　　　泣き叫ぶがいい

　　　その声。声が

　　　やまないうちに

　　　泣き叫んだがいい

　　　耳を覆うよ

　　　声。きみの、など

　　　聞きたくないから

　　　踏む。その影を

指さえもない死者さえも。孔。陥没し、だから海は舐めようとしていたのだろう。指さえもない死者さえも。孔。陥没し、死者ら。だから空はいたぶろうとしていたのだろう。指さえもない死者さえも

　　　泣き叫ぶがいい

　　　　　　知っていた。わたしは

　　　　もしも、ぼくに

　　　　　冴えていました

　　　その、声。声が

　　　　　　いつでも、すでに

　　　　情熱。それさえ

　　　　　まなざしに。すでに

　　　やまないうちに

　　　　　　醒めていた

　　　　あったなら。ぼくは

　　　　　視野は。宏大に

　　　泣き叫んだがいい

ナマステ、と。神林祐也にいつも通り呼ばれ壬生高明は振り返った。なにもない。憤りも。憤りも。焦燥も。違和感さえ、まして被虐の意識など。さらさら。すこしも。高明。その肌はさらさら。すこしも。褐色だった。さらさら。すこしも。ほのめかした。色彩。まなざしに、色彩。ただあざやかに異人種の血を。子供のわりにはっきりした顔だった。６歳までは岩石じみた武骨を見られた。７歳くらいから目立ってうつくしく見出されはじめた。最初はインド人と呼ばれた。カトマンズゥからカトマンドゥから紆余曲折あって、やがてナマステに定着した。興味はなかった。高明には。だれがどう呼ぼうが。また気を利かせて諫めようが。取り立てて捨て鉢になっていたわけではなく、眼にふれた祐也。その左眼。眉。やや、その尻が撥ねた。そう感じた。須臾。その瞬間には殴打。炸裂。怒りの。唐突な、気づけばすでに高明は祐也にとびかかっていた。押し倒し、拳。殴る。肱。小学校の６年。2002年。授業中だった。体育の。体育館。床。ふいうちされた祐也は背中から倒れたままもがき、高明ごとのたうつ。馬乗り。容赦ない。高明は。祐也。彼。肉体にかさなる風景。しかもまじわらない。ひとつ。強打した後頭部。そこに感じられつづけたにぶい陥没。なに？まるで抉られ、そこに不在があるかのような。と同時に、重い傷み。その連続。怒涛の。拳。ふりおろされたそれらがくれる傷み。顔中をうめつくすその密集。ふと落ち入りつづける短い呼吸困難。と、更に、それでいながらなにかそれらにひたりきれない冷静が、祐也。たしかにあった。かさなる風景。しかもナマステ、と。神林祐也に

　　　なま、ま、ま

いつも通り

　　　まま、な、な

呼ばれ、いつも通りにナマステ、と。神林祐也にいつも通り呼ばれ壬生高明は

　　　泣き叫ぶがいい

　　　　　　見える？

振り返った。ない。

　　　その、声。声が

　　　　　　見えるかな？

なにも、

　　　音響。…途切れないうちに

　　　　　　きみには、ぼくが

憤りも。

　　　泣き叫ぶがいい

　　　　　　微笑だよ。きみだけに

憤りも。

　　　お願い。せめて

　　　　　　見える？

焦燥も。

　　　しずかにしていてくださいませんか？

　　　　　　見えるかな？

違和感さえ、まして被虐の意識など、

　　　泣き叫ぶがいい

　　　　　　見えろタコ

高明。その

　　　その、声。声が

　　　　　　微少だよ。き

肌は褐色だった。ほのめかした。色彩。まなざしに、色彩。ただあざやかに異人種の血の流入を。子供のわりに

　　　交雑。薔薇と犬

　　　　　　愚劣だろうか？

　　　　　　　　　ノイズのなかに

はっきりした

　　　雑種。雉と鮎

　　　　　　純潔主義とは、いわゆる

　　　　　　　　　ノイズのなかで

顔だった。６歳までは岩石じみた武骨を見られた。まなざしたち。７歳くらいから目立ってうつくしく見出されはじめた。まなざしたち。最初はインド人と呼ばれた。まなざしたち。紆余曲折あって、口々。やがてナマステに定着し、興味は

