多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説51
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
文書4(圓位文書A)
(圓位から久村へ、cc.香香美)
2019.09.06.メール
眉村和哉氏及びその妻深雪又その子息眞夜羽の件
先の9月4日夕刻に嚴島祇樹古藤記念山羽香奈枝女史との面会ありました件、一部始終報告しておきます。
愚僧の思惑としては当初山羽さんに眉村氏宅にお伺い戴くつもり、しかれども山羽さん曰く、第三者立ち合いのほうが冝しかろうと。
仍て愚僧提案するに沙羅樹院奥の離れ日本間を場所として提供の上愚僧立ち合おうと思いますが如何に?山羽さん曰く冝しと。
故、4日午後5時半に面談なる。
添付のファイルご確認いただければ幸い。
又、其の上でさまざまにご意見いただければ愚僧、いよいよ嬉し。
ではご一読のほど。
沙門圓位
〇圓位文書A
9月4日、午後5時過ぎに香奈枝さん本堂を訪れる。沙門圓位と談話。
此の時に眉村氏一家の昨年6月このかたのあらましを口傳、山羽さんあらかたご存じのようでした。
山羽さん曰く、今日が眞夜羽くんとは初對面の由、故、雑談程度の話の方がいいかもしれせんね。
愚僧答えて曰く、案ずるよりそのままに計るよりなるままに任せたがよろしいでしょうと。
山羽さん曰く、まだ何か起こってるわけじゃありませんからね。
愚僧、その言い方がなにというでもなくに心に残って、故、曰く、何か起こりそうだと?
山羽さんすこし考えて曰く、噂でいろいろと聞くじゃありませんか、と。
愚僧それ以上は追及せず。
噂云々、愚僧も既に知ること。
島の人々曰く、眉村氏どうも家庭内に暴力等多し、と。
眞夜羽くん虐待の疑いあり、と。
曰く、結婚当初はむつまじかったものの妊娠中に眉村氏輕いノイローゼの氣を見せたか?
是は後の島民の解釈。未詳。
出産後、夫婦関係に緊張あり。
或人曰、ある日深雪さん目をはらしていた、と。案じて理由を聞くに答えけらく転んだ、と。もちろん眞僞さだかならず。
又或人曰、夜、時に眉村家から夫婦言い争いの聲聞こえりと。その聲おおかた深雪さんの喚く聲であってその間その間に一重さんの仲裁らしい聲雑じる、と。此の事、最初深雪さん暴れるのを一重さんのなだめるの聲に聞き、耳を澄ますにどうやら夫婦の諍いを姑の仲裁する樣と合点した云々、但し此れも未詳。
或人曰、一重さんからいまどきの夫婦の円満の秘訣なんてものはないものかと、立ち話笑い話の内の一種のこぼれ話としてそれとなくに聞かれたことあり、此の時に此の人一重さんに問いけらく、あなたのところ若夫婦はそんなに不仲なのか?
一重さんさん答えらく、昔と今じゃ夫婦仲なんていうのも、かたちが違うからね、と。
更に問いけらく、喧嘩なんかするのか?仲良さそうなのに。
答えて曰く、夫婦の内と外なんてわからないものよと云々。
或人曰、ある日眞夜羽素っ裸で泣きながらに山道を走り下りるのを深雪さん追いかけて保護、泣きながらに連れて帰るのを見た云々、是、恐らく眞夜羽くん5歳程度の時か。此の時眞夜羽くんの素肌に夥しい殴打のあとあり云々、ただし時刻は夜の七時、必ずしもその見取りの正否、目撃本人もさだかならず
或人曰、是は眞夜羽くんのともだちのお母さまの話。ある日眞夜羽くんと友人Aくん埠前の広場で游ぶ。于時眞夜羽くんとAくんからみあって転ぶ。Aくんが眞夜羽くんにうしろからとびかかった故。
A君母あわてて駆け寄るに上にのしかかって無傷のA君泣きじゃくる。下に敷かれて膝等軽くすりむく真夜羽君泣きもせず、ややあってA君を大人びて諫める。曰く、いくら子供の遊びだからってね、うしろからとびかかったら、危ないよ。危ないくないように、游びは気をつけなきゃいけないよ、云々(尤も、これ等が本当なら本当の発言はすべて嚴島の方言だったはずである。念の爲註ス)
A君母、自分が云うべき事を子供に取られて仕舞って、此の子よく出来ただねと感心した云々。
A君母、眞夜羽に曰く、眞夜くんはつよいね。うちのAは泣いて、泣いて、怪我してないのに泣いて、もう、女の子だね(A君は男兒)
眞夜羽答えて曰く、仕方ないよ。子供だもん。
A君母、眞夜くんも同じ年でしょうよ?眞夜くんは強いからえらい。
A君曰く、眞夜は馴れてるからだよ。
A君母曰く、あんたといっしょよ。眞夜羽くんは転んでも泣かないから男の子。あんた、泣くから女の子。
A君曰く、眞夜はいっつも殴られてるから慣れてるよ。
眞夜羽笑う。且つに云いけらく、Aは女なの?
