小説 op.5-02《シュニトケ、その色彩》中(二帖) ①…共犯者たち。



昨日のサッカーのおかげで、なんか微妙な朝だったりしますが(笑)。

…まぁ、ね(笑)。


普通だったら、僕はブーイングする派ですけど(試合に負けてて他力本願はいかん、と想う)、

数ヶ月前までのチーム状態を考えると、ここで素直にブーイングする気にはなれない。

まぁ、仕方ないね。…と、いかにも日本風に口を濁してみる(笑)。

良かったんじゃないですかね。いずれにせよ突破しましたからね。


以下は、《シュニトケ、その色彩》の中篇、その二帖です。

非常に、ストーリーは辛辣なものになって行きます。この章が一番辛辣で、暴力的だと想います。

この章のために、最初、公表するのをやめようかなと想っていたんですね。


修正して、アップしておきます。そのうちアップする完全版で、細部は確認していただければありがたいです。


外国人ばかりの右翼団体の物語です。


2018.06.29 Seno-Le Ma









シュニトケ、その色彩

二帖









ひざまづいて。加奈子が言った。家畜みたいに。四つんばいになって。ひざまづいて。「なんで?」見たいから。窓越しに海が見える。ダナン市の川沿いのホテルの部屋。閉ざされた広くない空間の中に2人だけの息遣いと、感じられた彼女だけの体温に執拗な親密さを感じ、わたし、と、見たいから。ん?









「お前がひざまづけよ」私が言うのを無視して、いいから、…ね。よつんばいでひざまづいて、「もう、」そして「お前のほうが、」…ね?**、振って見せて。「たまらないんでしょ?」泣いて見せてよ。「欲しくってさ」嘲笑った声を聞き乍ら加奈子がベッドの上で、*****を上下させた。*****************、窓越しに立ったままの私になど眼をさえくれずに、「おかしいの?頭。」彼女が「******?」私の声だけを聞いた。…もとから。加奈子の、「もとからだよ」と、******?その声を、生まれる前から?。聞いて、私は「******。わたし。生まれる前から。」声を耐えて笑い、大津寄皇紀は口を開いたまま涙を流した。あの時、それは何の比喩も含まず単に穢い涙だった。それは泥と皇紀自身の血に穢れた。だらしない穢らしさを曝した、その開かれた口に、入りきらないほどの棍棒か何か、飲み込ませてやりたい欲望に駆られたが、皇紀は思いつめたまま半ば失心した表情を曝し、次の瞬間前のめりに倒れた。コンクリートの床面に、鼻をさえぶつけてしまったに違いなかった。新しい自分の血にまみれる。新しく決壊した血管が血を吐き出す。皇紀が壊れていくことにいつか私は快感をさえ感じていた。発熱があった。もっと惨めに壊して仕舞いたかった。日野市の、多摩川の河川敷、その土手沿いの行き止まりの廃屋の中に彼=彼女が逃げ獲る場所は無かった。倉庫跡地のその、二人だけの空間に連なる私と皇紀の呼吸の音を聞き、傍らに錆びた鉄骨が夜の光の中に錆びた匂いを立てて、もっと、と。残酷なほどに壊して仕舞獲るなら。一人の人間に加え獲る暴力の、或いは一人の人間が体験し獲る破綻と崩壊のあまりのみすぼらしさに、寧ろ私は恐怖した。逆光の中に見いだされた私のみすぼらしさをさえ。最早無抵抗な皇紀のずりさがったズボンを脱がせ、私はその男装を解いて*****。無残なほどに女らしい体をしていた。皇紀がどんな思いでその体を眺めたのか知りたかった。彼あるいは彼女は失神などしていなかった。痙攣的に体を震わせ乍ら、むしろ私の事など無視したままに、自分の苦痛と自分の絶望の中に埋没し、酔いしれ、恍惚とさえしている気がした。自分勝手に。************************************。**********************************。崩壊した喉笛がガラガラ猫のように立てる音の痛さの向こうで何度も咳き込み乍ら、皇紀は涙は流したが、泣きはしなかった、と思った。涙腺が壊れただけに過ぎない。皇紀は何もかも壊れていた。残酷な時間を限界まで、可能な限り永遠に限りなく近く引き伸ばすために、皇紀を壊しきることなどしない。私は*******************多摩川の土手に***皇紀を放置した。持ち去った衣類ははるか向こうの、やっと最初に目に付いたごみ収集ボックスに捨てた。出会ったばかりの、皇紀がまだ二十歳くらいの頃、その、そして、*********************************************************************************************、由紀乃は加奈子の実母ではなかった。私の舌はもう一度その肛門に触れたが、彼女は由紀乃の前夫が死んだ妻との間に作った子供だった。古い写真をスマホで写した画像データで、実母の写真を見たことが在る。加奈子とはどこも似ていないことが、加奈子が父親似であることを照明した。「広島でトラック転がしてたらしいよ」加奈子が言った。「長距離のドライバーで、名古屋かどっかそこらへんで事故って死んだって」彼女が髪を掻き上げるたびに「宮島って行ったことある?」あるの?「すごい、綺麗」髪の毛の匂いがう雑多いほどに立つ。「お父さんと一緒に?」…ないよ。加奈子の声が鼻にかかり、「汪と行った」言って、笑った。日本に居た頃、日野市にあった桜桃会の道場によく行ったものだった。雑居ビルを一棟まるごと借りて、入った正面の突き当たりに汪の社長室と同じ八紘一宇の額が飾られていた。軍服を模した制服を着た十人ばかりの男たちが畳敷きの道場に正座して、由紀乃が生け花を教えた。それらの人々の背中は身じろぎもしなかった。列の中央に明らかに小さい華奢な背中が在って目を引いたが、それが皇紀であることはまだ知らなかった。加奈子は私の髪の毛に触り、いじり乍(なが)ら、その指先は私の所有権を誰にでもなく主張して、顔を上げた由紀乃は私に笑いかけた。《一殺多生》の額の右と左に日章旗と旭日旗が飾られて、義足の汪はパイプ椅子に腰掛けたまま、おかしくも無いのに声を立てて笑う。みんな、死にたがってるよ、と汪がいつだったか言った。なんども繰り返して、彼らの忠誠を試すように、独(ひと)り語散(ごち)るように口走って「死にたい?」汪に話しかけられて、小林雄太と言う太った日本人は細い目に笑みを浮かべもせずに、「死にます」言った。









