
是の事も〔=亦〕然らず≫
若し去法・去者、一ならば是れ則ち、然らず。
異なるも〔=亦〕然らず。」
問へらく〔=曰〕、
「一と異とに何の過有る。」
答へらく〔=曰〕、
若謂於去法 即爲是去者
作者及作業 是事則爲一
若謂於去法 有異於去者
離去者有去 離去有去者
如是二俱有過。何以故。若去法即是去者。是則錯亂破於因緣。因去有去者。因去者有去。又去名爲法。去者名爲人。人常法無常。若一者則二俱應常二俱無常。一中有如是等過。若異者則相違。未有去法應有去者。未有去者應有去法。不相因待。一法滅應一法在。異中有如是等過。復次。
◎
≪若し去法を〔=於〕
即是に去者なり〔=爲〕と謂はば
作者、及び作業
是の事則ち一なり〔=爲〕
若し去法に〔=於〕
去者に〔=於〕異有りと謂はば
去者を離れ去有り
去を離れ去者有り≫
是の如き二俱に過有り。
何を以ての故に。
若し去法、即是に去者ならば是れ則ち錯亂して因緣を〔=於〕破したり。
去に因りて去者有り。
去者に因りて去有り。
又、去を名づけて法とす〔=爲〕。
去者を名づけて人とす〔=爲〕。
人は常なり、法は無常なり。
若し一ならば〔=者〕則ち二俱に應に常なるべし。
二俱に無常なるべし。
一なる中、是の如き等の過有り。
若し異ならば〔=者〕則ち相違す。
未だ去法有らざるに應に去者有り。
未だ去者有らざるに應に去法有り。
それら相ひ因待せず。
一法滅すも應に一法在らん。
異の中、是の如き等の過有り。
復、次に、
去去者是二 若一異法成
二門俱不成 云何當有成
若去者去法。有若以一法成。若以異法成。二俱不可得。先已說無第三法成。若謂有成。應說因緣無去無去者。今當更說。
◎
≪去・去者、是の二
(若)一か異かの法を成ぜんに
二門俱に成ぜず
云何んが當にその成有るべき≫
(若)去者と去法、若しは一法を以て成じ、若しは異法を以て成じたらん〔=有〕。
この二俱に不可得なり。
先きに已に第三法の成ず無きを說きき。
若し『成じたり〔=有〕』と謂はば應に『因緣に去無く去者も無し』と說かん。
今當に更に說かん。
因去知去者 不能用是去
先無有去法 故無去者去
隨以何去法知去者。是去者不能用是去法。何以故。是去法未有時。無有去者。亦無去時已去未去。如先有人有城邑得有所起。去法去者則不然。去者因去法成。去法因去者成故。復次。
◎
≪去に因り去者を知るに
是の去を用ふる能はず
先きに去法有ること無し
故、去者の去は無し≫
何づれの去法に〔=以〕隨ひ去者を知れども是の去者、是の去法を用ふる能はず。
何を以ての故に。
是の去法、未有の時は去者有ること無し。
亦、去時にも已去・未去は無し。
先きに人有り、城邑有りて所起有るを得るが如くに。
去法・去者は〔=則〕然らず。
去者、去法に因り成ず。
去法、去者に因り成ず。
この故に。
復、次に、
因去知去者 不能用異去
於一去者中 不得二去故
隨以何去法知去者。是去者不能用異去法。何以故。一去者中。二去法不可得故。復次。
◎
≪去に因り去者を知るに
異なる去を用ふ能はず
一の去者中に〔=於〕
二去を得ざれば〔=故〕≫
何づれの去法に〔=以〕隨ひ去者を知るとも是の去者、異なる去法を用ふ能はず。
何を以ての故に。
一の去者中に二の去法、不可得なるが故に。
復、次に、
決定有去者 不能用三去
不決定去者 亦不用三去
去法定不定 去者不用三
是故去去者 所去處皆無
決定者。名本實有。不因去法生。去法名身動。三種名未去已去去時。若決定有去者。離去法應有去者。不應有住。是故說決定有去者不能用三去。若去者不決定。不決定名本實無。以因去法得名去者。以無去法故不能用三去。因去法故有去者。若先無去法則無去者。云何言不決定去者用三去。如去者去法亦如是。若先離去者。決定有去法。則不因去者有去法。是故去者。不能用三去法。若決定無去法去者何所用。如是思惟觀察。去法去者所去處。是法皆相因待。因去法有去者。因去者有去法。因是二法則有可去處不得言定有。不得言定無。是故決定知。三法虛妄。空無所有。但有假名。如幻如化。
◎
≪決定して去者有るも
三去を用ふ能はず
不決定なる去者
亦も三去を用ひず
去法、定なるも不定なるも
去者、三を用ひず
是の故に去も去者も
去れる〔=所去〕處も皆に無し≫
決定とは〔=者〕その本の實有を名づく。
去法に因り生ずにはあらず。
去法とはその身の動を名づく。
三種とは未去・已去・去時を名づく。
若し決定して去者有らば去法を離れ應に去者有り。
應に住すること有るべからず。
是の故、≪決定して去者有るも三去を用ふる能はず≫と說きき。
若し去者、不決定ならば、……不決定とはその本、實無なるを名づく。
去法に因り去者と名づき得るを以て、去法無くば〔=以故〕三去を用ふ能はず。
去法に因るが故に去者有らば、若し先きに去法無くば則ち去者無し。
云何んが『不決定の去者、三去を用ふ』と言はん。
去者の如くに、去法も〔=亦〕是の如し。
若し先きに去者を離れ、決定して去法有らば〔=則〕去者に因り去法有るならず。
是の故、去者、三の去法を用ふ能はず。
若し決定して去法無くば去者、何を用ひたる〔=所用〕。
是の如く思惟觀察するに去法・去者・所去處、是れらの法皆、相ひ因待したり。
去法に因りて去者有り。
去者に因りて去法有り。
是の二法に因りてぞ〔=則〕去る可き〔=可去〕處有り。
『定んで有り』とは言ひ得ず。
『定んで無し』とも言ひ得ず。
是の故、決定して知れ。
三法、虛妄なりと。
空なりと。
所有だに無しと。
但に假名のみ有りと。
幻の如し、化の如しと」と。
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