A君曰く、お父さんにいっつも殴られてるからだよ。
眞夜羽云けらく、Aは女だったんだね(と、笑い、囃す)
A君曰く、毎晩、毎晩、いじめられてるからだけじゃん
此の時にA君母囃し立てる眞夜羽に若干不快(もっとも、今愚僧思うにそもそも愚弄の意味なす言葉を吐いて与えたのはA君母當人であって、眞夜羽は口眞似したにすぎまいや、と)、故、それ以上追及せずにA君に、曰く、あんたもわけのわからない事いわないの。さっさと泣き已みなさいよ云々
A君、もう泣いてないよ。ぼく、もう泣いてないよ云々。
後、息子の云った言思い出されて気になればA君母、事の詳細といただそうかともおもったものの、子息の教育上の惡影響考えて深く追求せず。云々
又或人曰、小学校一年の時。授業開始時間に教室に行っても生徒ざわついて治まらない、と。故、(子供の爲)笑って諫める、しかれどもざわつきやまず。故手をうちならし諫めるしかすがにざわつきやまず。故黒板うちならしながら諫めれどもなおもざわつきやまず。故終に教師怒鳴る。
時にようやく鎮まり爾に教師問い糺しけらく一体なにごとかと。
一同沈黙。
ふたたび云う、何ごととですかと
同じくに沈黙。
みたび云う、何事?白状しないと先生もう帰りますよ。於是一分女子児童泣き出してしまい彼の女教師言い過ぎたと思った時に眞夜羽立ち上がって云いけらく、ぼくのせいです、と。
故教師問いけらく、なにしたの?と。
眞夜羽もじもじするだけで何の答えも云わず。故、對の端の某君立ち上がって云けらく、先生、眞夜羽くんは月に歸ります、と。ちなみに聞く所によるとこの児童大変利発で有名。故、困惑する級友を助けんとしたのだろう。
教師問う、月?
某君答えて曰く、月から来たんで、月に歸るんです。
於是教室内再度ざわつき始めた故、此の話打ち止めにせんとし教師なにをばかなこと云々言いかけた時に眞夜羽曰く、でも、ぼく、月に帰ったら食べられるよ。
于時、教室ざわめき立つ。
眞夜羽曰く、ぼく、おじいちゃんやみんなに食べられるよ。
教師是等一連の妄想を眞夜羽が口走ってそれを鵜呑みの児童の騒ぐと此の時思い当たって一同鎮まらせらた後眞夜羽に曰く、そんなことないから、大丈夫よ。
眞夜羽「あるよ。絶対だよ。
教師「なんでそんな莫迦なこと思い始めたの?テレビ?ゲーム?漫画?
眞夜羽「ちがうよ。
教師「なによ
眞夜羽「お母さんが教えてくれた。
教師「お母さん?
眞夜羽「毎晩毎晩、お母さんが教えてくれるよ。
教師「なによそれ
眞夜羽「お父さんも、おばあちゃんもみんな知ってるよ。
云々。
此の教師已に退任ずみ。理由は定年。一云、現在広島の実家に歸られ悠々自適云々。故、此の挿話は子供たちが口傳に兩親等にはなしたものが愚僧の耳にも入った次第。
又或人、愚僧に相談しにこられて曰く、深雪さんたち保護した方がよくはないかと。
愚僧問う、何故?
