筧克彦『皇国憲法大旨』【昭和11年小冊子復刻附注釈】②序説。《国体の本義》
…或は亡き、『大日本帝国』の為のパヴァーヌ。その1
筧克彦『皇国憲法大旨』ヲ以下ニ復刻ス。
皇国憲法大旨
筧 克彦
[復刻及注釈亦資料附ス。奥附ケ等無シ。]
凡例。
[註]及ビ[語註]ハ注記也。
[]内平仮名ハ原文儘ルビ也。
[※]ハ追加シテ訓ジ又語意ヲ附ス。
底本ハ国会図書館デジタル版也。
同館書誌ニ昭和11年刊ト在リ。其レ以外未詳。
出版社、出版年月日等原書ニハ無シ。
蓋シ配布資料トシテ作成シタ小冊子ノ如キ文書乎。
国体の本義
第一 大日本国体
一、肇国
大日本帝国は、万世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて永遠にこれを統治し給ふ。これ、我が万古不易の国体である。而してこの大義に基づき、一大家族国家として億兆一心聖旨を奉体して、克く忠孝の美徳を発揮する。これ、我が国体の精華とするところである。この国体は、我が国永遠不変の大本であり、国史を貫いて炳[※へい]として[※顕カニ輝カシクノ意也。]輝いてゐる。而してそれは、国家の発展と共に弥々[※いよいよ]鞏[※かた]く、天壌と共に窮るところがない。我等は先づ我が肇国の事事の中に、この大本が如何に生き輝いてゐるかを知らねばならぬ。
我が肇国は、皇祖天照大神が神勅を皇孫瓊瓊杵ノ尊[ににぎのみこと]に授け給うて、豊葦原の瑞穂の国に降臨せしめ給うたときに存する。而して古事記・日本書紀等は、皇祖肇国の御事を語るに当つて、先づ天地開闢・修理固成[※しゅりこせい乃至つくりかためなせ。古事記ニ於是天神諸命詔伊耶那岐命伊耶那美命二柱神修理固成是多陀用弊流之国賜天沼矛而言依賜也即チ]のことを伝へてゐる。即ち是に、天神諸の命以ちて、伊耶那岐命・伊耶那美命二柱の神に、「是の多陀用弊流国を修理ひ固め成せ」と詔して、天の沼矛を賜ひて言依し賜ひき。]古事記には、
天地の初発[はじめ]の時、高天ノ原に成りませる神の名[みな]は、天之御中主ノ神[あめのみなかぬしのかみ]、次に高御産巣日ノ神[たかみむすびのかみ]、次に神産巣日ノ神[かみむすびのかみ]、この三柱の神はみな独神[ひとりがみ]成りまして、身[みみ]を隠したまひき。
とあり、又日本書紀には、
天先づ成りて地後に定まる。然して後、神聖[かみ]其の中に生[あ]れます。故[か]れ曰く、開闢之初、洲壌[くにつち]浮かれ漂へること譬へば猶游ぶ魚の水の上に浮けるがごとし。その時天地の中に一物[ひとつのもの]生[な]れり。状[かたち]葦牙[あしかび]の如し。便[すなわ]ち化為[な]りませる神を国常立ノ尊[くにのとこたちのみこと]と号[まを]す。
とある。かゝる語事[かたりごと]、伝承は古来の国家的信念であつて、我が国は、かゝる悠久なるところにその源を発してゐる。
而して国常立ノ尊を初とする神代七代の終に、伊弉諾ノ尊・伊弉冉ノ尊二柱の神が成りましたのである。古事記によれば、二尊は天ッ神諸々の命[みこと]もちて、漂へる国の修理固成の大業を成就し給うた。即ち、
是に天ッ神諸[もろもろ]の命以ちて、伊邪那岐ノ命・伊邪那美ノ命二柱の神に、この漂へる国を修理[つく]り固成[かためな]せと詔[の]りごちて、天の沼矛を賜ひてことよさしたまひき。
