凡河内躬恒の和歌。躬恒集。原文。全文。據羣書類從


羣書類從卷第二百六十一和歌部百十六家集三十四

躬恒集

凢河内躬恒は古今集撰者。六位[。和泉大掾。



  延喜三年十月十九日仰によりて哥みつ奉る女一のみこの裳き玉ふ時に内よりさうそく玉ふその裳にみつくきかたきにすれる哥

なかれ出つる山をしおもへはよしの河ふかき心もたえむものかは

わたつうみの神も志るらん同しくは蜑のかるもを我にかさなん[※志ハ假名已下仝]

志ら雲のたちのみわたるくらはしの山に心をおもひつめつゝ

  延喜五年二月十日宣旨によりて奉れる和泉大將四十賀のれう屏風四帖内より始て内侍督殿に玉ふ哥

山たかみ雲ゐにみゆる櫻花心のゆきてをらぬ日そなき

大あらきのもりの下草志けりあひて深くも夏に成にける哉

すみの江の松を秋かせ吹からに聲うちそふるおきつ志らなみ

河上に時雨のみふる網代[※あしろき]にはもみちさへこそ落まさりけれ

  朱雀院女郎花合の哥をみなへしといふ五文字を句のかしらにおきてよめる

をゝぬきてみるよしも哉なからへてへぬやと秋の志ら露の玉

をりつれはみて秋の日は慰めつへてこの花を志らせすも哉

  淸凉殿の南のつまにみかは水なかれいてたりその前栽にさゝら河あり延喜十九年九月十三日に賀せしめ玉ふ題に月にのりてさゝら水をもてあそふ詩歌心にまかす

もゝ敷の大宮なから八十島[※やそしま]をみるこゝちするあきのよのつき

  亭子の帝の大井におはしませる時に九の題のうた秋水にうかへり

此河に木のはと浮てさし歸りみはけふよりそみなれそめぬる

秋の波いたくな立そおもほえすうき水にのりて行人のため

  秋の山にのそむ

けふなれは小倉の山の紅葉はゝそこさへてりてみえ渡るらん

秋霧のはるゝまにまにみわたせは山の錦はおりはてにけり

  もみちおつ

水の面[※おも]のからくれなゐになる迄に秋にあひかね落つるもみちは

  菊のこれり

きくの花けふをまつとてきのふおきし露さへ消えす今盛りなり

君かため心もしるゝ初霜のおきて殘せる菊にそありける

  鶴洲にたてり

鶴のゐるかたにそ有ける白妙のあまの濡れ衣[※きぬ]ほすとみつるは

うらわきて風やふくらんおきつ波おなし所をたちかへりつゝ

  たひのかりゆく

ふるさとをおもひやりつゝゆく鴈のたひの心は空にそあるらし

としことに友ひきつらねくる鴈をいくたひきぬと問ふ人そなし

  かもめなれたり

なれてこしおきの鷗はつけなくに後の心をいかて志るらん

すにをれはいさこの色にまかふ鳥てにとるはかりなれにけるかな

  猿かひになく

わひしらにましらな鳴そ足引の山のかひあるけふにやはあらめ[ぬ歟]

