小説 op.5-02《シュニトケ、その色彩》上 ④…破壊する、と、彼女は言う。
さすがにちょっと、予備知識もなく見ていただくのはいかがなものか、と言うことで、
字を伏せてある部分は、もうすぐアップする(…はずの)完全版のほうで。
完全版のほうは、いま、画像を作っています。
そんなのは、別にどうでもいい。お前の作る画像、かならずしも大したもんじゃない。
むしろ、時間の無駄。…という、客観性という名の自分の中の、冷静な他人の声が聴こえてきますが(笑)。
どうでもいいところにこだわらなければ気がすまないのです。
にもかかわらず、このブログのデザインはテンプレートそのまま、という、
意味不明な部分を笑っていただければありがたいです(笑)。
2018.06.08 Seno-Le Masaki
シュニトケ、その色彩
上
祖父の腹に刃物を突き刺しながら私は泣いていたのかも知れなかった。それは悲痛な風景だったのかもしれない記憶があって、それは、かすかに、「海、いこうよ」泣いた実感などないままに、「いつ?」私はごめんなさい、とだけ言っていた。「…昨日。」わたしが笑った音声を鳥居慶介は振り向いて、そして声を立てて笑った。「それ、不可能だから」聞く。
「じゃ、あした」笑い声を。同性愛。あまりにも自然な感情。二十代後半の頃、三年ほど私の恋人だった慶介の、90年代の黒人シンガーたちのような細かく編み上げられた頭髪を撫ぜてやると、慶介はいつも首を傾けて、髪の毛の色彩。赤、黄色、緑。疎らに染められた、黒い地に浮かぶ髪の毛のいくつかの色彩。前方に、しかし何も見てはいない視線を投げ捨てた数秒の後、私を横目に捉えて、すき?
なにが?
おれのこと。
すきだよ。
知ってる。ばらいろの***やろう。*********、犬のようにひざまづいた私の舌が*********やさしく触れた瞬間に、「くそですね」加奈子が言った。「くさった、***やろう」なんで?「**のくそやろう」なんでおれだけのものになりたいの?なんで、「**」おれにひざまづいて、「くさいぶたやろう」*********って、「****」*********いってるの?「まざーふぁっかぁ。」四つんばいになって、慶介のそれが*****侵入するとき、…ねぇ、なんで?私はいつも長く息を吐き、おれだけのげぼくになりさがりたいの?そうでなければならない完璧な正しさ。体内に慶介のそれを感じ取る時、やられるだけがとりえで、腸のひだがその皮膚の触感を感じる時、しりをふるのだけがいきがいの、蝶々が飛ぶ。*******なりさがりたくて、頭の中の、しかたないの?繊細な部分を。
*******くさってるよ。*********ゆっくりと侵入するのを加奈子は身を丸めて確認し、唇を小さな「う」の形にして、彼女は媚にまみれた眼差しを私にくれ、彼女が感じていた。私の指さきの、その粘膜をなぜた触感を。*********になりがったような眼差しで、Thanh の頭を撫ぜてやっても、もはや反応さえ示さなかった。床に目線を投げたまま、Trang に濡れた顔をふかれるに負かせ、彼はすでに崩壊していた。なじるように荒い Trang の手のひらの動きは Thanh が窒息することを求めてでもいるかのように彼の顔を無地の白いタオルごとこそぎ、わたしは眼を逸らして、Trang は 君は、私に Thanh を、見向きも 壊したいの? しなかった。泣きはらした Trang の白目の充血は温度を放っていたのだろうか? 何も言い獲ないままに私は近所のカフェに行ったが、涙に固有の 家を出た瞬間の冷たい大気が その温度を 皮膚に触れる。亜熱帯のあたたかな冬に、向こうまで広がる街路樹が曇り空の下におだやかな光に染まる。私は知っていた。周辺の樹木が硬直した幹の下で吸い上げた水分を繊維の中に満たし、葉の群れは息遣いながら光を噛み砕く。アスファルトの下の地表はのた打ち回った根に食い尽くされて、彼らは完全に、彼らが触れ獲た空間のすべてを制圧していた。素手に触れた場所のすべてを隷属させなければ気がすまない沈黙した巨体が空間に曝されている。彼らの数百年の時間軸に合わせたゆっくりとした知覚され獲ない侵攻。休まることのない成長を遂げ続けながら驚くべき多様性を彼らの形態がさらす。