とある。かくて伊弉諾ノ尊・伊弉冉ノ尊二奪は、先づ大八洲を生み、次いで山川・草木・神々を生み、更にこれらを統治せられる至高の神たる天照大神を生み給うた。即ち古事記には、
此の時伊邪那岐ノ命大[いた]く歓喜[よろこ]ばして詔りたまはく、吾[あれ]は子[みこ]生み生みて、生みの終[はて]に、三貴子[みはしらのうつのみこ]得たりと詔りたまひて、即ち其の御頚珠[みくびたま]の玉の緒[を]もゆらに取りゆらかして、天照大御神に賜ひて詔りたまはく、汝が命は高天原を知らせと、ことよさして賜ひき。
とあり、又日本書紀には、
伊弉諾ノ尊・伊弉冉ノ尊共に議[はか]りて曰く、吾[あ]れ已に大八洲国及び山川草木を生めり、何[いか]にぞ天下の主[きみ]たるべき者を生まざらめやと。是に共に日神[ひのかみ]を生みまつります。大日孁貴神[おほひるめのむち]と号す。(一書に云く、天照大神、一書に云く、天照大日孁ノ尊。)此の子光華[ひかり]明彩[うるは]しくして六合[あめつち※六合ハ天下ニ同ジ。]の内に照徹らせり。
とある。
天照大神は日神又は大日孁貴神とも申し上げ、「光華明彩しくして六合の内に照徹らせり」とある如く、その御稜威は宏大無辺であつて、万物を化育[※かいく。造化シ育ムノ意也。]せられる。即ち天照大神は高天ノ原の神々を始め、二尊の生ませられた国土を愛護し、群品を撫育[※ぶいく。読ンデ字ノ如シ。]し、生成発展せしめ給ふのである。
天照大紳は、この大御心・大御業を天壌と共に窮りなく彌栄えに発展せしめられるために、皇孫を降臨せしめられ、神勅を下し給うて君臣の大義を定め、我が国の祭祀と政治と教育との根本を確立し給うたのであつて、こゝに肇固[※ちょうこ]の大業が成つたのである。我が国は、かゝる悠久深遠な肇国の事実に始つて、天壌と共に窮りなく生成発展するのであつて、まことに万邦に類を見ない一大盛事を現前してゐる。
天照大神が皇孫瓊瓊杵ノ尊を降し給ふに先立つて、御弟素戔嗚ノ尊の御子孫であらせられる大国主ノ神を中心とする出雲の神々が、大命を畏んで恭順せられ、こゝに皇孫は豊葦原の瑞穂の国に降臨遊ばされることになつた。而して皇孫降臨の際に授け給うた天壌無窮の神勅には、
豊葦原の千五百秋[ちいほあき]の瑞穂の国は、是れ吾が子孫[うみのこ]の王[きみ]たるべき地[くに]なり。宜しく爾皇孫[いましすめみま]就[ゆ]きて治[しら]せ。行矣[さきくませ]寶祚[あまつひつぎ]の隆[さか]えまさむこと、当に天壌[あめつち]と窮りなかるべし。
と仰せられてある。即ちこゝに儼然[※げんぜん。即チ厳然。]たる君臣の大義が昭示せられて、我が国体は確立し、すべしろしめす大神たる天照大神の御子孫が、この瑞穂の国に君臨し給ひ、その御位の隆えまさんこと天壌と共に窮りないのである。而してこの肇国の大義は、皇孫の降臨によつて万古不易に豊葦原の瑞穂の国に実現されるのである。
更に神鏡奉斎[ほうきょうほうさい]の神勅[註1]には、
此れの鏡は、専[もは]ら我が御魂として、吾が前[みまへ]を拝[いつ]くが如、いつきまつれ。
と仰せられてある。即ち御鏡は、天照大神の崇高なる御霊代[みたましろ]として皇孫に授けられ、歴代天皇はこれを承け継ぎ、いつきまつり給ふ[※齋き祀る。即チ清メ浄メテ御神ニ仕エ御神ヲ祀ルノ意也。]のである。歴代天皇がこの御鏡を承けさせ給ふことは、常に天照大神と共にあらせられる大御心であつて、即ち天照大神は御鏡と共に今にましますのである。天皇は、常に御鏡をいつきまつり給ひ、大神の御心をもつて御心とし、大神と御一体とならせ給ふのである。而してこれが我が国の敬神崇祖の根本である。