心あらはみたひてふたひ鳴聲をいとゝわひたる人に聞すな

  江の松おいたり

深みとり入り江の松も年ふれはかけさへともに老にけるかな

老にける松そ知るらんあゆ川のみゆきもかくはあらすや有けん

  夏の雜の哥

さみたれにみたれそめにし我なれは人を戀ちにぬれぬへらなり

水の面におひてわたれる浮草は波の上にやたねをまくらん

  はしめて

あはぬよもあふよもまさ[※儘]しいをねらは夢のたゝちはなれやしぬらん

  こしのかたに別る人に

行君も道もたひらの敎[本ノマゝ※恐誤都]にはまたきかへれる山そありけむ

  冬日人に送る

もみちはや袂なるらん神なつ月しくるゝことに色のまさるは

  ひらの山

かくてのみ我思ひらの山さらは身はいたつらに成ぬへらなり

  うちやま

わたつうみの波うちやまは濱にいてゝひろひおきてん戀忘れ貝

  ひえの山

夏ならぬ草とり捨てゝ植し田にひえのやますもおひにけるかな

  かみやま

住の江の岸のまにまに昔より神やかはらぬ松やうへけり

  水無瀨川

をちこちにわたりかねてそ歸りつゝみなせかはりて淵になれゝは

  さひかは

昔よりありのまにまにあらせぬはわかすさひかは人の心を

  志らに

山ちかみ人にもみえぬすゝむしは秋わひしらに今そ鳴なる

  日くらし

松の音は秋の志らへに聞ゆなり髙くせめあけて風そひくらし

  しをに

宵のまと思ひつるまに秋のよはあけしをにしに月のみゆらん

  ちゝこくさ

花の色はちゝこくさにてみゆれともひとつも枝にあるへきはなし

  かりやす草

鶯の心にはあらて春をたに鴈やすくさすとひかへりゆく

  わかれの哥

かたかけの舟にやのせる志ら波の立はわひしくおもほゆる哉

  雨の降日人に送る

衣手そけさはぬれたる思ひねの夢ちにさへや雨はふるらむ

  雜の哥

君みてはあかぬへしやと心みにたゝまくをしきからにしきかな

大空をなかめそくらす吹風の聲はすれともめにもみえねは

いつらなる山にかあらん鴈かねの音のほのかにきゝはつる哉

神無月もみちのときはやまとまてからくれなゐにみゆるさほ山

思へともあひもおもはす思ふとき思ふ人をやおもはさらなん

下紐のときしはかりを賴みつゝたれともしらぬ戀をする哉

おふれとも駒もすさめすあやめ草かりにも人のこぬか佗ひしき

  山寺にありて人にやる

世をうしと山に入るひと山なから又うきときはいつちゆくらん

  雜の哥

あら玉の年のよとせをなましゐに身をすて難みわひつゝもへぬ

いたつらにおいぬへらなり大あらきのもりの下なる草ならねとも

なけきのみおほえの山は近けれといまひとさかを越そかねつる

ことさらに志なんことこそかたからめいきてかひなく物を思ふ身は

けふくれてあすかの川の河千鳥いまいくせをかなき渡るらん

  秋

秋の夜の朧にみゆる月よにももみちの色そてりまさりける

久方の月をさやけみ紅葉はのこさもうすさもわきつへらなり

露けくて我衣手はぬれぬとも折てをゆかん秋はきのはな

  七日

秋風はいつしかとのみ待しかとあひてぬるよはたゝひとよなり

夜をさしてぬる君なれは天の河ゆふまくれにもいさわたりなん

  九日

老はみのからき物なりけふはしもぬれてもぬれてきくの白露

打はへてやすきいもねすきりきりす秋のよなよな鳴渡るらん

  山こえ

ともにわれかへる山ちの紅葉はのおのかちりちりわかるへら也

秋霧のはれぬあしたの天[大歟]空をみるかことくもみえぬ君かな

秋のゝに日くらしつるををみなへしよるやとまらん花のなたてに

荻のはのそよとつけすは秋風をけふから吹くとたれかいはまし

秋萩の中に立てしましりても我をも人は花とやはみぬ

もとの色はいつれなるらん白露の下にうつろふわかやとの菊

神無月水にうつろふ菊の花いつれかもとの色にはあるらむ

藤の花ちりなん後もかけしあらは池の心のあるかひはあらん

ことさらにみにこそきつれ櫻花道ゆきふりと思ふらんやそ

玉ほこの道ゆきふりにさくら花折るとや花のわれをおもふらん

  夏

月みつゝ待つとしらすやほとゝきすこてはたほかにゆきてなくらん

  雜哥

年をへて思ひおもひてあひぬれは月日のみこそ嬉しかりけれ

よとゝもに人を忘れぬむくひにやけふは嬉しくあひみそむらん

みつゝわれなくさめかねつ更科のをはすて山にてりし月かも

 [※空行]