仮に動物だったら、彼らの形態のでたらめな多様性は、奇形に奇形を重ねた、もはや原型を確認することができない奇形種の集合に他ならない。空間にうねり、ひんまがり、根が打ちあがって、結合し、分化し、引き裂かれた枝から複数の枝が伸び、葉を生産し、その荒らあらしく、凄馬(すさま)じい形態の爆発が当たり前のように容認されていた。彼らと共に生きて在ることは、同じ空間の中でけっして同一空間を共有し獲ない事実の明示されることを意味した。触れ合う瞬間そのものの中で、それらは違う時空での出来事なのだ。交錯し乍らも、共有され獲ない、...Chào chị. 路面に …異なる時間。 プラスティックの赤い椅子を …無関係な時間。 並べただけの Chào カフェに …重ならない接触。行って、Một ly cà phê, 人々は椅子を引いて座ったわたしを見たが、Khanh カンと、Hạnh ハン と、Ánh アン と、chào em. ちゃおえん 五十代の Khanh の笑いかけた こんにちは。声を聞くが、あとは名まえを知らない。交わされる挨拶の群れが、日本人が来たよ、と彼らの一人は店の女に言ったに違いなく、知ってるわよ、と Làm gì ? 彼女が答えたのはわかった。なにしてるの? 私に振られた手を、元気か? 見て笑う。Khỏe không ? 陽気な Hạnh の声、そして舌がない Ánh が、うう、と言ったのは、久しぶりだね、と Lầu rồi không gặp. 言ったのだった。Today, off ? うう、không làm việc. 長いこと会わなかったね。うう、と、…sẽ mưa. 指先が空をさされていた。Khanhの痩せた褐色の指先。うう、と言って、六十代の Ánh は 雨が降るんだよ、と言った。なぜ彼の舌がないのか、理由は知らない。私は笑っていた。彼らにとって私はベトナム文化に理解を示す、特別な日本人だった。日本人は愛想のない韓国人よりはマシで、何をやっても彼らが気に食わない中国人よりもはるかにマシな、まだしも御しやすい Sir 扱いを求める馬鹿者たちの一種だったが、概して、神経質すぎた。まるで自分たちは人種が違うと言いたげな白人気取りの単なる黄色く野蛮な東アジアの三種の猿たち。なんで?と、私なの?由美子が言うのを、なんで、…ねぇ。すきなの?言って仕舞えばよかったのに、と、「なんで?」私は思う。お前が穢いからだよ。自己憐憫に固まった、傷だらけの手首を持った女。死ねばいいのに、と私は何度も思いながら、由美子は私の体にしがみついて舌を出し、いつか、上目遣いに、眼を閉じたままの*********。眠ったふりをしたままで、夏の大気の温度の中で、さらに覆いかぶさった由美子の体温が汗ばませたが、******由美子の舌を、そして、彼女の歯は私の乳首に軽く当てられた。汪の事務所で加奈子と初めて会った時、「知ってますか?」汪は言い、彼女は眼をあわせようともしなかったが、二人だけで「日本は、可能性を持っている。日本人は」一週間後に麻布台のカフェで打ち合わせしたとき、…ねぇ「自覚してないけど。すごく可能性が」汪は、知ってますか?言った。男になど興味など「ある国。政府なんかなくても、」一切ないとでも言いたげな醒めた眼差しを、加奈子はくれて「たぶん、」女も「機能してしまうのね。」****するって「…わかる?日本と言う国家を失っても、」知ってました?
え?と言った私に「日本人は日本人だよ。」微笑むわけでもなくて「かれらは守られてる。日本語にね。あの、」加奈子は、しかも、…ね。結構「極端に難しい、基本的に日本人にしか話せない」はげしいの。…なに、それ?「言語にね。日本人は何があっても日本人。」昨日、私、****してました。「日本国なんか」ずうっと。なんで、「なくなってもいいし、」****なんかしたの?「天皇だって本当は必要ない。ましてや」柾也さん、想って。もう、「京都なんか全焼しちゃってもかまわないんだよ。彼らは」たまんなくて。笑って、「死ぬまで日本人。外国人は日本人には絶対になれない。」意味、わかりますよね?加奈子が言った。******じゃなければ。「無政府状態にしちゃいたい。」それとも、******ですか?
