ジュリアン・O、浸蝕。そして青の浸蝕 ...for Julian Onderdonk /a;...for oedipus rex #132



以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



//ね?/どう?/あなたに日射しはここちよいかな?//

庸子。リビングに彼女は壁一枚さきの玄関先、波紋をはげましつづける雅孝のよそおい切った呼び声の快活に、

   知っていた

      なぜ?

不審。

   それが、きみで

      きょうは、

須臾の。

   きみだということは

      なぜ?

だから

   すでに。あきらかに

      あざやかなのだろう?

ことさら俊敏に姿を見せたとき、一瞬なにが起こったのかわからない忘我をすなおにさらしてしまったものの、ふと、ふたたびの「ごめん」

   色彩が

と。

   すべて。まなざしに

声。

   このうえもなく

波紋の、もう

   あざやかだった

敷地に入ってから何度目か知れないそのひとことが、庸子にはじめてこぼれた瞬間から、ただ、むしろひとりだけ落ち着き払って仕舞っ

   なぜ?

      なんっ

た。赤裸々な心安さ。よそおいの一切ない自然に、だから知らず知らずに男たちふたりに気弱な小動物の卑小脆弱をあばかせな

   なぜ?

      なんて心地よさ!

ながら。…あれから、

   いま。ぼくたちは

      ね?

         あられもなく

と。「大丈夫だったの?」

   ささやきあってるね?

      そう、

         わたしたちは

すべてが、「おれ?」

   確実に

      ええ

         見つめあってる?

「元気だった?」かつてのままだった。スリッパだけあたらしくなっていた。テレビもそのまま。右よこに波紋が油性マジックで描いた落書きを残してある。と、謂うか消えないと謂うべきか。あきらかな見覚え。その前のソファ・セットにも。敷いてあるカーペットにも。出窓に置かれた鉢植えにさえ、明確な記憶がある気がした。多かれ少なかれ、いまや地方がことごとくそうであるそのまま、宮島にも当然少子化がすすんだ。依って、小学校中学校ともにクラス数は減少し、しかし、通例をはるかに越えて雅孝は島に在籍しつづけた。あるいは

   さびれた?

      変わったでしょ

島民の

   いや。わたしには

      どう?

ほとんどは自然に、

   心地よくなったと。その

      ここらへん、なんか

このまま

   すくなくとも

      これでいて、さ

あの先生はここで

   そのときには

      いろいろあったん

引退し、余生もここですごすものと思っていた。事実、雅孝の人望は厚かった。教頭になるという話も、しかも現場にこだわるあまり辞したという一件が、よりその信頼を厚くした。だれからも親しまれた裏表のない夫婦は、にもかかわらず決して口には出さない秘密がいくつかある。息子の波紋にも言っていない。いわゆる、墓場まで持っていく秘密の、そのひとつとして14歳の少女、庸子がさらされた苛酷。やがて冤罪釈放となる小野悦男氏が逮捕される直前の9月。多摩川河川敷の見晴らしのいい場所で強姦され、そして連れこまれた彼の居住の賃貸アパートで、かつてその妻が使っていたらしいコテで肛門と舌とを焼かれた。拒否と

   真弓ちゃん覚えてる?

      って、なんか

          いまどき、さ

抵抗の

   安田さんの。あの

      減ってない?

         建築やっても、仕事が

余地もなく

   でっかい子。先月

      鹿。あれって

         だから保くん

突っ込まれ、そして

   ね?結婚して

      こんなもんだっけ?

         あれ、大坂のほうで

加熱さられたのだ。庸子に、その日学校を出てからの時間は、なにもかも本当とは思えなかった。土手沿い、後ろからいきなり自転車が突っ込んで来たことも。髪。引っ掴まれた罵声の轟音、…と。庸子にはそう

   いないの?

      そうね。そう

聞こえた。

   だれも。わたしを

      人類絶滅

ひきずりまわされた

   救うべきひとは

      じゃない?…どう?