天川舟さしわたす棹鹿のしからみふする秋はきのはな

くらへみんわか衣手と秋萩の花の色とはいつれまされり〇

あら玉の年ふりつもる山里にゆきあかれぬは我身なりけり

  春

あひ思はぬ花に心をつけそめて春の山へになかゐくらしつ

常葉[※ときは]なる松をはおきてあちきなくあたなる山の櫻をそみる〇

をしめともとゝまらなくに櫻花ゆきとのみこそふりてやみぬれ〇

散ぬともかけをやとめぬ藤の花池の心のあるかひもなき〇

わか宿の池の藤波咲きしより山ほとゝきすまたぬ日そなき

  夏

ほとゝきす鳴さみたれのみしかよは月かけさへそともしかりける

さみたれのたそかれ時は月かけのおほろけにやは我人をまつ

  冬

みよしのゝ山の心はけふやしるいつかは雪のふらぬ日は有し

梅か枝になく鶯の聲きけはよしのゝ山にふれるしら雪

  秋

わか宿の秋はきの花咲ときそをのへの鹿も聲立てなく

  七日人に送る

打はへてすくめる人はたなはたの逢ふ夜はかりはあはすもあらなん

秋のゝの花のいろいろとりそへて我衣手にうつしてしかな

立かへり又もみにこんもみちはゝおとしなはてそ山河の瀧

水の面のふかくあさくもみゆる哉もみちの色そ淵せ成ける

菊の花みつゝあやなくなほもあらて人の心ようつろふなはた

山ちかくめつらしけなく降雪のしろくやならむ年積りなは

山のはゝまた遠けれと月影ををしむ心そまつさきにたつ

久かたの月人をとこひとりぬるやとにさしいれり人の名たてに

みるほとにいつほせよとか月影のまた宵のまにたかく成ゆく

久方のあまつ空なる月なれといつれの水にかけなかるらん〇

  夏

さみたれの月のほのかにみゆる夜はほとゝきすたにさやかにをなけ

いらぬまにこんといひしかは今宵こそわれて惜けれ夏のよの月

あたらしくてる月影にほとゝきすふる聲しるく鳴わたるなり

  冬

花とのみ雪のみゆれは冬なから心のうちの春にやあるらむ〇

年ふかく降つむ雪をみる時そこしのしらねにすむこゝちする

降雪とまつしりなから匂はねとなかはすきては花とこそみれ

枝の上に雪をおき乍らくらふとも誰かは梅にあらすとはいはん

雪の上に思ふ心はいちしるくつれなき人のめにもみえなん

  春

よそにのみみてややみなん山櫻花の心のよのましらひに

鶯の谷の底にて鳴聲を山ひこたにやつたへきかせむ

靑柳のはなたの絲をより合せてたえすも鳴かうくひすのこゑ

  延喜六年六月廿一日壬生忠岑日次贄使としてかとのかはのにへ殿にあり躬恒宣旨かひの使として忠岑かかへらむとするに此哥を送る

とゝむれととゝめかねつも大井河ゐせきをこえて行水のこと

  忍ひて御ことひかせ給を聞て

秋風のふきもてこすは白雲のあまつしらへをいかてきかまし

  七夕の朝に

棚機のあかて別れし今朝よりもよるさへあはぬ我はまされり

  八日の哥

行かへり今こん秋を戀そへてこよひはかりはあひやしなまし

  ひをけの銘

夢にたにねはこそみえめ埋火[※うつみひ]のおきゐてのみそ明しはてぬる

  火はしの銘

冬すきはなけおかれなん物故に君か手にはたたなるへらなり

  朱雀院の鶴のはかなくなるを

蘆たつのよはひはかなく成にけりけふそ千とせの限なるらん

  わかれををしむ

君をおもふ心は人にこゆるきのいその玉もゝけふやからまし

  さほかけ

いつれともおもほえなくに覺束ないさほかけにてひとめみしかは

  くれのおも

いつしかとまつ夕暮の面かけにみえつゝみえぬことのわひしき

  延喜十三年十月十五日内裏菊合に右大辨の仰によりて奉る

菊の花こきもうすきも今まてに霜のおかすは色をみましや

初しくれ降そめしより菊の花こかりし色に又そはりぬる

もとよりの色にはあらねと菊の花いろにいてゝも年へぬるかな

あたなれと我には菊の花のみてうつろふ色のこさまさりける〇

君かため心もしるゝ初霜のおきて殘せるきくにそありける

  たか□□ことり[※□闕字已下仝]

おり立て□[※他本作うゑ]すはありとも殊更に秋のかりにはあはんとそ思ふ

  人の家のほとりのやまの辨

過かてに人はとまれと山の井のたよりと思へは淺くそ有ける

月影にわきかたきよの白菊は折りてもをらぬ心ちこそすれ〇

  十月

もみちはの落くる瀧はかけてのみたえぬ錦をほすかとそみる

風にちるもみちの色は神な月からくれなゐのしくれこそすれ〇

  春

春にあふと思ふ心は嬉しくていまひとゝせの老そそひける

聲きけは老のまさるに人にくゝきくゝのみなくよふことり哉

  夏

さみたれの夜はくらくともほとゝきすさやかにたにもなきてこぬかな

ほとゝきすひとこゑなきていぬる夜はいかてか人のいほやすくねん〇

  春

思ひをは松のみとりに染めしかと花のかりのみゆくこゝろかな

  みのゝすけのくたるに送る

一日[※ひとひ]たにみねは戀しき君かいなは年のよとせをいかてすくさん

  延喜十五年二月廿三日仰によりて奉る御屏風の哥みつ

わか宿の梅にならひてみよしのゝ山の雪をも花とこそみれ

ちりまかふかけをやともに藤の花池の心そあるかひもなき

ほとゝきすよふかき聲は月まつとおきていもねぬ人そきゝける

  延喜十五年三月廿一日左衞門督の家にて三河守のうまのはなむけによめる

なにしおはゝ遠からねともみやき山是を手向のぬさにせよ君

  くすり送る哥

別るゝか苦しき叓もやまなくに何かくすりのあるかひもなし

  春

降雪にいろはまかひぬ梅のはな馨にこそにたるものなかりけれ

  秋

秋かせの吹ぬと思へはいてゝこし家地[※いへち]の方そこひしかりける

  秋田かる所

み山田のおくての稻をかりほして守るかりほにいく夜へぬらし

惜めともつひに散ぬる紅葉ゆゑふかぬ風にも物をこそおもへ

  延喜十七年仰によりて奉る御屏風の哥雪の中の杉

雪のうちにみゆるときはは三輪の山やとのしるしの杉にそありける

  鈴鹿山

おとにきくいせのすゝかの山川のはやくよりわか戀わたるきみ

  まとかた

あつさ弓いるまとかたにみつしほのひるはありかたみ夜をこそまて

  網代のはま

鹽みては入り江の水もふかやめのあしろの濱によする興津[※おきつ]なみ

  うはせ河

うはせかは下の心もしらなくにふかくも人のたのまるゝかな

  はり川

から衣ぬふはり河の靑柳のいとよりかゝる春やみにこむ

  たけ河

もみちはのなかるゝ時は竹河の淵のみとりもいろかはるらん

  わたらひ

玉くしけふたみのうらに住あまのわたらひ草はみるめ成けり

  みつ

殊更に我はみつらんこさゝはらさしてとふへき人はなくとも

  うきしま

いさやまたこの浮島にとまりなん沈みてのみも世をふれはうし

  なかはま

なかはまにいてしほたるゝほとゝきすさつきはかりはあまにさりける

  此の十首は延喜十六年四月廿二日わたくしことにつきていせの齋宮にまかりける時則寮頭國中をつかひにて國ゝ所ゝの名を題にてよませ玉ふにのそみて

をみなへしいかに思ふらん秋の野にひとよそねにし花のなたてに

  同十六年九月廿二日遠江介のせうそくに法皇明日石山に御幸有へしいとまあらはけふ中にくへしと云ゝ仍まかりたれは屏風障子ありこれに所ゝのおもむきを題すへきとあれはよのうちにかくへし其題も汝かけとありいなふれと□□□□あれはかき侍りぬ法皇御舟にて瀨田にのほらせ給ふ橋の本に舟つなきて介けふ物とも奉る介かたらひて舟にのりて御舟にくしてさふらふへしと則此哥