汪の女の六十代に近い日本人女が「日本を。どうなると思う?」お茶を出したが「おもしろいよ。…無政府状態になっても、」汪の赤坂の事務所は「何とかなるよ。」狭い。背後の「日本なら。…ぼく、新しい世界のための」日本刀を背にして「実験、したいの。」上機嫌の汪が、その「政府組織の政治による統治っていうのが、」由紀乃と言う名の日本人女の尻を「だいたい十九世紀から、」撫ぜて、その「で、二十世紀をピークにして、」扇情的な手つきに「いまもほそぼそ続いてるよね?」女は嬌声をあげた。もう、「死にかけだけどね。」人様の前で、ほんとに、「どう思う?独裁者でも」もう、…ね。化粧さえのらない「民主主義者でも宗教でもカリスマでも何でも」老いさらばえた樹木のような「政治によって統治し、…ね?されるわけだけど、」皮膚いっぱいに媚を含んで「政治じゃないものによる統治…もう、」彼女の顔が笑みにゆがむ。「統治されているとはもはや言えない統治っていうのに、」加奈子は彼女の娘だった。死んだ前夫との間に「興味あるの。アナーキーな統治。」…ね?「韓国なんかじゃ駄目。」生まれた一人娘。「中国、もっと駄目。…日本よ。日本だけ。…ね?人類が、」夫の存命中から汪とは「…ね。」公然の仲だった。「まだ見たことの風景を、」…らしかった。「見ようよ。」と、汪が言った瞬間に、加奈子は声を立てて笑った。グラスを取って、振った。音を立てて氷が崩れ、振られるたびにコーヒーと水とが溶け合ううねるような流れがグラスの中に、黒以外の色彩さえ持たないくせにとぐろを巻いて、Khanh の笑い声を背後に聞いた。美しい Mỹ。*********殺されて仕舞った、彼女はいつも Trang と寄り添いあうようにして、ふしだらなまでに戯れあって、後ろから忍び寄った Trang に胸をわしづかみにされた瞬間に大袈裟な声をたてて、二つの似通った身体がもみあいになるのを、私は見た。Mỹ の白い肌は、まるで色素異常をきたしている気がしたほどに白かったが、褐色の Trang の肌は滑らかだった。なぜ、法律上は外国人が未婚の状態の女性を連れ込んだだけで国外追放になるような国で、年端もいかない Trang のような子どもたらしこんでしまったのか、私は理解に苦しんだ。Trang の体は魅力的には違いなかった。かならずしも、私は興味を持てなかった。いかにも******の体に過ぎない。例え、私以外に誰も知らないにしても。老いさらばえた**の女。多くの男たちの欲望の眼差しに捉えられたに違いない身体の、残酷な末路かも知れなかった。いつ、と、Trang は言った。日本に帰りますか?日本に連れて行ってくれとは言わなかった。母国以外で生きていく自身などなく、それをひっくり返してしまうほどの魅力は日本にはない。帰らないよ、ずっと、Trang が声を立てて笑う。そばにいるよ。うそです。言う。私の嘘を絶対に信じようとしない Trang にとっては、いつか私たちの関係が悲劇的な終わり方をするのは証明済みの事実で、そして彼女はそれを望まず、ときに、それがすでに起きてしまったかのように泣きじゃくって、私をなじりさえしながらも、何の対処もしなかった。道路の向こうで Sĩ シー が私に手を振った。火に灼け焦げた真っ黒な男だった。彼の笑顔の向こうにペンキの褪せた家屋が連続し、私が施工した首相官邸修繕工事の設計図を加奈子は王に送信したあと、クリスマスらしいですよ。言った。予定では、Nhgĩa ニア たちが24日に爆破するみたい。成功すると思います?
祈ってるよ。私が言うのを、なにを?彼らの成功を?「見つめていい?」加奈子は言った。ハン河の川沿いのカフェに、疎らな白人たちと大量の韓国人たちが席を占め、見事に同じ顔をした韓国人の女たちが寒そうに、それでもタンクトップから手入れされた白い肌を晒し続けた。奇妙な風景だった。「…見つめてるでしょ。おまえ、すでに。もう。」
「やだって言っても、ずっと見てる。」Sĩ の手に首を握られ後ろ手に羽根を縛られた鶏が、ばたつきもせずに、観念しきっていた。「きれいな唇。」加奈子の声を、そして Sĩ は言っているのだった。来いよ、「ずっと、ちゅって、してたい」つぶしちゃうから、一緒に食べようぜ。Sĩ が笑い乍ら言っている。
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