　　　かとまっ

なかった。

　　　まっまっ

高明には。だれが

　　　まんづぅっ

どう呼ぼうが。また気を利かせて諫めようが。だから取り立てて捨て鉢になっていたわけではなく、眼にふれた

　　　あまりにも多くの

　　　　　　耳のうしろで

祐也。その

　　　かなしみ、ぼくら

　　　　　　巣をつくっていた

左眼。眉。やや、その

　　　知ってたよね

　　　　　　毛虫たち

尻が撥ねた。そう感じた。須臾。その瞬間には聞かせていた。すでに、祐也。その鼻。啜るに近い

　　　見よ。わたしたちは

　　　　　　泣かないよ

　　　　　　　　　激怒より

ノイズ。口。殴打。

　　　あれら極彩色の

　　　　　　だって、ぼく

　　　　　　　　　愛を。または

炸裂。唾液？怒りの、

　　　毛虫たちを、見

　　　　　　強いもん。ぶっ

　　　　　　　　　尊重を。猶も

唐突な、気付けばすでに高明は祐也にとびかかり、暴力。押し倒し、衝動。殴る。暴力。拳。傷み。ただ、肱。肉体局所の局所的かつ現実的に妥当な傷み。小学校。６年。2002年。授、12歳。小学校。じゅ、６年。2002年。授業中だった。体育。体育館。床。ふいうちされた祐也は背中から倒れてもがき、

　　　あれ？わたしは

　　　　　　しずかだって

のたうつ。高明ごと、

　　　失神を？…いま

　　　　　　すっげぇ、意外に

わななく。高明ごと、その

　　　あれ？れ？

　　　　　　しずかだって

四肢が。馬乗りの高明。殴打は容赦ない。祐也。かさなる風景。祐也に。しかも

　　　あれ？みんなは

　　　　　　伝えたいんだ

まじわらない。ひとつ。強打した

　　　失望を？…いま

　　　　　　すっげぇ、罵声で

後頭部。そこに感じられつづけた

　　　あれ？れ？

　　　　　　しずかだって

にぶい陥没。の、ような。なに？まるで抉られ、そこに不在があるかのような。怯えた。祐也。その感覚。すさまじい明確さに、怯え。祐也。同時に、傷み。重い。その連続。怒涛の。拳。ふりおろされたそれらがくれるその連続。怒涛の。傷み。だから

　　　え？…ええ、

　　　　　　容赦なく、きみは

　　　　　　　　　聞こえない

重い。傷み。顔中をうめつくすそれら

　　　重量級の

　　　　　　ざわめき。騒音に

　　　　　　　　　なにも。すべて

密集。ふと

　　　喰らえ。この、愛

　　　　　　激情に、ざわめきに

　　　　　　　　　轟音。すべて

落ち入りつづける短い

　　　え？…ええ、

　　　　　　容赦なく、きみは

　　　　　　　　　茫然と。だから

呼吸困難。その連続。怒涛の。拳。ふりおろされたそれらがくれるその更に、それでいながらなにかそれら明晰な現実にひたりきれない冷静が、

　　　風。ぼくは

　　　　　　激怒だよ

あった。だから

　　　髪の毛に、きみの

　　　　　　忿怒だよ

祐也。かさなる

　　　いたずらを。ふと

　　　　　　激烈だよ

風景。しかもまじわらない。祐也。高明におなじ12歳。まばたき。無理やり引きはがし、教師。岡田浩平。彼はそして唐突な

　　　え？

　　　　　　ええ、わたしは博愛主義者です

轟音。祐也に。耳に。五感に？叫び。声はそして唐突な

　　　え？

　　　　　　ええ、わたっ

轟音。祐也に。耳に。五感に？岡田浩平は引っ掴んだ髪に高明の頸をのけぞらせた。やめろ、と、なぜ？浩平。ささやき、視野。剥いた眼。高明の。至近。その

　　　やややばく

　　　　　　発光

　　　　　　　　　終了ですか？

充血。睫毛の

　　　やややばめ。かつ

　　　　　　閃光。散乱している

　　　　　　　　　終焉ですか？

いちどのふるえの近くに、浩平は

　　　やややるせなく

　　　　　　発光

　　　　　　　　　終着で

ひとり前歯を咬んだ。知っていた。もう、自分の激怒を。眉。忿怒。その痙攣ならすでに激昂。知っていた。もう、瘦せ浩平は。瘦せ身とはいえ三十代後半の彼にとって、興奮の過剰におさない四肢をもてあます少年ただひとりを投げ飛ばすことなどまだ、あまりにた易い部類に属した。だから造作もなく尻もちを、