いつか中国が責めてくよ。汪が時に彼らに訓示を垂れた。中国、強いよ。「知ってる?」いっぱいいるから。一人一殺、「もうすぐ、」…駄目。一人十六殺で全滅。「死んじゃうの。」韓国も。アメリカも。「あいつ、今まで」大変よ。何人殺すの?「ずっと、」何人殺して全滅なの?「悪いことばっか、してたから」生きちゃ駄目。「もう死んじゃうの」生きようとします。それ、負けます。「もう末期だから」死になさい。アメリカは日本、「…癌なの」手放さない。今、日本、「体中、…ね。」アメリカの殖民地よ。独立しなければいけない。「切ってもくれない。」どうするの?「知ってた?」ワシントン、ニューヨーク・シティ、「放射線とか、」攻撃するよ。「抗がん剤とか、」ホワイトハウス、燃やすよ。「もう、駄目だから。」アメリカ、要りますか?「知ってんだよ、」皆さん、アメリカ、「本人も。」要るの?要らないよ。「けどさ、」アメリカ、もう、駄目。「あれで、まだ」壊さなきゃ。「死なないって」壊して、「思ってんの。」作り直します。「笑っちゃう。」国なんか、もう要らない。「死にかけなのに、」日本も、アメリカも、「自分自身が。」中国も。「なんでだろう?」要らない。どこに作るの?「死ぬっていう」新しい国、「コンセプト、」どこに作るの?「無いのかな?」ここよ、といって、汪が自分の頭を、そして胸を指さして、「馬鹿なの?って」その老いたしわだらけの指先が「でも、…ね」ときに震えているのを私は見逃さなかったが、「もう終わってる」耳打ちする加奈子の声が、発されるたびに彼女の息の温度がかかる。寄り添うように正座した至近距離に、加奈子の体温があった。私は彼らの背後で正座して、汪の訓辞を聞く。「死になさい」汪が不意に叫んで、死にます、彼らの全員が叫び返す。「死になさい」声を立てて、死にます。「死になさい」加奈子が、死にます。笑う、耳元で、そして十回近く繰り返されるコール・アンド・レスポンスが、見苦しい死にかけの老人と若い彼らの体温を上昇させて、「解散」叫んだ汪の声に応答した彼らが一度に立ち上がった時に立てた一瞬の音響の消え去らない前に、皇紀と目が合った。誰もと同じように白目を、顔を上気させて、上昇した人々の体温の湿気と、束なりあった体臭が匂う。フィリピン生まれの汪は二十代の時に海を渡った。合法的な手続きを経たのかどうなのか私は知らない。覚醒剤と銃器を売りさばいて、彼の中国語には聴解困難なほどのなまりがあったと、桜桃会の中国人から聞いた。中国人との商談にはカンボジア人の女が通訳した。ポルポト政権下のカンボジアで捕まえたベトナム人の男が若い頃の彼の相棒だった。ベトナム軍の兵士だった Lê Guyên Phương レ・グイン・フン は黎源薫、れいげんかおる、あるいは源薫、みなもとかおる、と名乗らされて、汪にゲン・クンさんと呼ばれ、レ・ゲン・クンさんと呼ばれ、かおるさんと呼ばれ、黎さんと呼ばれた。九十年代にはすでに故人で、私は彼に会わなかった。古い白黒写真の中の源薫は大柄で痩せた、目の細い男だった。十代に見えた。もう一枚の褪せたカラー写真では、太った、顔の贅肉が眼を押しつぶしたような顔を曝していた。同一人には見えなかったが、鼻筋に名残があった。加奈子がお見舞いに行こうと言ったのは、私がまだ三十歳半ばの頃だった。「誰の?」声を立てて笑う加奈子を眼で追って、私はすでに、その頃には老いさらばえはじめた私自身を嫌悪し始めていた。「あんたが自分で**したんでしょ?」思い出す。「ぼろぼろに。」その時、皇紀を**してから一週間以上たっていた。「食べるたびに吐いちゃうらしいよ」忘れはしなかったが「げぇー、って」覚えてもいなかった。声を立てて笑う加奈子の軽蔑的な表情は見慣れている。病室の中で、皇紀は顔を包帯でぐるぐる舞にされ、右の白目に出欠の痕があった。両手に、そして左足の全体に包帯が巻かれて、体を巻いたそれらは衣服の下に隠され、確認できなかった。私は、私の暴力の結果を見つめた。皇紀は表情さえ変えなかった。「元気?」声をかけて、「よくなった?ちょっとは。」加奈子は皇紀の束ねられた長い髪の毛の全体を手のひらに撫ぜてやり、「なんでもないよ」皇紀の、負傷のためにひしゃげた声は隠しようもなく女声のそれに他ならない。食事が運ばれたときに味のない、くすんだ白さを張らせたおかゆを口に運んでやり、開かれた口が不器用に匙ごとくわえ込もうとして、ゆっくりと鼻から息を吸い込みながら、「あいつ、壊しちゃって」皇紀はそれを飲みこもうとするが、