皮膚。脛。手のひらとなぜか甲にも傷。だから、土と草の。目に、たしかに見えている同級生が、顔色を失い、しかし立ったままただ見ているだけである事実も。だれからも見えるグラウンドの無人の上、だれかに見られているとは思えない、なんら妨害のない凶行。射精と共に急にやさしくなった

   匂い

男。その

   草の。と、

失笑。からだ

   髪の

洗ってやる

   匂い

と、抗う自由も

   肉体の。と、

赦されていないと同時に禁じられているとも思えなかったうわついた感覚のさわがしさにつれこまれた

   あ

      逃げ出してはいけないのだ

         ね?

部屋。その

   あっ

      ここから、

         だ!

惨状。ゴミ、

   なに?いま

      と。しかし

         やだ!

悪臭、ひびを入れた

   ま!

      自虐的で

         ね?

ガラスをとめた

   この感情

      確証のない仮定に

         なぜこんなにも

ガムテープの、

   あ

      わたしは

         しずかなん

日射しに褪せた傷みかたの奇妙な

   あっ

      わたしを

         ね?

なつかしさ。ようやく、…それは

   たすけて!

見棄てたものだと思った同級生が遅れて通報し、後をつけたある別の同級生少女が飛び込んだ近所の電話から警察に通報されたのだとはのちに知った。だから国勢調査訪問をよそおって鳴らされた

   たすけて!

ベル。あおむけたまま横たわらされたまなざしの、はるか下方に緊急の

   壊さないで

      遅いよ。もう

怒号。やがて

   わたしたちを

      たすけて!

踏み込む

   傷めないで

      手遅れだよ。も

大人たち。しかし、すべてが

   世界が、あした

おそすぎた。庸子に

   終わるから

残された精神的障害。異性とのわずかな肉体的接触でさえ過呼吸を起こした。それは、いまなお軽減されはしても解消されはしない。性交など、麻酔でも撃たない限り不可能にすぎない。後輩だった。雅孝は。高校時代から始まった交際。中一の、おさない雅孝に中三の、スポーツ万能でかがやきの散る山田庸子はもともと憧れの先輩だった。中学卒業の時にはまだ、じぶんが相手にされるとは

   覚えてる?あれ

      いい、

思えなかった。

   花の散りきった

      ん?いい匂い

奇蹟とのみ思われた

   桜の樹木の

      え?

高校での

   並列の下だっ

      ちがう。おれは

再会。もう、雅孝に迷いはなかった。やがて大学進学が決まった、高校卒業の直前、庸子は雅孝に告白した。だから、その、まだいちども手をつなぐことさえなかった見つめあうだけの…え?最愛の…ね?少年に「信じられる?」嘘だと、そう信じさえしたい14歳の真実。…ね?と。しゃくりあげ、もうすでに過呼吸を起こして見えた動揺の庸子に「聞いて。お願い」雅孝の「…ね?」慎重な「なに?」ささやき。「ごめん。でも、それがどうしたって謂うの?庸子さん、なにも悪くないじゃん?」

「だってさ、わたし、もう穢っなくない?子供とか?もう生めないと思う。めちゃくちゃにされて、

   もう、…え?

      微光

         受け入れて

めちゃくちゃで、

   ね?わたしは

      あ

         はずかしいほど

めちゃくちゃすぎて、

   選んでいたね?

      涙のように

         莫迦馬鹿しいほど

だから、

   きみだって

      ひとつぶの

         抱きしめて

決断?

   きみだよって

      ふるえたんだ

         あさましいほど

雅孝が、そういうのするなら、

   永遠に。もう

      きみに

         きたならしいほど

庸子はべつに

   きみだけだよって

      だから

         わたしを愛して

それでもいいよ」

「決断って?」

「さよなら」

「なにそれ」庸子は、耳に雅孝の笑った吐息のような「それが、」

   知ってる?きみは

息を「さ」

   しあわせになるためだけに

聞く。「どうしたって謂うの?

   生まれてきたんだ

だって庸子さん、こども生ためむだけの機械じゃないじゃん。おれは、ただ、ずっと庸子さんといっしょにいたい。おれが、これからはおれが庸子さんのぜんぶ、きっちりぜんぶまもってあげるよ」と、…ね。まばたき。おれでいい?過呼吸。そんなもの、その兆候もなく、過剰な過呼吸以上の苛酷さで泣きじゃくる庸子は事実上生まれはじめての、そして実質最後のキスを雅孝のくちびるにささげた。











Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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