修羅ら沙羅さら。——小説。41


以下、一部に暴力的な描写を含みます。

ご了承の上、お読みすすめください。


修羅ら沙羅さら

一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部

蘭陵王第二



かくに聞きゝかクて壬生見き顏潰シて仮面被りたるに似るそのレ・ダン・リー左ノ手ちひさきにまさにみたされる髮の毛つかミあげて首ひとつぶら提げてありきを壬生はみたされる見きその首が顏まさにみたされるレ・ハンが顏に他ならヌを壬生はまさにわたしは見きかクてレ・ダン・リー見上げてまさにわたしは見たる眼差しにまさにわたしは壬生に見蕩れみたされる見惚れたるかの魅登レ多ル色みたされる見ゑて而シテ壬生はみたされる知らずそノまさにわたしは

みたされた

ささやかれた

わずかのこゑのひびきさえなかった

あなたのしずかな、その

まなざしのなか

やさしさのなかで

恍惚の色さざめくヲすでにレ・ダン・リーいくたびもみたされる失神シ失神しかゝりみたされる失神シかゝりかゝシをりければみたされる知らずその失神の目の須臾まさにわたしは光らす色壬生にみたされる恍惚ノ色みたされてさざめき立チけるヲはみたされる知られざりて壬生まさにわたしはレ・ダン・リーを見てみたされた

つつみこまれた

いつくしむまなざしの

その

やさしさのなかに

その剝き剝くさざなむ白目白目に壬生さざなむ知りき波紋のさざなむ無際限に続きたるにゝてさざなむ煮え煮えくりかえるにゝてさざなむ燒き燒きつけさざなむえぐるかにゝてさざなむ痛みのさざなむ痛ミそのさざなむ肉の内にもさざなむ肉のさざなむ筋が内にもさざなみ盛かり盛かりてさざなみ又蘇り蘇りシつヅけてさざなみ痛ミさざなみだって燃え盛かり続くるさざなみ痛みのさざなみかさなるさざなむむげんの

もはやむげんの

むげんのはてなきやさしのなかに

痛みのさざなむ容赦も無きさざなむ痛みのそのさざなむ痛くさざなむ痛きをさざなみかくてさざなみ頌して

   あなたに話そう。

    月。——醒める、まさに

   まさにあなたの爲に話そう。

    夢からも、まさに

   いくつもの絶叫がさまざまに、細胞の

    うつつからさえ、月。——

   ちいさい細胞のいくつもの絶叫がさまざまに、それら細胞の

    醒めるような

   ちいさい細胞のいくつもの絶叫がさまざまに、それら細胞の

    その、月。——まさに

   ちいさい細胞のいくつもの絶叫がさまざまに、それら細胞の

    無垢とでもいうほかないその

   ちいさい細胞のいくつもの絶叫がさまざまに、つらなり、かさなり、

    血も淚もない、その

   つらなり、つらなり、かぶりあい、かみつき、かさなり、もたれ、もたれかかり、かぶりつき、たれ

    情け容赦ない無惨の、その

   かかり、かさなり、つらなり、ひびき、ひびきあい、かさなり、かみつき、つぶれ、ちり、とびちり、かさなり

    光、月の、落ちる、庭の、翳りの、影の、䕃の上に、

   ひろがり、かさなり、かさなりあいするそれら、それらの聞こえない絶叫の音響のもろもろを聞いたと、そう

    月。——その

   思った時に私の拳は殴った。その顏

    無慈悲な迄の、その

   異形の顏を。殴り、飛び散ればよかったのに——と。

    絶望的な迄の、その

   そう思った。異形が、拳にいまだに健在だった骨格の痛みを残して、そして

    ただ冴えて冱える、その

   体液をちらして後ろ向けにころぶのを見て、むしろ果物が——と。

    照らすだろう、間違いも無く、その

   例えば果物、西瓜が粉ゝに砕け散るようにその異形もみずからの血肉のしぶきのなかに

    軈てのいつか、その時に、その

   まさに消えてなくなって仕舞えば、と。

    今ある生き物の悉くの盡きた、その

   そう思った。そして私は見ていた。その異形の顏の生やした体躯の生やした四肢が漸くに起き上がり、ようやくに

    むしろ生き物と、今呼ばれた限りでの生き物のすべて盡きた、その

   ななめによろめく儘転がるように庭を走りやがて

    ないし生き物ですらないなんらかのなんらかのなんらかまでも盡きた、その

   転び、何度も、何度も失神に冴え堕ちかかりながらたちあがり、よろめき、ようやくに

    あるいは物質だけただ冴えて覺めた、その

   ななめによろめく儘転がるように庭を走りやがて

    地上をさえもが、その

   転び、何度も、何度も失神に冴え堕ちかかりながらたちあがり、よろめき、ようやくに

    光はまさに、その

   ななめによろめく儘転がるように庭を走りやがて

    そして海王星は知らない、そのダイヤモンドの海の底は、その

   異形の顏が庭の門を出て行くのを見た

    月の光をなどは一度も

壬生は思った。見たのだろうか、と、巧妙に誘いだされ、レ・ダン・リーに誘い出され、そしてレ・ダン・リーに殺されてしまう前に、その顏、蟹股でいつものように歩いたあとで、或いはすでに燒かれていたのか。その顏。あるいは未だ燒かれては?…いずれによその顏、レ・ダン・リーの顏を、蟹股で步いたあとで。少なくともその目を、目、…と、レ・ハンは、その目で、と、想い、その目、と、その、すでに抉り取られた目が、と、抉り取られる前に?かくて偈を以て頌して曰く

   足もとに転がった頸を見る

    棄てろ、だれか

   見て、唾吐くともなく身て

    燒き、燒き捨てろ、だれか

   それ、その穢いそれ、その

    穢いもの、それ

   穢い塊をみてわたしは、見

    穢い、ただ、その

   見捨てるようにつま先で蹴り

    穢いもの、燒け、だれか

   蹴ってすこしだけ転がし、それ

    燒き、捨て、だれか

   転がる、その

    燒き

蘭陵王第二

2020.08.11.17-19.Se-Le Ma








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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