　　　嗅げ。ほら

　　　　　　記憶が。ぼくらに

　　　　　　　　　無罪だ。まだ

高明。臀部。その

　　　匂いさ。汗の

　　　　　　褪せようもなく

　　　　　　　　　無垢だ。まだ

骨格。傷み。硬さの現実。犠牲者じみたぶざまな大股びらきに高明はただ唖然、と。思い知った。すでに、われに返っていた自分を、高明は。しかも気づいた。そこに、自分が泣きじゃくっていた事実に。高明。泣きじゃくる自分にせめて添おうとした。まるでひとつに。完璧なひとつに。６月。雲は多くとも、５日。その水曜日。一応は晴れ間のある、４限目。それが壬生高明がひとを殴った最初だった。授業は

　　　聞いていたよ

　　　　　　叫んでたのかな？

中断された。浩平は

　　　みんながその時

　　　　　　わめいてたのかな？

教室にふたりを

　　　息。飲んでたの

　　　　　　ごめんね。ぼくは

連れこんだ。他の学生は自習を命じられた。とりあえずは校庭を走った。並んで立って、泣きやんだ祐也は浩平にことさらに胸を張った。なぜ？高明は横眼に、それに気づいたすぐさま彼をなぜ？模倣した。浩平。大人である自分への鮮明な自覚。ふたりにやさしく話しかけつづけた。過剰な、と。祐也は、過剰にも、と、

　　　やさしすぎだよ

　　　　　　死ね。お前ら

まばたいた。ふと

　　　ほほ笑まないで

　　　　　　偽善者ども。すべての

目じり。ふと

　　　いとおしすぎだよ

　　　　　　いい子ちゃんづらさげ、げ。クソ

感じる。ふと

　　　ぼく泣いちゃう

　　　　　　死ね。お前ら

乾く。涙が、なぜ？かさつく。30分後通達が行った。高子に。やがて、職員室で他の教師に報告をしながら浩平はついに落ち着きを取り戻す。また、自信もすでに芽生えていた。なにに由来する自信かは本人にもわからなくとも。教室。ふたりを対話させたのだった。やれる限りはすでにやっていた。祐也は

　　　我々の悔恨を

　　　　　　悲しみ。ぼくは

素直だった。差別的言辞をしたことを

　　　本気にしないで。血の涙をも

　　　　　　咬む。ぼくを

詫びた。だから

　　　あざ笑っていて

　　　　　　傷み。ぼくは

あくまでも素直に。浩平を見つめつづけるまっすぐなまなざしに。反省。真摯。事実、反省。真摯。詫びごとが喉にあふれる寸前から祐也はふたたび反省。真摯。泣きはじめていた。反省。真摯。混乱していた。高明は。いまだ混乱のなかに、だから

　　　ぼくは悲しみ

　　　　　　やべっ

　　　　　　　　　沈黙を。わたしは

赤裸々な

　　　きみを咬む

　　　　　　クッソ、いま、おれ

　　　　　　　　　していた。愛そうと、

感情の

　　　ぼくは傷み

　　　　　　笑っちゃい

　　　　　　　　　わたしは。黙考を

渾沌。浩平はそう判断した。問うた。浩平が。いやだったの？インド人って、「…え？」呼ばれて、「インド人？」ナマステ、と。いちいち高明は「…べつに、」訂正してやり「嫌とか、」その…え？冴えた「そう、」声。目が「そういうんじゃ、」…な。「ない」泳ぐ。浩平。知った。言ってはいない、と、本当の気持ちをは、と、言ってはいな問う。いやなら