又この神勅に次いで、
思金ノ神[おもひかねのかみ※古事記ニ思金神、常世思金神即チとこよのおもいかねのかみ、日本書紀ニ思兼神、先代旧事本紀ニ思金神、常世思金神、思兼神、八意思兼神即チやごころおもいかねのかみ、八意思金神。天照太神ノ所謂岩戸隠レニ試策思慮ヲ廻ラス。]は、前[みまへ]の事を取り持ちて政[まつりごと]せよ。と仰せられてある。この詔は、思金ノ神が大神の詔のまにまに、常に御前の事を取り持ちて行ふべきことを明示し給うたものであつて、これは大神の御子孫として現御神[あまつみかみ]であらせられる天皇と、天皇の命によつて政に当るものとの関係を、儼として御示し遊ばされたものである。即ち我が国の政治は、上は皇祖皇宗の神霊を祀り、現御神として下万民を率ゐ給ふ天皇の統べ治らし給ふところであつて、事に当るものは大御心を奉戴して輔翼[※ほよく]の至誠を尽くすのである。されば我が国の政治は、神聖なる事業であつて、決して私のはからひ事ではない。
こゝに天皇の御本質を明らかにし、我が国体を一層明徴にするために、神勅の中にうかゞはれる天壌無窮・万世一系の皇位・三種の神器等についてその意義を闡明しなければならぬ。
天壌無窮とは天地と共に窮りないことである。惟ふに、無窮といふことを単に時間的連続に於てのみ考へるのは、未だその意味を尽くしたものではない。普通、永遠とか無限とかいふ言葉は、単なる時間的連続に於ける永久性を意味してゐるのであるが、所謂天壌無窮は、更に一層深い意義をもつてゐる。即ち永遠を表すと同時に現在を意味してゐる[※之ヲ別ノ言表様式デ中の今ト謂ウ。同義也。]。現御神にまします天皇の大御心・大御業の中には皇祖皇宗の御心が拝せられ、又この中に我が国の無限の将来が生きてゐる。我が皇位が天壌無窮であるといふ意味は、実に過去も未来も今に於て一になり、我が国が永遠の生命を有し、無窮に発展することである。我が歴史は永遠の今の展開であり、我が歴史の根柢にはいつも永遠の今が流れてゐる。
「教育ニ関スル勅語」に「天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」と仰せられてあるが、これは臣民各々が、皇祖皇宗の御遺訓を紹述し給ふ天皇に奉仕し、大和心を奉戴[※ほうたい。謹ンデ貴人ヲ上ニ戴クノ意也。]し、よくその道を行ずるところに実現せられる。これによつて君民体を一にして無窮に生成発展し、皇位は弥々栄え給ふのである。まことに天壌無窮の寶祚は我が国体の根本であつて、これを肇国の初に当つて永久に確定し給うたのが天壌無窮の神勅である。
皇位は、万世一系の天皇の御位であり、たゞ一すぢの天ッ日嗣[※あまつひつぎ。天孫トシテ皇位ヲ皇祖ヨリ継承ス造化ノ神及ビ日ノ神ノ嫡子ノ意也。]である。皇位は、皇祖の神裔[※しんえい。意ハ読ンデ字ノ如シ。]にましまし、皇祖皇宗の肇[※はじ]め給うた国を承け継ぎ、これを安国と平らけくしろしめすことを大御業とせさせ給ふ「すめらぎ」の御位であり、皇祖と御一体となつてその大御心を今に顕し、国を栄えしめ民を慈しみ給ふ天皇の御地位である。臣民は、現御神にまします天皇を仰ぐことに於て同時に皇祖皇宗を拝し、その御恵の下に我が国の臣民となるのである。