いつみにて沈みはてぬと思ひしをけふそあふみに浮ふへらなる

  その屏風障子に哥所ゝの題にしたかふ

足引の山へのみちはいかなれやゆくとみれとも過かてにする

我よりも先におひぬる松なれは千とせの後にあはさらめやは

梅の花さきてかひなき興つ波立ちよりてたにみるひともなし

あまのゝるたなゝしを舟あともなく思ひし人を恨みつるかな

もしほやくあまのたく火のけふりより思ふかたには立のほりけり

やま里に年はふれとも瀧つせのはやく我みし人たにもこす

下にのみもえわたれとも打はへて我おもひをはけつ人もなし

紅葉ちる秋ならすとも棹鹿は山のねたかく今もなかなん

むらさきの色しこけれは藤のはな松のみとりもうつろひにけり

かへる鴈雲路のたひにくる時はなにをか草のまくらにはする

さらしなの山よりほかにてる時もなくさめかねつこの比の月

  雪の中に思ひをのふるさこの中將に送る

ほかにもや雪はふるらむいままてに春こぬ宿は花とたかみむ

  延喜十八年八月十三日右大臣家八講おこなふ夜于時佛法僧といふ鳥なく有感此哥奉る

あし引の   み山にすらも  このとりは 谷にやはなく

いかなれは  志けき林の   おほかるを たかきこすゑも

あまたあれと 羽打ちはふき  とひすきて 春夏冬の

時もあるを  君か秋しも   もみちはの からくれなゐの

ふりいてゝ  なくねさたかに きかせそめつる

山にすら稀にきこゆる鳥なれと里にもきみか時よりそなく

そのひとも君はつけしもせしものをいかてか鳥のかねてしりけん

  とのゝ御返し

法[※のり]をおもふ心しふかく成ぬれは里にも鳥のみゆるなるらん

  同年晦日夜雨の降をみて

おにすらも宮の内とてみのかさをぬきてやこよひ人にみゆらん

  同年の九月廿八日殿上の人ゝちきりていちし[濁]く山のほとりに行てありけんなとちきりしにさこの少將其日になりてほのほのさはりありてきたらす二首の哥をつかひにつけて送る

いつしかとまつしるしなき紅葉ゝのおのかちりちりなりやしなまし

宮人の數はしりにきをみなへしいくらととはゝいかゝこたへん

  山のほおとり尋ぬる道にさうのいへあり紅葉ちりしきたりせんさいに花すゝき風にしたかひてなひく人をまねくにゝたり源少將馬よりおりて

ひとしれぬ宿になうゑそ花すゝきまねけはとまる我にやはあらぬ

  そうにかはりて

いまよりは植こそまさめ花すゝきほにいつる時そ人よりきける

  夕くれに東光寺座主阿闍梨にあへり木のもとに筵を敷池のほとりに灯をつらねてまつ人のかめのゑひすすむへきにあまたの盃酒あり一村の菊を家の前に植たり感題て哥あり夜深てかへらんとする頭少將のゝり馬を座主阿闍梨に送りてつきの夜乘てかへる