　　　え？

　　　　　　い。…はい

はっきり「口、な？」

　　　え？

　　　　　　い。…い？

口で「お前、な？口」いやならはっ「口、」云えば「あるんだから」い。良くない？いい。良くない。「お前、」暴力は。「怪我させたらどうする？」

「じゃ、友達をいじめるのはいいことですか？」憤慨。高明。唐突な、と、だれ？浩平。少なくともなぜ？高明はあれ？ナマステというあだ名を虐めと捉えていたその内的事実をいま言外にしかも鮮明に明かした、

　　　やめて。もう

　　　　　　ぶっちぎりの

　　　　　　　　　ほら。失踪

と、

　　　わたしたちには

　　　　　　クソ野郎

　　　　　　　　　風に。ほら

浩平。

　　　やさしい雨が

　　　　　　ぶっちぎりの

　　　　　　　　　帯が。ひかりの

知る。だから

　　　ふさわしいんだ

　　　　　　ま・・野郎

　　　　　　　　　ほら。失踪

言った。お前が「な？」いじめだと「な？」捉えた事実が「な？」あったこと「な？」それは「な？」事実だ、と、して、も、「な？」いま、と、あえて、故意にそのとき浩平は

　　　は、は、は、は、は、

　　　　　　べ、べ、べ、べ、べ、

笑って見せた。

　　　は、は、は、は、は、

　　　　　　び、び、び、び、び、

「あやまってるだろ？お前に。どうすればいいと思う？お前、いま、赦して、で、仲良くするべき？…って、喧嘩？し、つづけるべき？」沈黙。なにか、高明。いいかけた「なかなっ」

　　　しばし

その「仲直りするって」

　　　ください

そ。そのままの「そうすべき、

　　　時間を

じゃ」失語。

　　　しばし

高明。「な？じゃない？」ひらきかけた口蓋は「お前、そう」しかし「思わない？」言葉など「違う？」そこにあきらかに捜してなどいなかった。思った。浩平は。いま、自分は完璧な微笑を「…だったら、」見せている、と。「人殺してもあやまれば無罪ですか？」破綻。浩平。やや衝動的な確信。高明。かつあまりに強靭な確信。少年は

　　　こぼれてく

　　　　　　凝視を！

気づかないうちに

　　　指のあいだに

　　　　　　息をひそめて

自壊していた。

　　　あやうい隙間に

　　　　　　きみは、おれの

手遅れ？その

　　　砂たち。あやうく

　　　　　　見ろよ。悲惨を

生い立ち。その30分後通達が行った。高子に。やがて、職員室で他の教師に報告をしながら浩平はついに落ち着きを取り戻す。また、自信も芽生えていた。なにに由来する自信かは本人にもわからなくとも。眼の前、浩平を案じたおなじ６年担当の鈴木幸恵教諭。45歳。熟練。その馴れた微笑に肩をすくめ、故意に浩平は…仕事ですから。自嘲じみた「ちょうど、」笑み。「むずかしい年頃の入り口。…から、」決然。その「やりがい、」眉も、「あるんじゃないですか？ぼくら」微笑。頬。手遅れ？その

　　　星の砂たちに

　　　　　　ちりちりちりり

　　　　　　　　　あげたい

老いた血。

　　　キスをくれたら

　　　　　　鼻毛、燃やすぞ

　　　　　　　　　宿命に

…え？

　　　太陽風に

　　　　　　ちりちりちりり

　　　　　　　　　抗う手立てと

生い立ち。

　　　うぶ毛が燃えぼふっ

　　　　　　ケツ毛、燃や

　　　　　　　　　戦略を

知っていた。母親が十六歳で、…うつくしいひとだった。たしかに、彼女は。しかも極端なほどに。十六歳で生んだ。わからない。父親は。その名前は。だれにも。ボランティアで行ったフィリピンで現地の男たちに