「誰?」









「…皇紀。あいつ、」舌に痛みがあるのか「なんで?」眉をひそめて「すっげぇ、むかつく。まじで」口の中で痛んだ舌が「殺さないくらい。まだ、かろうじて…」上下したのを私は「死に切れないくらい」その頬に察知する。「…ね?」言って、*****************************************ていくのを私は感じる。痛い?加奈子が、痛くない?言って、****************。その時、皇紀たちが奥多摩に合宿に行っていたのは知っていた。皇紀は桜桃会の副主将だった。主将になることは辞した。最初の首相はミャンマー人がなり、彼が死んだ後、次はベトナム人だった。皇紀は汪に寵愛された。かつての中国人たちが愛したそのままの、小柄な、愛くるしい顔立ちの女には違いなかった。纏足さえしているような、ちぐはぐな歩き方をした。加奈子の借りている六本木交差点近くの教会の前の古いマンションの最上階から、東京タワーが見えた。私の*****************************************************************************************太ももから足先まで羽交い絞めにして、「薫さんはいい人でした。いつも」彼女の身体は確かに過剰なほどに女の「彼だけ能力が高い。」それだったが、私は「頭もいい。最高の」彼女がいつも、厳重に巻かれたさらしのような「…迷わないよ。私は、」下着で服の下に「彼は。日本人なんか、みんなチキンよ。」がんじがらめにして、その身体の気配さえ外に「だって、尾上なんか、あれ、」漏れ出さないように「彼らはチキン。日本人、」拘束したが、******指先を「にわとり。ほら、でもね、」自分の鼻につけた加奈子は「みんな、自分が死にたいと思ってないから、」*****匂いを嗅ぐ。「…分かるでしょう?人も殺せないよ。」赤坂の末端のやくざが集団で道場を辞した後で、私に耳打ちし乍ら言う汪に笑いかける。皇紀は事務所スペースでお茶を入れる。目線が合う。笑いかける。皇紀は笑い返さない。まだ紹介されても居なかった。汪に惹かれたわけではなかった。**剤で二度目に捕まる前、ホストクラブを経営し始めたころに慶介が紹介した、いかがわしい夜の街の有名人の一人に過ぎなかった。自分ではいっぱしの権力者でもあり、実力者でもあるつもりだった。実際には、それは自分の半径数メートルの中での現実にすぎなかった。私が汪を離さなかったのか、汪が私を離さなかったのか、そのつながりには加奈子も介在していたし、皇紀も介在していたかも知れなかった。いずれにしても、必ずしも私たちはお互いを求め合っていたわけではなかった。「…ねぇ」言った加奈子を振り向くと、後ろに立った加奈子はそのまま私を羽交い絞めしたが、「妊娠した」そのとき、まだ会って何日も経っていなかった。「…俺?」と言ったあとで、汪に違いない、と私は確信した。汪が身の回りにはべらしている女たちはみんな彼の手が付いていることは知っていた。慶介もそう教えたし、汪の腹心の藤木博という弁護士も冗談めかして言っていたが、彼らの事務所に行けば、そんな事はすぐに気付かれた。確かに彼らはお互いのことを知り尽くしている、希薄で、すてばちで、馴れ合いの、いい加減な親密さがあった。「まさか」と言って笑って、加奈子は指先に私の顔をなぞるのだが、彼女は無理をしているような気がする。いつでも、と、思い出す限りの彼女の無理をあげつらおうとし乍ら、知ってる?「…ねぇ」彼女は言った。「知ってる?」なんであんなに女ばっか、「何人目だと思う?わたし、」はべらしてんのに「妊娠するの。最初は」…さぁ、ね。「十八歳のとき。ほんと、」なんでパパ、子どもが一人も「子どもだったんだけどさ。もう…」いないのって「いまや、結構、」…ね、「年、取っちゃったけどね」なんで?「…ね?」なんで?って、「何人めだと思う?」思わない?




Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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