菊の花秋の野なかにうつろはゝよふかき色をこよひみましや

  同年十月九日更衣たち菊の宴し給ふ其日さけのたいのすはまの銘の哥女水のほとりにありて菊の花をみる

菊の花をしむ心は水底のかけさへいろのふかくもありける

  同年十月十九日舟岡に行幸有し時に御乳母の命婦まへにめしてもみちは折て奉れとあり一枝折て此哥をむすひつけて奉る

けふの日のさして照せはふなをかの紅葉はいとゝあかくそありける

  野に出たりける人を思ひやいてうちにて

かたるをもきかまほしさに秋のゝの花みにいにし人のこぬ哉

  人のむすめのもきるによめる

この春そ枝さしそむるゆくすゑの千とせをこめておふるひめまつ

  十日の日の朝美濃守におくる

君にあはてひと日ふつかになりぬれは我ひこほしのこゝちこそすれ

  かへし

あひみすてひと日も君にならはねは棚機よりも我そまされる

  同廿年二月廿七日に遠江守の餞に右近少將にかはりて

別るともきみをしらねはけさまては散花をのみをしみける哉

  かつらとさくらの木とより藤の花のはひかゝれる哥

かつらより馨をうつしつゝ櫻花なをうしろにも藤そさきける

  くれの春東國にわかるゝ人に送る

はる雨に君をやりてはあふさかの關のこなたに戀やわたらむ

春くれてさひしきやとはつれつれと庭しろたへに花そちりける

ひとめをもいまはつゝまし春かすみ野にも山にもなはたゝはたて

  秋

ちくさにも霜夜はうつる菊の花ひとつ色にそ月はそめける〇

色ことにみつきくの花よるといひておほつかなくもてらす月哉

ひともとの菊にはあれと露しもにわきてことこと色はそむらし

いまゝてにあふさか山のもみちはのちらぬは關やさへてとめける

菊の花をりて夜ふけぬしら露はわかてなからにおきやしぬらし

しろたへのいもか袖して秋の野にほにいてゝまねく花すゝきかな

秋のゝの花みにくれは白露にしとゝにも我ぬれにけるかな

さやかにもてれる月哉菊の花ひるのことこそよるもみえけれ

  春

いかにしてけふをとゝめんをしと思ふ花の道より日はくれにけり

春かすみ立出て野へにこしかともおいて若なはつみこゝちなし

櫻花のとかにもみん吹くかせをさきにたてゝも春はゆかなむ

春くれは吹風にさへ櫻花庭もはたれにゆきはふりつゝ〇

梅かえに雪のふれゝはいつれをか花とはわきてをりてかさゝん

雪とみて花とやしらぬ鶯のまつほとすきて鳴すもあるかな

  うちにて時鳥をきゝて

久かたの空ちかけれはほとゝきす雲井の聲のとをからぬかな

  春

をしとのみ思ふ心にひとへつゝ散りのみまさる花にもある哉

うくひすのなきいにしかは梅の花さけるとみしは雪にそありける〇

年ことになけとしるしもなきものをくれゆく春を何よふことり

  雜

濁り江におふるすかこもみかくれてわか戀ふらくは知人そなき

大ゐ川せきてしからみかけてのみ思ふ心をとゝめかねつも

ともかくもけふこそきかめ後はいかゝあすともしらぬ身をは賴まし

  おもひをのふ

身をわふる淚かいまそいつみなるたかしの浦にみちし志ほ哉

  春

梅のはなたゝにやはみん春雨にぬれぬれそなほ折やしてまし

靑柳のいとめもみえす春ことにはなのにしきを誰かをるらむ

春かすみ立なからよをあかしてはかりとともにそ鳴きて歸りし

梅花いろはめなれて吹く風に匂ひくるかそとこめつらなる

春のたつけふ鶯の初聲を鳴きて誰にかまつ聞すらん

はるたちて日はへぬれともうくひすのなくはつこゑを今そきゝつる

  夏

老ぬれはかしらもしろく卯の花を折りてかさゝん身もまとふかに

夏草はしけく日ことに成ゆけとかれにし人のみえぬわかやと

  春

年ことにとゝめかねてそ散る花のさきにもたゝぬくひをするかな

日くらしに雪とふらすは櫻花ひとにもみえてよにもをらまし

盛りをもみる人ならは櫻花ちることゝかくおもはましやは

  ひんかしの國に別る人に送る

足からの山ちはみねとわかれなは心のみこそゆきてかよはめ

櫻花散なんのちはみもはてすさめぬる夢のこゝちこそすれ〇

すかのねのなかき日なれとさくら花散このもとはみしかゝりけり

春の日はくれやしぬらむ花をおきて歸らんことそものうかりける

むらさきのいろのふかきは水底にみえつる藤の花にそありける〇

  いかるかにけ

ことそとも聞たにわかすわかなくも人のいかるかにけやしなまし

  ゆふかみ

戀すれはやせこそすらめものこしのゆふかみしかく思ほゆる哉

  あしふち

おそき馬はあしふちならてあふれとも心のみこそさきに立けれ

  あを

このめはる時になるまて苗代の靑田になるもつくらさりけり

  かすけ

棚機にわかかすけふのから衣たもとのみこそぬれてかへらめ

  雜

かへる鴈くもゐはるかにきく時は旅の空なる人をこそおもへ

年にあひて我をきませる君をおきて又名はたゝし戀はしぬとも

君なくてふるの山へに春霞いたつらにこそ立わたるらめ

  延喜七年五月晦夜内の仰叓により奉る哥

さみたれはこよひはかりかほとゝきす聲もやけふのかきりなるらし