かくの如く皇位は尊厳極まりなき高御座[※たかみくら。皇孫ノ玉座ノ意也。]であり、永遠に揺ぎなき国の大本[※おおもと。事物事象ノ根幹。因ミニ出口なお(出口直1837年(天保7年)1月22日是旧暦(12月16日)生、1918年(大正7年)11月6日没。)ノ神懸カリニ依ル神道新派大本教ノ所謂大本教事件ハ第一次大本事件1921年(大正10年)平沼騏一郎検事総長ニ依ル大本教検挙。一時改称ニ留マル。第二次大本事件1935年(昭和10年)全活動停止。亀岡ノ教団聖地及ビ240余棟ノ建造物ヲ破壊、王仁三郎一家ノ個人資産及ビ教団備品及ビ土地等財産没収ノ上競売ニテ処分。更ニ石碑、信者墓石等ノ大本ノ称号ヲ削除。海外拠点ニ於テ更ナル検挙及ビ施設破却。開祖・出口なおノ墓ヲ共同墓地ニ移転。等。]である。
高御座に即き給ふ天皇が、万世一系の皇統より出でさせ給ふことは肇国の大本であり、神勅に明示し給ふところである。即ち天照大神の御子孫が代々この御位に即かせ給ふことは、永久に渝る[※かわる。他ニ改まる、あふれる、こぼれる等ノ意モ在リ。]ことのない大義である。個人の集団を以て国家とする外国に於ては、君主は智・徳・力を標準にして、徳あるはその位に即き、徳なきはその位を去り、或は権力によつて支配者の位置に上り、権力を失つてその位を逐はれ、或は又主権者たる民衆の意のまゝに、その選挙によつて決定せられる等、専ら人の仕業、人の力のみによつてこれを定める結果となるのは、蓋し[※けだし。思ウニ、或ハ-カモ知レヌ等。]止むを得ないところであらう。而もこの徳や力の如きは相対的のものであるから、いきほひ権勢や利害に動かされて争闘を生じ、自ら革命の国柄をなすに至る。然るに我が国に於ては、皇位は万世一系の皇統に出でさせられる御方によつて継承せられ、絶対に動くことがない。さればかゝる皇位にまします天皇は、自然にゆかしき御徳をそなへさせられ、従って御位は益々鞏く[※かたく。強固ニシテ強靭ノ意也。]又神聖にましますのである。臣民が天皇に仕へ奉るのは所謂義務ではなく、又力に服することでもなく、止み難き自然の心の現れであり、至尊に対し奉る自らなる渇仰随順[かつごう乃至かつぎょうずいじゅん。渇キ焦ガレタ熱望ヲ以テ服従スルノ意也。]である。我等国民は、この皇統の弥々栄えます所以と、その外国に類例を見ない尊厳とを、深く感銘し奉るのである。
皇位の御しるしとして三種の神器が存する。日本書紀には、
天照大神、乃ち天津彦彦火瓊瓊杵ノ尊に、八坂瓊ノ曲玉[※或ハ八尺瓊勾玉即チやさかにのまがたま)。皇居御所ノ剣璽ノ間ニ保管サレテ在ルト傳ワル。詳細未詳。]及び八咫ノ鏡[※或ハ八咫鏡即チやたのかがみ。又ハ真経津鏡即チまふつの かがみ、或ハ神鏡又、寶鏡。一説ニ伊勢神宮所蔵。一説ニ宮中賢所即チかしこどころニ所蔵。是安徳天皇入水時ニ瀬戸内海海中ニ没シタノヲ一説ニ源義経一説ニ妹尾太郎兼康(是平士方武将。一説ニ鳥羽上皇御落胤即チ庶子。)ニ救済サレタト傳ウ。又一説ニ宗像大社邊津宮所蔵。]・草薙ノ剣[※或ハ天叢雲剣即チあめのむらくものつるぎ乃至あまのむらくものつるぎ、又ハ草那藝之大刀即チくさなぎのたち。是1185年(寿永4年)3月24日是旧暦(4月25日)安徳天皇入水時ニ喪失。現在熱田神社ニ在ト傳ワル。詳細未詳。]、三種の宝物を賜ふ。
