天人五衰——啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism。小説16


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



かクに聞きゝかクて加愚耶比古ノ美古屠苦惱シ苦惱したルまゝに且つハ逡巡シ逡巡シたるまゝに且つハ焦燥したダ焦燥したルまゝに且ツは懊惱シたゞ懊惱しタる儘とめドもなクに靜かにそノ淚流れ盡くルべき時だにモ知らずソの淚流スを氣付きもせザれバ迦夜加と俱なリて娑娑彌氣囉玖

 あなたは知るか?

  戀しなさい

 あなたの誘惑が打ち克ったなら

  あなたはすでに戀に落ち

 龍はふたゝび舞い踊る

  戀に狂った

 自由に肌の

  おなじように

 その蛇の鱗に

  薰馬に戀した

 柔ら毛を綺羅らがせ

  わたしに

 降りしきる

  おなじように

 雨の中で

  戀しなさない

 ふたゝびに

  わたしに戀した

 あなたもだれもがすでに古びた

  薰馬のようにも

 あなたと誰もの人の殻をやぶり弃て

  戀しなさい

 あたらしい

  死になさい

 イノチの不死のカタチに目覺めて行くのを

  わたしに焦がれた

 あなたは知るか?

  その爲だけに

 その時に

  滅びなさい

 あなたに救われるすべはなかった

  その獸のかたちを亡ぼして

 巢食われたあらたなイノチ

  薰馬が干からび

 豪雨の中の

  朽ち乾く前に

 覺醒の時を

  人の肌に死になさい

 あなたはその目に見る爲に

  あなたの戀した

 あなたは知るか?

  その眼差しに

 わたしが滅べば

  わたしをだけ見い出しながら

 あなたも滅ぶ

  若やいだ

かくて迦夜香

  女の肌に

爾に

  散る優曇華の花

都儛耶氣良玖

 ゆらゝぐ影をおとしてこすれ合う。

 なにが?

 花が。

 降りそゝぎながら。

 無數の。

 花が。

 儛い散りながら。

 頭の上にも。

 髮の先にも。

 唇にさえも。

 肌の上にも。

 地の上にさえも

 それは優曇華。

 三千年の花。

 その時に加愚耶比古はさゝやく。

 半獸の神は。

 その人の口に。

 薰る柔毛。

 獸のふともゝに。

 さゝやく。

 その人の口は。

 ひとりで。

 まるでひとり誰の爲にでもなくてひとり語散らすように。

爾に半獸の

 唇に。

迦美加愚耶比古ノ美古屠

 散った言葉は

迦夜加と俱なりテ娑娑彌氣囉玖

 知ってる

  愛してる

 いま、僕は

  そうつぶやいた

 ぼくは知ってる

  愛してる

 いま、あなたを

  その唇を

 むしろはるかいにしへその過去のはじまりの前からすでにも?

  愛してる

 まさにあなたを

  見つめたまなざし

 ぼくは知ってる

  愛してる

 あなたをこそ愛してる

  そのまなざしに

かくて迦夜香

 永遠に

爾に

 時の滅びのその果てにまでも

都儛耶氣良玖

 その時に。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は舞う。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は散りゆらぎ眞珠の綺羅をなしだからまばたく。

 神なる加愚耶比古。

 その瞼は。

 はじめてまばたく。

 まるでいまさら氣付いたかのように。

 網膜は。

 みずからが網膜だった事實を。

 いまさらに知りはじめてまばたく。

 はじめて大氣にふれたにも似て。

 その時にも。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は舞う。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は散りゆらぎ眞珠の綺羅をなし消え失せる。

 灰の色。

 散る。

 だから加愚耶比古の左の角は。

 その鹿の牡。

 雄々しい牡鹿。

 枝の擴がりなす角。

 花と葉の茂りなす角。

 天人の角は萎えて腐る。

 だから腐って朽ちた。

 だから朽ちて失せた。

 穢れた白濁。

 その灰を散らし。

 その時にも。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は舞う。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は散りゆらぎ眞珠の綺羅をなしてふれた。

 加愚耶比古の肌に。

 だから沙はふれた。

 塵のように。

 穢れ汚れた。

 垢のように。

 肌にふれた。

 そして落ちた。

 あるいはへばりついた。

 だから塵垢を受た。

 その神の躬は。

 だから神なる加愚耶比古はすでに穢れた。

 その時にも。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は舞う。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は散りゆらぎ眞珠の綺羅をなしへばりつく。