おなしくは山ほとゝきす宮ひとのまつ時にやはなきてわたらん

  春

よしの山雪はふりつゝ春かすみ立はかすかの野へにそありける

散といへは人かとやおもふ櫻花めならぬ色のまたしなけれは

  夏

白妙にさける垣ねの卯花の色まかふまて照す月かな

  秋

千とせふる尾上の松は秋風にこゑこそまされ色はかはらし

秋ふかき紅葉のいろのくれなゐにふり出てのみそ鳴鹿の聲

年ことにあきくる雁のたよりにもわか思ふ人のことつてもなし

月をあかみおつる紅葉の色もみゆ散おとのみはきこえさりけり

  冬

神代より年をわたりてあるうちに降つむ雪の消ぬ志ら山

くれてまたあくとのみこそ思ひしか年はけふこそかきりなりけれ

ちはやふる神かき山の榊葉はしくれにいろもかはらさりけり

  なくなりにける女をこひて哥を送れりそのかへし

なきをこそ君はこふらめ年ふれはあるもかなしきものにそありける

  初雪

黑髮の白く成ゆく身にしあれはまつ初雪をあはれとそみる

  春

ことさらに君はこしかとさくら花あかてそいまはかへるへらなる

藤のはなかけてそ思ふむらさきのふかくし夏になりぬとおもへは

  夏

ほとゝきすけふとや志らぬあやめ草ねにあらはら[れ歟]て鳴もこぬ哉

うは玉のよやふけぬらむはらへとの河へ遙に千とり志はなく

  七日

久かたの天の河きり立時は棚機つめのわたりなるらん

  雜

狩にくる野へはたよりにわか宿をとふ人あらはなしとこたへよ

  秋述懷

草も木もうへはかれ行あき風にさきのみまさるもの思ひのはな

  かへし

ことしけき心よりさくものおもひの花の枝をやつらつえにつく

  同年の八月十三日の夜左衞門督殿にてさけなとあるついてに

秋の夜のあはれはこゝにつきぬれはほかの今宵は月なかるらん

  あたらしく女郎花を植て

ふる里の野へや戀しきをみなへし志はしはかりそ旅はくるしき

  らに

秋かせに馨をのみそふる花なれは匂ふからにそ人につまるゝ

霧くもる道もみえすもまとふ哉いつれかさほの山路なるらん

野へをたにみぬ人のためまたきおきてつとに折つる秋萩の花

  夏

さみたれにみたれてものをおもふ身は夏のよをさへあかしかねつる

  藤原遠中朝臣志なのへまかる人に

にしへ行月ををしめはあつま路にわかるゝひとをまたいかにせん

  秋の日ぬしなき家をすくるに

何せんに菊をうゑけんおゆるまてあらしと君かおもひける哉

秋かせにおとはすれとも花すゝきほのかにたにもみえぬきみかな

  雜

夢にたにさやかにみえぬ人ゆゑにおほつかなかる戀もする哉

我戀はしらぬ道にもあらなくにまとひわたれとあふひともなし

ひとりぬる人のきくにそ神な月にはかにもふる初しくれかな

  亭子院にかつらの木を掘て奉る時

みかくれてふけ井の浦にありし名は老の波にそあらはれにける

ことのはを月のかつらに枝なくは何につけてか空につてまし

  女郎花

ぬしもなき宿にきぬれはをみなへしはなをそいまはあるしとは思ふ

おほそらのかけのみゆるを山の井のそこのふかきと思ひけるかな

さはた河せゝのしらいとくりかへし君うちはへて萬代はへよ

濱千鳥あとふみつくるさゝれいしのいはほとならん時をまつ君

  春

木のもとにこよひはねなん櫻花またよこめても散もこそすれ

草まくら旅行ひとはたれならむ志り志らすともやとはかしてん

  田舎の家の櫻

さくら花みやこならねと春くれは色はひなひぬものにそ有ける

かりにきてたよりにをかは玉ほこの道ゆきふりと花やおもはん

千とりなく濱の眞砂をふみわけて行たひゝとはあはれたれそも〇

かりかねを雲ゐはるかにきく時は旅のそらなる人をしそおもふ

いさりするあまの心も志らなくにひろひやをらんこひ忘れ貝

梅かえにきすむあかすの鶯はなきまに花ををらせつるかな

馨をとめて誰をらさらむ梅の花あやなし霞立なかくしそ

春の野に衣かたしきたかためかならはぬ夢に若なつむらん

わか宿に花のたよりにとふ人は散なんのちにまことおもはむ

春くれと花のこゝろもなきものをうたてもなくか鶯のこゑ

あちきなく花のたよりにとはるれは我さへあたに成ぬへらなり

とはるゝもあたにはあれと我宿の花のたよりそ嬉しかりける

春霞たちにしものをいまも猶よしのゝ山に雪のみそふる〇

さみたれのよもたらぬよにつけとてや晝から月のまたきみゆらん

  七日

天のかはつまむかへ舟さすさをのさしてはあれととしにひとたひ

明ゆけはつゆやおくらん棚機のあまのはころも袖しほるまて

われのみそいつともしらぬひこほしはあはてすくせる年しなけれは

  屏風の哥人の家の海ほとりにある所

野へにこそ若なはつねにつむときけおきのみるめは時ゝそよる

  行舟

波のうへにほのにみえつゝゆく舟はうら吹風そ志るへなりける

  やな

春のためうてるやなにもあらなくに波の花にもおちつもるらむ

  女のある家におつる花をみる

花さかりこんとかいひし人よりもさきに櫻はちりぬへらなり

  秋

聲にのみ散ときこゆる紅葉ゝのよるの錦はかひなかりけり