　　　ね？外人だから

　　　　　　け。我等だけ

強姦された。1990年。

　　　ね？外人。みんな

　　　　　　け。ジャップだけ

夏。あるいは、

　　　ね？狂暴だから

　　　　　　け。まともでいるのは

不用意に華美な服装だったという説もある。またはその美貌の矜持のあまり、はじめての海外で

　　　やんっ

　　　　　　クソ餓鬼ですから

　　　　　　　　　恍惚と

自分から

　　　ケツ見ないで

　　　　　　無能ですから

　　　　　　　　　不安と

誘うような挙動を

　　　やんっ

　　　　　　クソまみれです

　　　　　　　　　羞恥と

見せた、とも。だから下等な貧乏人どもにせめて高級かつ優美なセクシーを垣間見せて施しと？その他諸説。とまれ本人になんら意図はなくとも文化的差異は如何様にも解釈と錯誤と感情を生む。無知のまま、その知らない至近で、見えたかもしれない。貞淑は煽情と、まなざし。拒否は誘いと、まなざし。怯えは挑発と、まな。少女は無知すぎたのだ、と。それら、あるいは人々の、どちらかと言えばフィリピン人に同情的な傾向は、高子が壬生コーポレーションの娘だという事実に根拠した。剛腕で知られた富豪の娘。一家全員過剰な思い上がり。壬生でなければ人ではないと？どうして破壊され穢さないでいられるだろう？考えて見れば、高子。苛酷な前半生というしかない。そう浩平には感じられ、高子。眼の前に逢った、壬生高子。女。その、むしろ清楚、かつ臆病にさえ見え、女。高子。経験の苛酷が、結果いま傲慢を削ぎ落したのかもしれない。浩平は、そんな解釈の自然にすでに

　　　ぼくを見て

　　　　　　頭上に

傾いていた。ふかい

　　　楽しく、きみに

　　　　　　ふるえる

同情。また、ここまで

　　　笑いかけてい

　　　　　　針が

ひとりで少年を育ててきた事実への素直な讃嘆。問題児という印象は、それまで高明にはなかった。利発だった。活発だった。俊敏だった。唐突に鬱に、そしてうつくしかった。あの母親とはすこし違うかたちで。いやでもひと眼を引く。造形として、またはその雰囲気自体、いずれにせよたしかに愛されるためだけに生まれて来たようにさえ

　　　愛して

思われた。ただ

　　　ためらいもなく

肌の色のみが

　　　愛して

異質で、しかも逆に、まさにその故に。瑕疵。と、そう名づけられた美の根拠。彼の、いかに不穏な、極端にうすい眉さえも。いま、浩平はそれら見かけの美の現実の内部に、すさまじい瓦解が始まっていたことを

　　　瓦礫に、きみは

　　　　　　見よ。しかも

知った。そう

　　　立ちつくせ

　　　　　　青空。微風

思った。だから憐憫。と、嫌悪。と、忌避。と、愛着。それら、たてつづけに乱れ、まじりあうきざしもなくただ、まなざしににじんだ、高明。ふかいもの想い。そのまなざし。眼。彼の。そおれに固有の、無意味な他人拒否の気配の不遜。かたわら、泣きじゃくってしまう祐也のいわゆる素直さの器用に、感じた。高明は、かるい嫉妬と軽蔑とを。反省など

　　　阿鼻叫喚。やや

　　　　　　見られず。だれも

　　　　　　　　　感じた

不可能だった。自分で、

　　　わたしの爪の

　　　　　　花。散ってく花も

　　　　　　　　　しみこむように

いったいなにが起きたのかかならずしも

　　　生え際あたりに

　　　　　　あるんだよ？その

　　　　　　　　　感じた

理解できていなかったから。押さえ難い衝動に？醒めていた。明晰だった。他人の気配しかない暴力。あくまで自分自身の。それは肉体を

　　　ある？…ね

　　　　　　無理だ。それは

あえがせた。肉体に

　　　見たこと、あ

　　　　　　肉体と精神の乖離と言う時

散らさせた。汗を、

　　　ある？…ね

　　　　　　それはすでに

肉体に

　　　しろい、花

　　　　　　肉体と精神、ふたつをともに

傷みをさえ、または

　　　竹。…きみは

　　　　　　捨象している

精神。たしかに精神にも現実は現実だったにすぎない。教師の言葉尻り。聞き取るそれにせめてもの論理的破綻を精緻に求めるしかなかった。不安ではない。鶴岡八幡宮。西側に県道21号線。それを北にすすめば鶴岡文庫がある。駐車場と鶴岡文庫の間の道に入り、突き当り、左手の小路をすすんだ数十メートルさきの右手。そこがいわゆる壬生の雪の下の別邸だった。もと宮司が住んでいた。壬生風雅が、大方の顰蹙にまみれながら追い出すようにし、買取った。建て直されたのは周囲の竹と樹木を活かした和風の平屋だった。前にかならずしも代り映えしない、それ。いつでも竹が