 だから加愚耶比古の肌に。

 それ。

 その沙は知った。

 砂を濡らす汗。

 汗の霑いを。

 脇下の肌の。

 頸筋の肌の。

 こめかみの肌の。

 鳩尾の肌の。

 背筋の肌の。

 股下の肌の。

 ふともゝの肌の。

 ふくらはぎの肌の。

 優曇華の沙。

 三千年の沙は知った。

 汗の霑いを。

 額に流れた。

 まぶたに流れた。

 鼻に流れた。

 唇に埀れた。

 汗の穢れを。

 その時にも。

 その時に迄も。

 優曇華の沙は散りゆらぎ眞珠の綺羅をなし知った。

 顯らかに。

 加愚耶比古の足は。

 はじめて知った。

 二本の足の奇形なすカタチ。

 二本分の重力を。

 あるべきだった後ろの二本はすでになく。

 いびつな畸形の足で立った。

 すでになかった。

 厥れ。

 つやゝかな獸毛。

 その葦なすしなやかさ。

 すでになかった。

 厥れ。

 息吹く太もゝ。

 その荒らぐ肉の温度。

 すでになかった。

 厥れ。

 かすかに蒸氣さえ放ったそのあたゝかな尻。

 匂い立つ肉の息遣い。

 すでになかった。

 厥れ。

 ゆたかな尾の毛。

 その先端の綺羅めき。

 だから人種の足に立った。

 奇形の穢い足のかたちに。

 まばたく。

 迦俱耶は。

 すでに人にすぎない彼は。

 ふたゝびまばたく。

 迦俱耶は。

 すでに躬づからに神をなくした彼は。

 その時に。

 砂は。

 もはやなかった。

 優曇華の果実は。

 もはやなかった。

 さわす岩肌。

 かたわらに煙は立ち上る。

 足の下に灼熱の溫度。

 磐の下に。

 とよむ温度を磐肌は傳えた。

 そのときに。

 もはや優曇華の花はすでに朽ちた。

 そのときに。

 だから喰われた。

 三千年の花。

 枯れた無慚をすでに喰われていた。

 群がる蟲たちに。

 喰われていた。

 肌いろの蛆たちに。

 喰われていた。

 もゝいろの寄生虫たちに。

 喰われていた。

 腐乱の黴の繁茂にも。

 顏を上げた。

 加愚耶は。

 うつむいた顏を。

 ようやくに上げた。

 迦俱耶は。

 だからさゝやく。

 誰に?

 滂沱の淚。

 綺羅らぐ頬の纔か下。

 そのやつれた色のかすむ唇に。

 さゝやいた。

 誰に?

 ——僕は滅んだ。

かクて加愚耶躰ノ内から龍が頭ノ齒と舌と喉に喰われ貪られ咀嚼さレたり且ツは比伎能越呂智が頭の齒ト舌と喉に喰わレ貪らレ咀嚼されタり且つは癡布能越呂智が頭の齒と舌ト喉に喰われ貪られ咀嚼さレたり且つは保漏宇能越呂智が頭ノ齒ト舌と喉に喰われ貪られ咀嚼されタり且つは敝威加能越呂智が頭の齒と舌と喉に喰わレ貪られ咀嚼さレたり且ツは斗宇氐都能越呂智が頭の齒と舌と喉に喰われ貪ラれ咀嚼されたり且つハ破伽能越呂智が頭の齒と舌と喉に喰わレ貪られ咀嚼さレたり且ツは我爲娑伊能越呂智が頭の齒と舌と喉に喰われ貪ラれ咀嚼されたリ且つハ娑牟猊圍能越呂智が頭の齒と舌と喉に喰われ貪られ咀嚼さレたり且ツは志夜宇豆能越呂智が頭の齒と舌ト喉に喰われ貪られ咀嚼されたり故レそノ胸裂けテ肉散り血ノ玉碎け飛び散りて舞ひそノ脇腹裂ケて肉散り血の玉碎け飛び散リて舞ヒそノ喉首裂けて肉散り血ノ玉碎け飛ビ散りテ舞ひその腰骨砕けテ尻裂けレば肉散り血の玉千々に飛ビ散りて舞ひそノ太もモ裂けて肉散り血の玉碎ケ飛び散りテ舞ひそノ眼球吹き飛び脳漿飛び散リ血の玉碎け飛び散りテ舞ひそノ口蓋の奧より巨大ノ龍が唇叫びなガらに突キ出れば已に加愚耶が肉粉なシて散り血煙なシて散り不死の山に燃え立ツ煙にまジりて大龍飛び泣きワめき九尾ノ越呂智らわなナき叫びキ加夜加爾に知レり此の怒號此ノ轟音此の神鳴りノ聲是レらことごトくに大龍及そノ九尾なス越呂智が歡喜の聲なりトかくて不死ノ山火焰あゲてそノ紅蓮の炎に大龍らを慰撫しタりき故レ大龍大歡喜せり不死ノ山磐飛び散らせて噴火の叫きヲ上げたれバ故レ大龍大歓喜セり爾に不死の山雙ツにさけテ崩れ墜チ滅び散りたダ焰の大きノみ天をも焦がせバ故レ大龍大歡喜せりかクて地は裂けき磐は崩レき海はとドろき海はのたうち地の裂けめかラだに焰噴キ上げ炎と圡すでにまジりて形なすことごトくを碎き故レ大龍大歡喜せり爾に豪雨打チ降り地表を海なシ悉くを洗ヒ淨らに濁流に綺羅ラがせひビき立つ轟音そのことごトくに大龍大歡喜せりかクて大龍虛空を舞い踊り大氣塊りなシて由羅らぎ大地大きに震えとドまらずとよみわたりテ大龍沸き立つが如燃え上がるが如とドろぐ海の上に舞ふを爾に比伎能越呂智は歡喜し叫きゝ

爾に癡布能越呂智は歡喜し叫きゝ

爾に保漏宇能越呂智は歡喜し叫きゝ

爾に敝威加能越呂智は歡喜し叫きゝ

爾に斗宇氐都能越呂智は歡喜し叫きゝ

爾に破伽能越呂智は歡喜し叫きゝ

爾に我爲娑伊能越呂智は歡喜し叫きゝ

爾に娑牟猊圍能越呂智は歡喜し叫きゝ

爾に志夜宇豆能越呂智は歡喜し叫きて是レ給恩寵天地ノ大龍およビ有と無ト伊能智なス九尾なス越呂智ノ迦美ふたタび地と天ヲ幸み給へル次第ナり

天人五衰

啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism Ⅱ

以上は禪風の一角

仙人を典拠とする

黎マ2020.12.29-12.31.










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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