  冬

年ふかくつもれる雪のあとたえて人かよひちのみえぬわかやと

  徐目の朝に思をのふ

都にて春をたにやは過くしてぬいつちにかりのなきてゆくらん

  法皇六條の御息所春日にまうつる時に大和守忠房朝臣あひかたらひて此國の名所の和歌八首をよむへきよしかたらふによりて六首送る于時延喜廿一年二月七日

故里のかすかの野への草も木もふたゝひ春にあふことしかな

きくに猶かくしかよふといそのかみふるき都もふかぬとそおもふ

春かすみかすかののへに立わたりみちてもみゆる都人かな

春日のゝけふのみゆきをまつ原の千とせの春は君かまにまに

年ことにわかなつみつる春日のゝ野もりはけふやは春を志るらん

櫻はな雪もふるなり三笠山いさ立よらんなにかくるやと

  花見

鶯はいたくな鳴きそ移り馨にめてゝわかつむはなゝらなくに

  草合

櫻花わかやとにのみありとみはなきもの草はおもはさらまし

あかすしてけふのくれなは藤花かけてのみこそ春を志のはめ

  つもこり

そこみえてなかるゝ河のはやけくもはらふと叓を神は聞なん

  七月七日

けふの日はくもらさらなん久かたのあまの河霧立わたるへく

ひこほしのつまゝつよひの秋風に我さへあやな人そ戀しき

  八月十五夜

いつこにかこよひの月のみえさらむあかぬは人のこゝろなりけり

かりてほす山田の稻をかけそへておほくの年をつみてける哉

  忍ひてかよひ侍ける人の家の柳を思ひやりて

いもかいへのはひいりにたてるあをやきのいまやなくらんうくひすのこゑ

あつさゆみはるたつひよりとしつきのいにしかこともおもほゆるかな

  かりの聲を聞てこしのかたにまかり侍にし人をこひて

春くれは鴈かへるなりしら雲の道ゆきふりにことやつてまし〇

  月夜に梅花折てと人のいひたりけれは

月夜にはみるともみえし梅のはな馨をたつねてそをるへかりける

鶯の谷の底にて鳴聲を峯にこたふる山ひこもなし

わかなつむかすかの野へはなになれやよしのゝ山にまた雪のふる〇

  御屏風

みつのおもにうきてなかるゝうめの花いつれをあはと人のみるらむ

いまははや根ありてなまし草のねのかはらてつひに春を待哉

春のゝにこゝろをたにもやらぬ身は若なはつまて年をこそつめ

吹く風をなにいとひけん梅の花ちりくるときそ馨はまさりける

春くれはうつる心はいろにいてゝあたにあやなし人に志らるゝ

  櫻見にまうてくる人に

わか宿に花みかてらにくる人はちりなむ後そこひしかるへき

春の野にあれたる駒のなつけには草はにみをもなさんとそ思ふ

足引の山吹の花山なからさくらかりにはあふ人もなし

いつれをかわきてをらましうめのはなえたもたはゝにふれる志ら雪

いまゝてにちらすはあらむ梅花こきものとのみおもひけるかな

わか宿にさきたる梅の立ちめくりすきかていぬる人もみるらむ

舟岡に花つむ人のつみ出てさしてゆくかたいかてたつねむ

志るしなきねをもなくかなうくひすのことしのみちる花ならなくに〇

  花のちるをみて

あひおもはてうつろふ色とみるものを花に志られぬ詠めするかな

ゆきとのみちるたにあるをさくら花いかにせよとか風のふくらん〇

  櫻花のをちへいぬるを見て

いつのまに散はてぬらむさくら花おもかけにのみいまはみえつゝ

久かたの空もくもりてふる雪は風にちりくる花にそありける

春ふかみ枝さしひちて神なひの川へにたてる山ふきのはな

ちるにたにあはましものを山櫻またぬは花のあらしなりけり〇

  亭子院哥合

けふのみと春をおもはぬときたにもたつことやすき花のかけかは

つねよりもをしみかねたる春ゆゑにこゝらの年をあかぬころかな

明けぬとも折りやまとはん梅の花いつれともなき雪のふれゝは

春たちてなほ降ゆきは梅の花さくほともなく散かとそみる

風にのみおほせやはてんむめの花はなのこゝろを志らぬものから

花しあらは春もなにかはをしからむくれぬとこそはけふはみましか

けふくれてあすとたになき春なれはたゝまくをしき花の䕃かわ

  屏風

いつれをか花とはわかむふるさとの春日の里のまたきえぬゆき

さくら花あたなるものと何かいはんわかみる人の心こそすれ

櫻はな夢にやあるらむおなしくはまたみぬさきに散そ志なまし

散とのみ見てやかへらん櫻花はなのおもはんこともあるものを

さくら花ちるとも志らて月影をあるとはかなく思ひけるかな

おきふしに惜むかひなくうつゝにも夢にも花の散をいかにせん〇

をしめはや花のちるらむあやにくにものもいはてそみるへかりける

春ことにをしむにもあらす我妹子[※わきもこ]かやとの櫻をえこそ忘れね

いかて我をらむとおもひし山吹の花のさかりのすきにけるかな

はるさめのふりそめしよりあをやきのいとのはなたは色まさりゆく

ひとりのみみてこそこふれ山吹の花のさかりにあふ人もなし

春ふかき色こそなけれ山吹の花にこゝろをまつそしめける

里はみな散はてにしを足引の山のさくらはまたさかすけり

雪とみて花とや志らぬ鶯はふく春風のまたさむきなり〇

  春

わかことや人もみるらん櫻花あらしも志らぬ色にもあるかな