とある。この三種の神器は、天の岩屋の前に於て捧げられた八坂瓊ノ曲玉・八咫ノ鏡及び素戔鳴ノ尊の奉られた天ノ叢雲ノ剣の三種である。皇祖は、皇孫の降臨に際して特にこれを授け給ひ、爾来、神器は連綿として代々相伝へ給ふ皇位の御しるしとなつた。従つて歴代の天皇は、皇位継承の際これを承けさせ給ひ、天照大神の大御心をそのまゝに伝へさせられ、就中、神鏡を以て皇祖の御霊代として奉斎[※ほうさい]し給ふのである。
畏くも、今上天皇[※是昭和天皇也。]陛下御即位式の勅語[註2]には、
朕祖宗ノ威霊ニ頼リ敬ミテ大統ヲ承ケ恭シク神器ヲ奉シ茲ニ即位ノ礼ヲ行ヒ昭ニ爾有衆ニ誥ク
と仰せられてある。
而してこの三種の神器については、或は政治の要諦[※ようたい。要ノ意也。]を示されたものと解するものもあり、或は道徳の基本を示されたものと拝するものもあるが、かゝることは、国民が神器の尊厳をいやが上にも仰ぎ奉る心から自ら流れ出たものと見るべきであらう。
[註1。所謂三大神勅トシテ以下在リ。
一ニ天壌無窮ノ神勅即チてんじようむきゅうのしんちよく。
葦原千五百秋之瑞穗国是吾子孫可王之地也。宜爾皇孫就而治焉。行矣寶祚之隆當興天壤無窮者矣。
豊葦原の千五百秋之瑞穂の国は、是れ吾が子孫の王たる可き地なり。宜しく爾皇孫就きて治せ。行牟、宝祚の隆えまさむこと、当に天壌と無窮かるべし。
二ニ宝鏡奉斎ノ神勅即チほうきようほうさいのしんちよく。
吾兒視此宝鏡当猶視吾。可興同床共殿以為齋鏡
吾が兒[みこ]此の宝鏡を視まさむこと当に吾れを視るがごとくすべし。與[とも]に床を同じくし、殿を共にして斎鏡[いはいのかかみ]と為す可し。
三ニ斎庭稲穂ノ神勅即チゆにはいなほのしんちよく。
以吾高天原所御齋庭之穂亦当御於吾兒
吾が高天原に所御す斎庭の穂を以て亦吾が兒に御せまつるべし。]
[註2。昭和天皇(1901年(明治34年)4月29日自リ1989年(昭和64年)1月7日迄在ラセラレ御在位1926年(大正15年即チ昭和元年)12月25日自リ1989年(昭和64年)1月7日ニ亙ル。)即位ノ勅語ハ以下ノ如シ。
朕惟フニ我カ皇祖皇宗惟神ノ大道ニ遵[※したが]ヒ天業ヲ経綸[※けいりん。国ヲ平ラカニ治メルノ意也。]シ万世不易ノ丕基[※ひき。国家統治ノ基礎、根本ノ意也。]ヲ肇メ一系無窮ノ永祚[※えいそ。『晋書』ニ《宜奉宗廟、永祚、与天比崇》ノ用例在リ。]ヲ伝ヘ以テ朕カ躬[※みずから]ニ逮へり[※及べり]朕祖宗ノ威霊ニ頼リ敬ミテ大統ヲ承ケ恭シク神器ヲ奉シ茲ニ即位ノ礼ヲ行ヒ[※1926年(大正15年)12月25日葉山御用邸ニ践祚[さくそ]サレリ。]昭[※あきらか]ニ爾[※なんじら]有衆ニ誥ク[※告ぐ。申シ渡スノ意也。]
皇祖皇宗国ヲ建テ民ニ臨ムヤ国ヲ以テ家ト為シ民ヲ視ルコト子ノ如シ列聖相承ケテ仁恕[※じんじょ。寛容ノ意也。]ノ化下[※けげ。仏教用語ニ下化衆生。救済シテ導ク。]ニ洽[※あまね]ク兆民相率ヰテ敬忠ノ俗上[※ぞくじょう。一般ノ上]ニ奉シ上下感孚[※かんぷ。真心ヲ交ワスノ意也。]シ君民体ヲ一ニス是レ我カ国体ノ精華ニシテ当ニ天地ト並ヒ存スヘキ所ナリ