　　　さささっ

　　　　　　孤立。走った

匂った。笹が

　　　そそそっ

　　　　　　影が、だから

鳴る。そこが

　　　さささっ

　　　　　　鼠も。…孤独

高明と高子があてがわれた棲み家だった。門をくぐった。と、左手。ささやかな庭。ささやかな植栽の前、山崎秋子が

　　　翳り。笹の、…に、

　　　　　　く、くっ

頸を曲げた。

　　　やわらかな

　　　　　　くさっ。あおぐ、

ふと。高明を

　　　笹の翳りの

　　　　　　く、くっ

見た。かたわら。向こう。ややこころもとなく離れ、竹。それら、翳り。高子もそこに

　　　くさっ。あおぐっ

　　　　　　やさしい翳りが

　　　　　　　　　気配

立っていた。秋子は、

　　　く、くっ

　　　　　　ぼくらをあわく

　　　　　　　　　孤立。孤独の

あまりにも上手に

　　　くさっ。あおぐっ

　　　　　　昏ませるから

　　　　　　　　　気配

いつもどおりに快活だった。知っているはずだった。教師は言った。親には連絡したと。高子は秋子に頼り切っていた。相談のひとつもないことなどあり得ない。そもそも、秋子が電話に出たのではないか。高明。彼はそのとき秋子のために笑んでいた。高子。たぶん、

　　　だいじょうぶ

　　　　　　笹たちに、いま

苦悶。高明は、いま、

　　　心配してない

　　　　　　ひと吹き。風の

自分に向けるべき顔、その表情のかたちに、

　　　だいじょうぶ

　　　　　　いまは、風さえ

苦悩。たぶん。高明はそう

　　　心配じゃな

　　　　　　風。笹たちに、

思った。うなだれたように、高子。横顔。植栽を見、頸。かたむき、高明に、かたむきかけ、顎をなびかせはじめることさえなかった。無視。完成度の高い、…気づいた。高明は。待っていたんだ、と。庭で、用もなくふたり植栽を手入れするふりをし、または自分たち自身にもそう見せて、秋子。高子。ふたり。高明はあわてて素直な笑みをすれちがいざまにくれ、玄関。その引き戸を開けた。高子。ひとり、背後にまばたく。謂く、

　　　竹。…が

　　　香り、竹

　　　竹。…が

　　　しなり、竹

なに？目？これ。目？めっ。突き刺しましょうか？死者たち、し、し、しずまりかえったそれら饒舌を

　　　竹。…が

　　　　　　見つめていただろう？

　　　　知ってる？あなた

　　　　　さわやかな、ほら

　　　香り、竹

　　　　　　凝視。容赦ない

　　　　うしろ。わたしの、

　　　　　風。風たち

　　　竹。…が

　　　　　　見つめていただろう？

　　　　頸すじさえも、その

　　　　　さわやかすぎて

　　　しなった。竹が

なに？と、ふと見上げ目？これ。れ。目？れば、見て。ほらめっ。突きた。わた。わたしたちすべ刺しましょうか？ての頭上に、いま死者たち、し、し、しずまりかえったそれら饒舌を

　　　竹。…が

　　　　諦めれば？いっそ

　　　香り、竹

　　　　まよいなく苛烈なほどの完璧さでむしろ

　　　竹。…が

　　　　不可能だから。ら

　　　しなりあう。竹。あうっ

なに？と、ふと見上げなに？と、目？これ。れ。目？これ。目？れば、見て。ほら目？めっ。突きた。わた。わたしたちすべめっ。突きめっ。刺しましょうか？ての頭上に、いま刺しましょうか？青空。すがすがしいよ、ね？死者たち、し、し、しずまりかえったそれら饒舌を