ふる雪を梅にあらすとはおほ空をわきてことこと志らはこそあらめ

春の日をいまいくかとも思はねは志つこゝろして花をやはみる

何もせて花をみつゝそ暮しつるけふをし春のかきりとおもへは

梅かえになくうくひすの聲きけは山にもけふは雪はふりつゝ〇

おなしくはゆきてそ志らむ櫻花けふをすこさは夜のま志らぬを〇

櫻花山にちりなんのちはいかにけふこそゆきておらまほしけれ

櫻花さけるをのへはとほくともさかんかきりは猶出てみん

櫻花おちくる水のたえさらははやく散るともなけかさらまし

鶯のきつゝのみなく靑柳をうしろめたくもをらせつるかな

みつとてもをらて綾なく歸りなは風にやあやなまかせはてゝむ

猶折りてみにこそゆかめ花のいろの散なん後そなににかはせむ

花のいろをみるにこゝろはいぬれともいきて猶てにをらむとそ思ふ

あつさ弓はるの山へに霞たつもゆとも見えぬひさくらのはな

靑柳をかさしにさして梓弓はるのやま邊に入るひとやたれ

  延喜の御時にみつし所にさふらひける時志つめることをなけきてある人に送り侍りける

いつことも春のひかりはわかなくにまたみよしのゝ山は雪ふる

うくひすのゆくてにぬへる笠なれはたのみしまより雨やもりけん

みつゝのみなく鶯の故里はちりにし梅の花にそありける

うたゝねの夢にやあらん櫻花はかなくみえてやみぬへらなり

世にもにすかたなさけてふ紫の花ゆゑにこそ春もをしけれ

ほとゝきすなとかきなかぬわかやとの花橘のみになるよまて

妹とのみぬるとこなつの花みれはなへて人にはみせつともせす

  ある所のさふらひに酒たひけるにめしあけられてほとゝきすをよめと侍けれは

かれはてんことをは志らて夏草のふかくも人をたのみける哉

卯花のうしや我身よほとゝきす志はしとはせてなきつゝもみん

いまははやなきもしぬらむほとゝきすあやなくけふをなきてかへらむ

さみたれの玉のをはかりかつたえて程なく夜をも明しかねつる

みゝと川きけとおほしくおほぬさにかくいふことを誰かたのまん

さみたれにみたれそめにし我なれは人を戀ちにぬれぬ日そなき

戀すれは何かおもはんよなよなの山ほとゝきすなきつゝそくる

かけてのみみつゝそしのふ夏衣もうすむらさきに咲ける藤なみ

まさりてはわれそもえける夏むしを火にかゝりせて何もとめけん

さみたれにみたれやせましあやめ草あやなし人もいかゝ忘れぬ

昔みしわか故里はいまも猶うの花のみそめにはみえける

初聲をわれにきかせよほとゝきすまつはつなきを我にきかせよ〇

夏と秋とゆきかふそらのかよひちにかたへすゝしき風やふくらん〇

年ことに聲もれちらぬほとゝきすあかぬ心はめつらしきかな

  秋

荻の花いつか□□風は秋きぬる人にしらるゝしるへなりけり

初鴈の聲をはつかにきゝしよりなかそらにのみものをこそおもへ

むつこともまたつきなくに明にけりいつらは秋の長してふよは

玉くしけ明かたになる秋のよそ心ひとつをおさめかねつる

なかしとも思ひそはてぬ昔よりあふ人からの秋のよなれは

我のみそかなしかりける彥ほしもあはて過くせる年しなけれは

年ことにあふとはすれと棚機のぬるよの數そすくなかりける

秋の夜のあかぬわかれに棚機のたてぬきにこそおもふへらなれ

織女にかしつる絲の打はへて年のをなかく戀やわたらん

をみなへしひともとゆゑに秋のゝの千くさなからもなをおもふかな

我妹子かころものすそを吹かへしうらめつらしき秋のはつかせ

けふからは草木なりともうれしとはこの秋よりはいはておもはん

菊の花ちくさの色をみるひとも野へをとのみそうつろひぬへき

よそならてみる人なしと棚機のあふよのこともおもほゆるかな

かりてくる山へのとりを秋きりのたつたひことに空にこそしれ

あはちにてあはとくもゐにみし月のちかきこよひは所からかも

秋ことに旅行鴈はしら雲のみちの空にやよをはつくさん

過かてに野へにきぬらし花すゝきこれかれまねく袖とみゆれは

人志れぬねをやなくらん秋はきの花さくまてに鹿の音せぬ

  屏風の哥

立とまりみてをわたらむ紅葉ゝの雨とふるとも水はまさらし〇

秋の夜のなかゐをやせんはかなくて紅葉の川に日を暮しつゝ

風にちる秋のもみちは後つひに瀧の水こそおとしはてけれ

行やらて心やなにそ秋の野の道はひとつもあらしとそおもふ

秋のよの道をわけゆくかへりには我ころも手そ花の馨そする〇

明ぬれはつれなくなりぬをみなへし人しれすこそをらんとはおもへ

菊の花秋のよなからみましかはひと夜も月をおきてみましや

なかれゆくもみちのいろのふかけれはたつたの川は淵せともなし

  内侍督の四十賀屏風和哥

あたらしくわれのみそみむ菊のはなうつらぬさきにみんひともかな

ゆきかへりはるの山へをさりかたみ木のもとことにこゝろをそやる








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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