皇祖考古今ニ鑑ミテ維新ノ鴻図[※こうと。遠大ナル計画、展望ノ意也。]ヲ闢[※ひら]キ中外ニ徴シテ立憲ノ遠猷[※えんゆう。遠謀思慮ノ意也。]ヲ敷キ文ヲ経[※けい。即チ縦糸。]トシ武ヲ緯[※い即チ横糸。]トシ以テ曠世ノ大業ヲ建ツ皇考[※こうこう。天皇躬ラ先代ノ天皇ノ御事ヲ宣ウ時ニ用ユ。此場合明治天皇。]先朝[※せんちょう。此場合明治天皇ノ御代。]ノ宏謨[※遠大ナル計画]ヲ紹継シ中興[※衰退ニ抗ッテ恢復セシメルノ意也。]ノ丕績[※ひせき。偉大ナル功績ノ意也。]ヲ恢弘[※事ノ謀リヲ押シ進メルノ意也。]シ以テ皇風ヲ宇内[※うない乃至かない。宇ハ家。喩エバ八紘一宇ハ八紘即チ天下ヲ一軒ノ家乃至一個ノ家族トスノ意也。]ニ宣フ朕寡薄[※かふく。不明不肖。謙遜。]ヲ以テ忝[※かたじけな]ク遺緒[※いしょ。遺サレタ事業ノ意也。]ヲ嗣キ[※つぎ]祖宗ノ擁護ト億兆ノ翼戴[※よくたい。臣下ガ君ヲ扶助シテ上ニ戴ク事也。]トニ頼リ以テ天職ヲ治メ墜スコト無ク愆ツ[※誤つ]コト無カラムコトヲ庶幾フ[※こいねがう。希ウ意也。]
朕内ハ則チ教化ヲ醇厚[※じゅんこう。厚情。]ニシ愈[※いよいよ]民心ノ和会ヲ致シ益[※ますます]国運ノ隆昌ヲ進メムコトヲ念[※ねが]ヒ外ハ則チ国交ヲ親善ニシ永ク世界ノ平和ヲ保チ普ク人類ノ福祉ヲ益サム事ヲ冀フ[※希う。]爾有衆其レ心ヲ協へ[※かなへ即チ基本形かなふ。心ヲ一致シテノ意也。用例協和音不協和音等。]力ヲ戮[※つく]セ私ヲ忘レ公ニ奉シ以テ朕カ志ヲ弼成[※ひっせい。成就サセルノ意也。]シ朕ヲシテ祖宗作述ノ遺烈ヲ揚ケ以テ祖宗神霊ノ降鑒[※こうかん。天ニ在ラセラレテ地ヲ見ラレ給ウ御眼差シノ意也。]ニ対[※こた]フルコトヲ得シメヨ
勅語引用以上。
大正天皇即位ノ勅語ハ以下ノ如シ
朕祖宗ノ遺烈ヲ承ケ惟神ノ寶祚ヲ踐[※ふ]ミ爰[※ここ]ニ即位ノ禮セラレテ第124代天皇ニ御即位サレ給ウ。]ヲ行ヒ普ク爾臣民ニ誥ク
朕惟フニ皇祖皇宗國ヲ肇メ基ヲ建テ列聖統ヲ紹キ裕ヲ埀レ天壤無窮ノ神勅ニ依リテ萬世一系ノ帝位ヲ傳ヘ神器ヲ奉シテ八洲[※是日本ノ別称。大八洲国。]ニ臨ミ皇化ヲ宣ヘテ蒼生[※そうせい。多クノ臣民等ノ意也。]ヲ撫ス
爾[※なんじら乃至それら]臣民世世相繼キ忠實公ニ奉ス
義ハ則チ君臣ニシテ情ハ猶ホ父子ノコトク以テ萬邦無比ノ國體を成セリ
皇考[※こうこう。天皇躬ラ先代ノ天皇ノ御事ヲ宣ウ時ニ用ユ。此場合明治天皇。]維新ノ盛運ヲ啓キ開國ノ宏謨[※こうぼ。遠大ナル計画ノ意也。]ヲ定メ祖訓ヲ紹述シテ不磨ノ大典[※ふまのたいてん。語彙ハ読ンデ字ノ如シ。大日本帝国憲法ヲ指ス。]ヲ布キ皇圖ヲ恢弘[※こうこう。押シ開クノ意也。]シテ曠古ノ偉業ヲ樹[※た]ツ
聖徳[※せいとく]四表[※しひょう。普ク世ノ中]ニ光被[※こうひ。光行キ渡ッテ覆ウ]シ仁擇□陬に霑洽ス
朕今丕績ヲ續キ遺範ニ遵[※したが]ヒ内ハ邦基[※ほうき。国家存立ノ根幹ノ意也。]ヲ固クシテ永ク磐石ノ安キヲ圖[※はか]リ外ハ國交ヲ敦[※あつ]クシテ共ニ和平ノ慶[※けい乃至よろこび]ニ頼ラムトス
朕カ祖宗ニ負フ所極メテ重シ
祖宗ノ神靈照鑑上ニ在リ
朕夙夜競業[※しゅくやきょうぎょう。朝昼夜分カタズ業務ニ明ケ暮レルノ意也。]天職ヲ全クセムコトヲ期ス
朕ハ爾臣民ノ忠誠其ノ分ヲ守リ勵精[※れいせい。心ヲ励マシ邁進スルノ意也。]其ノ業ニ從ヒ以テ皇運ヲ扶翼[※ふよく。翼戴ニ同ジ]スルコトヲ知ル
庶幾クハ心ヲ同シクシ力ヲ戮セ倍々國光ヲ顯揚セムコトヲ
爾臣民其レ克[※よ]ク朕カ意ヲ體セヨ[※体現シ具現化セヨノ意也。]]
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