其人答曰、ある日スーパーの前で深雪さん眞夜羽君と逢った。故、しばし話した、と。取り留めない話するうちに時は夏場、暑くていやねと、不意に、「それとなく見せつけるように」自分の胸元襟首を仰ぎたてる。薄着なのでその内が見えそうになる。
その人女同士になにをしているかと不審におもうともなく想い居るにちらと胸元に引っかかれたような跡の見えた、と。故、その人問う、あれ、なに?
深雪さんことさらにあわて胸元惜し隱す。
その人更に問う、なに?どうしたの?真っ赤じゃない。
深雪さん答えてなんでもない、と。話しも打ち切り急ぎ足に返って仕舞ったと。
その人愚僧に云けらく、あれはご主人に折檻されてるんじゃないかと。此の時深雪さんに問いただす間、その傍らに眞夜羽くんその人を見上げ、「此の子に殺されるんじゃないと思うような」「どぎつい」「怖い」目をしてにらんでいたと。
愚僧、半信半疑で(その人、話に尾ひれを盛大につける人だった故)しばし静観しましょうか、と。
その人不安を謂うでも無し、謂いたいことを言い切った満足の後に歸らんとする後ろ姿に呼び止めて曰く、**さん、あれ、息子さんのしわざだと思っておられない?
その人返り見て謂う、なに?
愚僧云う、深雪さんの件。
その人愚僧を見、と見こう見し、軈て曰、いやだ。ばれちゃうのね。…あれさ、あのこがやってるのよ。
愚僧「それ又なんで?
その人「知らないわよ。けど、そうじゃない?
愚僧「いい子らしいじゃい?
その人「わからないわよ。…あの子よ。
云々。
その他噂話多数。尤も大半は虚偽、残りの大半は誇張ならんや。
山羽女史、故、さらにだに転生の妄想、毎朝の彷徨等あれば、なにかしら起こってもおかしくはないと、口に出さずともそう案じておいでのように愚僧、察した次第。
かくて十数分遅れて眉村親子到着す。
最初は当り障りない雜談になごませようかと愚僧画策し、眞夜羽くん此の寺の離れに来るのが始だったと記憶せし故そのあたり子供に話ししばしは戯れようかと思う矢先に和哉君愚僧におもむろに問いけらく、此の人が、その病院の?
愚僧「こちら、祇樹古藤記念園の山羽さん。…香奈枝さん。聡明な方でらして、
山羽「そんなことないですよ…(と、彼女もまず場を和ませようとことさらに反応してみせたのである)
愚僧「お美しいし、それに聖人君子で、お若いし(彼女は五十前)
和哉「どう思われます?
愚僧「どう?
和哉「息子の件…もうお聞きになった?(と山羽に)
山羽「ええ、あらかた
和哉「住職から?
山羽「さっき、詳細を、ね?(と私に)
和哉「じゃ、どう思われますか?
と。和哉氏更に咬みつくように何か言いかけ深雪さん眞夜羽くん默止、愚僧このとき黙らっしゃいな、と和哉氏を一括。
和哉氏默止。
愚僧云深呼吸されたほうがいい、と。
和哉氏愚僧を見、と見こう見し、なにか言いかけ愚僧云、一回、深呼吸して、おちつかれればいい。
於是深雪さん泣き出し、山羽さん彼女に添う。
愚僧、和哉氏に「いそいじゃだめ。あなたが落ち着いてね、しっかり、どおんと構えておらないと奥さんも息子さんも、心病んでしまわれるよ云々
和哉氏默止す。
深雪さん云「もう本当に、あれからいろいろあって…
山羽「いろいろ?
深雪「いろいろ、此の子、本当にわたしの子なんだろうかと、…でも、そう思うよ?じゃないん?云々
愚僧山羽慰め諫めようとするに深雪さん「あの頃に帰りたい。
山羽「あの頃?
深雪「去年とか一昨年とか?まだなにも無かったころ、あのころ、今思えば何もなくて幸せで云々
山羽「奥さんも不安よな?でも息子さんが一番不安よ
深雪「そうなの?そうなんでしょうか?云々
0コメント