　　　竹。…が

　　　　　　知ってる、の。だから

　　　　不可能だった。あなたは

　　　　　すれば？拘束を

　　　香り、竹

　　　　　　うぶ毛。そのあいまいな尖端さえ

　　　　秘密を、わたしに

　　　　　風。風は、ただ

　　　竹。…が

　　　　　　知ってる、の。だから

　　　　つくることなど、不可

　　　　　執拗にすぎて

　　　しなり、竹

　　　葉漏れ

　　　茎漏れ

　　　枝漏れ

　　　ななめに

　　　ひかり、…が

　　　さわぎ、竹

　　　笹。…が

　　　こすれ、竹

だって。あなたが振り向きざまに、唐突にそこで、息をとめてしまったものだから、思わずわたしはかたむけた頸に死者たち、し、し、しずまりかえったそれら饒舌を

　　　ひかり、…が

　　　　　　絞めつけてあげる。ただ

　　　　知ってた？もう、やや

　　　　　消さないで！足音を

　　　さわぎ、竹

　　　　　　できないほど。息も

　　　　ななめ。垂れかけたわたしの

　　　　　風。風が

　　　笹。…が

　　　　　　抱きしめていてあげるよ。ただ

　　　　おくれ毛。その一筋さえもが

　　　　　背後。すれちがいざ

　　　こすれた。竹が

だって。あな叫びそうなほどに、またはたが振り向きざすでに巨大な厚みをもってまに、唐突にそ叫ばれた声の苛酷であるかにもこで、息をとめてしま空が！まさに青くそったものだから、思わずわたして澄み切った、ほらしはかたむけた頸に青空。見上げたすがすがしいその死者たち、し、し、しずまりかえったそれら饒舌を

　　　ひかり、…が

　　　　自滅すれば？いっそ

　　　さわぎ、竹

　　　　生まれたものはすでに生まなかったと同じこと。…じゃない？

　　　笹。…が

　　　　不可能だから。不

　　　こすれあう。竹。あっ

だって。あな叫びそうなほどに、またはだって。あなたが振り向きざすでに巨大な厚みをもってたが振り向きざまに、唐突にそ叫ばれた声の苛酷であるかにもまに、唐突にそこで、息をとめてしま空が！まさに青くそこで、息をとめてしまったものだから、思わずわたして澄み切った、ほらったものだから、思わずわたしはかたむけた頸に青空。見上げたそのしはかたむけた頸に仰ぎ見るすがすがしい死者たち、し、し、しずまりかえったそれら饒舌を

　　　ひかり、…が

　　　　　　知ってる、の。だから

　　　　不可能だった。あなたが

　　　　　やめて！叫ばないで。もう

　　　さわぎ、竹

　　　　　　破裂してゆ。ゆ。いま、細胞が

　　　　そっとわたしだけを流し目に

　　　　　風。か、ただ

　　　笹。…が

　　　　　　知ってる、の。だから

　　　　盗み見たことなどは

　　　　　きみの。毛孔に、きみの。いぶきさえもがきみの。

　　　こすれ、竹

　　　葉漏れ

　　　茎漏れ

　　　枝漏れ

　　　ななめに

さわやかな、風が、いま。なぶるのだ、きみを

　　　葉漏れ

　　　　つつみ、つつ。音響が

　　　茎漏れ

　　　　わたしを

　　　枝漏れ

　　　　つつみ、つつ。音響が

　　　ななめに

さわやかな、な。風が、な。いま。なぶっ。なぶるのだ、な。きみを

　　　葉漏れ

　　　　　　存在。あなたという、その

　　　　轟音が、つつむ

　　　　　嬉しいのだった！

　　　茎漏れ

　　　　　　ひたすらに。ただ、それは

　　　　わたしを

　　　　　あなたがわたしを刺し殺したとしても

　　　枝漏れ

　　　　　　焦燥を、わたしに

　　　　つつみ、つ。轟音が

　　　　　たぶん、それでも嬉し

　　　ななめに

さわすがすがしく、ね？やかな、風が、な。風が、すがすがしく、ね？な。いま。風が、なぶっ。なぶすがすがしく、ね？るのだ、な。き風が、みを

　　　はっ。はっ。…れ

　　　　喰う。く

　　　くっ。くっ。…れ

　　　　く。い散ら

　　　えっ。えっ。…れ

　　　　喰う。く

　　　ななめに

　　　そこ。翳れ

　　　ながい、影

　　　そこ。綺羅

　　　あなたは

2023.02