拾遺愚草卷中女御入内屏御風歌・泥繪の御屏風の和歌・俊成九十賀屏風哥/藤原定家


據戦前版国歌大観



拾遺愚草中

 女御入内御屏風の哥[久治五年十二月]

 月次御美屏風十二帖

 左近衞權少將藤原定家

  正月小朝拜列立の所

かすみしくはるのはしめのにはのおもにまつたちわたるくものうへ人

  野邊小松原に子日する所

こまつはらはるの日かけにひきつれて千よのけしきをそらに見るかな

  山野に霞たちわたる所すみよしのまつもあり

はるかすみいまゆくすゑをおしこめておもふもとほきすみよしのまつ

  二月春日祭社頭儀

みかさやまさしけるつかひけふくれはすきまに見ゆるそてのいろいろ

  花中に鶯ある所人家あり

さとわかぬはるのひかりをしりかほにやとをたつねてきゐるうくひす

  人家ならひにのへに梅花咲きたるところ

をちこちのにほひはいろにしられけりまきの戶すくるうめのしたかせ

  三月澤邊春駒

はるふかくさはへのまこもゝえぬれはたちもはなれすあさるこまかな

  山野幷ひとのいへに櫻花さかりに咲きたる所

もろひとのこゝろにかをるはなさかりのとけき御よもいろに見えけり

  ひとのいへのにはにふちさかりにひらけたるところ

はるの日のひかりてりますにはのおもにむかしにかへるやとの藤なみ

  四月人家に更衣したる所卯花垣根あり

けふことにひとへにかふるなつころもなほいくとせをかさねてかきむ

  賀茂下御社神館邊葵付けたる人まゐるところ

ちはやふるかものみつかきとしをへていくよのけふにあふひなるらむ

  早苗うゑたるところ

あめのしたけしきもしるくとるなへはみつをこゝろにまつそまかする

  五月ひとのいへの雲間にほとゝきすあるところ

いくさとのひとにまたれてほとゝきすやとのこすゑにこゑならすらむ

  菖蒲かりたるところ又人家に葺きたる所もあり

あやめくさなかきちきりをねにそへて千よのさつきといはふけふかな

  ひとのいへのにはになてしこ咲きたるところ

たねまきてちりたにすゑぬとこなつのはなのさかりはきみのみそ見む

  六月山井邊に人ゝ納凉したる所ひとのいへあり

なかき日にはるあきとめるやとやこれむすへはなつもしらぬましみつ

  野邊の杜間になつくさしけるところ

わけゆけはなつのふかさそしられけるもりのしたくさすゑもはるかに

  河邊に六月祓したるところ

みそきしてむすふかはなみとしふともいくよすむへきみつのなかれそ

  七月小野幷人家にあきかせふきたる所はきあり

てるつきのひかりそふへきあき來ぬときくもすゝしきをきのうはかせ

  野花さかりにひらきて人ゝあつまりたるところ

おしなへてはなにこゝろはいりにけりのへの千くさをわくるもろひと

  春日野に鹿ある所

かすかやまあさ日まつまのあけほのにしかもかひあるあきとつくなり

  八月人家池邊人ゝ翫月所

あまつかせみかくゝもゐにてるつきのひかりをうつすやとのいけみつ

  會坂關駒迎に行き向ふところ

せきみつのかけもさやかに見ゆるかなにこりなき世のもちつきのこま

  田中に人家あるところ

あきふかきやまたのなるこおしなへてをさまれるよのためしにそひく

  九月山中に菊さかりに咲きたる邊に仙人あるところ

かきりなきやま路のきくのかけなれはつゆもやちよをちきりおくらむ

  山野幷人家紅葉さかりなるを人ゝ翫ふところ

うつしうゝるはなもゝみちもをりことにたつぬる人のこゝろをそ見る

  海邊に霧立たる所

たちまさるうらわのつきになかつきの日かすはかりをあらはにそ見る

  十月海邊にちとりあるところ海人鹽屋あり

きみかよをやちよとつくるさよ千とりしまのほかまてこゑきこゆなり

  網代に寒蘆しけれるところ

このころは瀨ゝのあしろに日をへつゝことゝふひとのたゆるまそなき

  江澤邊に寒蘆しけれるところ鶴あり

ゆくすゑもいくよのしもかおきそへむあしまに見ゆるつるの毛ころも

  十一月五節參入のところ

しろたへのあまの羽ころもつらね來てをとめまちとるくものかよひ路

  賀茂臨時祭社頭儀式上御社

ふるそてはみたらしかはにかけ冱えてそらにそすめるうとはまのこゑ

  野邊に鷹狩したる所

いそきたつ日なみのみかりゆきふかしかたのゝをのゝふゆのあけほの

  十二月内侍所の御神樂儀式

そら冱えてまたしもふかきあけかたにあかほしうたふくものうへひと

  山野樹竹雪ふりつみたるところ人家あり

くれたけもまつのすゑ葉もをれふして千よをこめたるゆきのうちかな

  十二月歳暮に下人等自山松切りて出てたるところ

たみもみなきみかやちよをまつか枝にかすとりそむるとしのくれかな



 泥繪の御屏風の和歌

  夏樹䕃納凉

すゝみにとみちは木のまにふみなれてなつをそたとるもりのしたかけ

  冬池邊氷

やとからは夜をへてこほるいけみつはかさねむ千よのかけそ見えける



 入道皇太后宮大夫九十賀算屏風の哥

 屏風哥十二首建仁六年八月校撰定

 左近權中將藤原定家

 春 霞 若菜 花

 夏 郭公 梅雨 納凉

 秋 秋野月 紅葉

 冬 千鳥 氷 雪

  雪

はなやまのあとをたつぬるゆきの色にとしふるみちのひかりをそ見る








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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